第20話 魔法
「フゥムなるほどのぅ」
グラディエーナは1人で呟いた。
周りは洞穴のようなダンジョンでグラディエーナはずんずんと進んでいく
もちろんここはグラディエーナのダンジョンではない。とある知人の所有ダンジョンである。
「勇者は魔王と同じく自身の素質を継承していたか。」
もしかしたら勇者が素質を残していてそれに気づいた魔王も同じように素質を残していた可能性は大いにある
「そしてその継承者のひとりが明人くんだったと」
明人と萌の両親がサクシャにより素質を暴走されたあの一件から侵入者を防ぐために敵感知の結界を張っていた。敵意あるものであればとても強く警告が入り、敵意がなくとも侵入すれば微力な警告が入る。
今回微力な警告が入りあの家に来客かと思えばその客は明人と部屋で二人っきり。モンスターだが元人間のゴシップ好きとしては気になるところで観察していたが、思わぬ情報が手に入った
「以前から感じていた強いオーラはそれかもしれんな。得体の知れない強いオーラ程こわいものは無いのぅ」
約300年生きてきたグラディエーナだがここまで強いオーラは魔王と勇者しか見たことがない。見たことがないだけで実はいるのかもしれないがこの狭い世界にそんなにも強者はいて欲しくない。
明人の強いオーラから察するにいつかグラディエーナを超える。しかしそれは人間を辞めたら、という前提である。しかしそれでも後々強者になるという怖さはある
「まぁ本家にはさすがに敵わないんじゃがな」
そもそも人間ではない魔王はともかくそれとまともに渡り合った人間の勇者がおかしいのだ。
人間に殺された魔王と聞くと魔王が弱く聞こえるがその人間がチート級に強ければ敗北は仕方ないと言える
「しっかしあのサラという女、かの魔術師そっくりじゃが。勇者の継承者と…まさかな。」
突然現れたと思えば魔術師兼プリーストだと言い出した。ノーラとあの魔術師以外聞いたことがない。
「ダメじゃなぁ。歳をとると独り言が多くなる。ココ最近悩み事ばっかりじゃからなぁ」
グラディエーナは近くを飛んでいたコウモリを無造作に攻撃する
「随分懐かしい顔じゃな。コウモリ?」
コウモリが分裂して、また結集しひとつの人の体と変化する
「やぁグラディエーナ。前の1件ではどうも。まったく、こんなところで何やってるの?古い知人にでも逢いに来た?」
「そうじゃよ、少なくとも会いたかったのはお主ではないが。もう人のことは虫呼ばわりしないのかのぅ?」
そう、そこに居たのは以前の1件で姿を見せたコウモリだった
互いに距離を置き平然と話しているが互いに隙を見せずに対峙している
「まぁそうだね。サクシャ様に怒られてしまってね。僕はあの呼び方が好きだけどあの方がダメだと言うならそれが絶対。」
「相変わらず厚い信仰心で何よりじゃ。お主の方は何しに来たんじゃ。」
平然と話すが正直ここでこのコウモリと遭遇するのはさすがに想定外だった。まともな準備もしないで強敵と会うのはまずい
(恐らくこやつはエレナや美琴と同格なんじゃろうな)
実力的には勝てる。しかしグラディエーナは杖を持っておらず魔力を調整しながら戦わないといけない。それに対して相手はこういった狭いところで戦うのを得意としている。
「いやちょっと君と話に来たのさ。」
「話?お主がワシに?」
「そうさ。話の内容は単純。君も以前起きた謎の衝撃を感じただろう?」
マリーを助ける際に起きたあの衝撃の話のことだろう
「サクシャ様はその原因が物語を壊しかねないと判断した。だからこそ、サクシャ様の尊い物語をねじ曲げて君を仲間にするようにしたのさ。」
「そこまでの存在なのか…。じゃがワシはそっちにはつかん。人間の方が面白いからな」
「そっか、それは残念。じゃあ用は済んだし帰るよ」
「ん?随分あっさり諦めるんじゃな。何がなんでもという訳では無いのか?」
「正直僕はそこがよく分からないんだ。断ったらそれでいい。それもまた物語だ。と仰ってね」
サクシャという存在は本当によく分からない。
(戦闘が始まるかと思ったが杞憂じゃったか?)
フェイクの可能性もあるがこの厚い信仰心で名前を出して隙をついてくるかは、分からない
「じゃあまた。いつか会うことになるだろうからね。」
「・・・」
コウモリはそう言い残すとその場を後にした
(本当にワシの勧誘だけが目的じゃったのか?このダンジョンに何かを仕組む様子もなかったし…サクシャと同じでなかなか食えんやつじゃ)
少しの間コウモリが戻ってくるのを警戒したがそんな気配が一切なくグラディエーナは奥に進んで行った
「相変わらず趣味の悪いダンジョンじゃ。何故アンデッドしか置かん?多種多様なモンスターがいた方が面白いじゃろ」
ちなみにアンデッドの上位種であるリッチのグラディエーナは野生のアンデッドには襲われない。
襲われても圧倒的な実力差でひれ伏させることは出来るがそもそもアンデッドは共食い等をしないため誰かの意志により動かされるアンデッドでは無い限り争うことはない
「あら、多種多様なアンデッドがいるじゃないの」
「おぉカグラ。ちゃんと居たか。ここのダンジョンはいかんせん魔力の質が悪い。お主に連絡を入れたがどうやら繋がらなくてのぅ」
グラディエーナの視線の先。壁に大きく空いた穴に足をぶらぶらさせながら座る女性がいた
浴衣のような、着物のような。陰陽師にも似た白い服を纏い赤い髪飾りをつけた見た目がとても若い印象を受けるその女性ーカグラはグラディエーナを視認するとニッコリ微笑んだ
「出なかっただけよ。あなたとは久しぶりに二人で話したかったもの」
「奇遇じゃな。ワシも2人きりで話した方が助かる」
カグラが大きく飛ぶとふわふわとゆっくりグラディエーナの前に着地した
「あなたの方はわかってるわ。石の件よね?」
「あぁ。お主に預けた星石の一つ、無くしてないじゃろうな?」
「もちろんよ。むしろ肌身離さず持ってるわ」
カグラは指輪にはめ込んである石を見せつけた
「1年間ずっとこの石を調べてきたんだけどまず第1条件としてこの世界には12個しか存在しないこと。そして12個集めると世界の内側に入る鍵になること。そしてこの石自体に微力ながらも無限の魔力が流れていること。ここまではいいかしら?」
「あぁ。ほかの3人も知っておる」
「あら、あの子も手伝ってくれているの?」
「自分で言うのもなんじゃがあやつはワシに大きな貸しがある。それをチラつかせたら手伝ってくれた」
「いい人選だと思うわ。あの子の能力は色んなところで役に立つから」
そこで話がズレたわねとカグラが1度咳払いをし、星石を指でなぞる
「最近判明したんだけどこの石、実は500年前からあるらしいのよ」
「500年前か。長いな」
「えぇ。それでこの魔力をたどって誰がこの石を作って鍵という役割を持たせたのか。それと世界の内側の元々の住人についても調べたの」
「その住人とやらが石を作ったんじゃないのか?」
「えぇそうよ。自分たちの作り上げたものを他人に踏みにじられたくないから。それで本題なんだけど言うよりも見せた方が早いわね。ちょっと見てもらえるかしら?」
そういうとカグラは指をパチンと鳴らす
するとグラディエーナの真下には平原が広がる
「これは500年前の記憶」
「記憶?もしかしてこの石のか?」
「ご名答。こんな何も無いただの平原の1部でこの石は作られたの。そして今見えている日こそが石が生まれた日」
そういうとちょうど2人の少女がグラディエーナたちの真下に迫ってくる。どうやら追いかけっこをしているようだ
見た目は至って普通の少女だが
「っ!?なんじゃあの魔力量…!」
そう、見た目とは反して2人の少女からは膨大な魔力を感じる
膨大どころでは済まない程の魔力。魔力の塊とも思えたあの魔王ですら貧弱に見えるほどの魔力の塊…いや山だった
「私も最初は同じ反応だったわ。でもあの石を作ってあの魔力を感じる地に生まれた人達ならこれくらい当然だと思わない?」
「た、確かに…」
少女でこの魔力量。ならば魔術…いや、魔法を極めた者ならどれほどの魔力量となるのか
「じゃあ、行くわよ」
少女たちは来た道をまた追いかけっこをして戻っていく。カグラとグラディエーナはそれを追いかけていく
追いかけて数分、そこには500年前とは思えないほどしっかりした建築物が並んでいた。
「現代の建築物と大差ないぞ…。現代ではコンクリート等で作られているがこれは岩か?違いと言ったらそれくらいじゃないか」
「魔術ではなく魔法が使える人達ならこんなこと容易いんでしょうね。」
魔法の偉大さに驚くグラディエーナをカグラは見つめると呟いた
「あなただって魔法が使えるじゃない」
そのつぶやきが聞こえたのかグラディエーナはバツが悪そうにそっぽを向く
「使えるがもう使うことが出来ん、ワシは落ちこぼれなんじゃよ」
「違うわ。あなたが魔法を使わないのは魔法を使えるの程の濃い魔力がどこにもないからよ。だからあなたはここの魔力が欲しい。違う?」
グラディエーナは俯く。するとちょうど顔を向けた先に立派な建築物が並ぶ中一際頑丈そうな1つの建物を見つけた
「…あれは?」
「…気づいたようね。あそこは石が生まれた場所。ここに住む精鋭魔法使いが集まり石の生成に力を入れていたの。入ってみる?」
「…あぁ。頼む」
グラディエーナは強く頷いた
魔王の素質 @sigunohon
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