第19話 2人

グラディエーナのダンジョンに転移して積もる話もあるだろうと明人は3人だけにして自分の家に戻った

明人は自分の手を開いて閉じてを繰り返し1つ息を吐いて椅子に座り込む

「どうしたの明人。帰ってきたかと思ったらそんな疲れたような顔して」

明人の母、沙絵子が疲れた様子の明人にお茶を入れる

「ありがとう母さん。いや、最近なんか色々巻き込まれててさ。」

「そうなの?危ないことじゃないならお母さんもお父さんも何も言わないわよ〜」

(危ないことしてるなんて言えるわけが無いだろ…)


「それで?星石の場所は掴めた?」

明人が帰ったあとノーラがストレッチをしながらグラディエーナに話しかける

「実は2つ見つけておる。正直これからはサクシャと石の奪いあいになるじゃろう。ワシらも本腰を入れて戦わないと行けない日が来るじゃろうし久々に手合わせしてみるか?」

「面白いじゃない。なんか見てないうちに近接戦の実力を上げてるみたいだけどまだまだって教えてあげるわよ」

そんなふたりのやり取りを見てにっこりと笑うマリー

そこでふと思い出したように

「そういえばあの時起きた衝撃ってなんだったんでしょう?」

「確かに、明人くんに何も説明してなかったけどどうなの?」

あの衝撃があったからこそあの手強い2人と一時休戦となったのだ

グラディエーナ、マリー、ノーラの3人ならまだ何とかなったかもだが明人という人質があったためどうなっていたかは分からない

「実はさっぱりわからん。物理的な衝撃ならいろいろ見当がつくんじゃが…まぁ強いて言うなら何かがこの地に降り立った線が1番有り得る」

「何かが降り立った?何それ?」

「ワシって実は魔王より長生きしてたんじゃがあやつが生まれた時、同じような衝撃が起こったんじゃ」

「つまり魔王と同じレベルの存在がこの世界に産み落とされ…え?今なんて?魔王より長生きって言った?」

グラディエーナは星石を眺めながらつぶやく

「まぁあんな存在1人で十分くらいなんじゃがな」

「いやなんかたそがれてるところごめん。モンスターには寿命がないとはいえ不老不死ってわけじゃない。なぜなら普通にダメージを受けると同様にそれが蓄積して最終的には体が崩壊するから。でもあんた少なくともあの魔王より年上ってなると250以上だけど…」

「ワシはちょっと今回の衝撃について調べるためにここを空ける。お主らはここをすきに使うといい。その代わりに留守を任せた」

「いや私の質問は答えてくれないの?」


もし過去に悲しい別れ方をした好きな子が目の前に現れたらどう言った反応を見せるのだろうか

「やっほ明人!久しぶり!また会えて嬉しいよ!」

短く整えられたショートの銀髪。それを風になびかせながら明人の目の前で仁王立ちしピースしていたその女性はどこか見覚えのある顔で。

「サラ…!?」

明人がその女性の名をつぶやくとその女性も嬉しそうに笑い、犬歯をちらりと見せた。

「おまっ!なんでここに…いや母さんが来客はあるって聞いていたがもしかしてお前の事だったのか…?」

「正解!ピンポンピンポーン!おばさんにはこっちに来た時に連絡してあってね、明人をびっくりさせようと思って内緒にしてもらってたんだ!」

「サラちゃん一昨日からまたこっちに引っ越してきたのよ。お父さんの仕事の都合で引っ越したけどこれからはこっちで暮らすのよね?」

2人の様子を後ろから見守っていた沙絵子の言葉にサラは大きく頷く

「はい!私もパパもママもここが大好きだからね!やっぱり生まれ故郷が落ち着く!」

「昔も今もほんとうに元気ねぇ…。明人は落ち着いちゃってクールな感じになっちゃったのよね」

「いいと思いますよ!明人は明人ですし!」

「そう?そう言ってくれると嬉しいわ〜。今お菓子出すからちょっと待っててね」

「はい!ありがとうございます!…明人、お部屋行こ!」

「あ、あぁ」

またなにか起こる気がするが気の所為であって欲しいと明人は思った


「あ!萌ちゃん久しぶり!」

「え!サラお姉ちゃん!?すっごい久しぶり!元気してた!?」

「元気が取り柄のサラちゃんだよ?元気元気!」

サラと明人は幼なじみというのもあり家族同士仲が良かったりする

母親同士は引っ越すその前日まで一緒にお茶しており、父親同士は飲み仲間。

萌はサラを姉のように慕っており、尊敬していた

と言うよりも本来大人しい性格だった萌が少し活発気味なのはサラの影響もあるのだろう

「昔から可愛い人だなって思ってたけど今も随分綺麗になってる!いいなぁ…」

「萌ちゃんも可愛いよ!んじゃちょっと私明人と話があるから!」

「うん!お兄ちゃん!変なことしちゃだめだよ?」

「ばか、しねぇよ」

ちなみに明人と萌の部屋は隣同士であるため変な声が聞こえたらきっと飛び込んで来るんだろう

いや、もしかしたら壁に耳を当ててどうなるか聞いてる可能性もあるが。

(でも、確かによくよく考えたら好きな女と2人きりか。さっきからそうだがやけに落ち着いてる自分はなんだ?こいつへの気持ちが冷めたか?)

「へ〜お部屋結構変わったね!子供部屋から勉強部屋になった感じ!」

「もうあれから10年だぞ?そりゃ人なら変わるだろ」

「確かにね〜。そっか、もう10年か…」

そう言いながらベッドに平然と座る辺り変わってないなと不思議な気持ちの明人。

「ねぇ明人。なんか積もる話ない?」

「それ第三者が言う言葉だぞ。あと積もる話があるだろうって憶測で言う言葉だ」

明人のツッコミにアハハと笑うサラにぽつりと呟いた

「…魔力が完全に消失した」

10年越しの再開で一番最初にする話では無い。しかし2人の中ではとても重要な話だった

「そっか…昔はちょっとだけあったんだよね?」

「あぁ。今じゃ剣振るぐらいしか出ねぇ」

「…」

ココ最近明人は強者とよく遭遇するようになり、もし自分が魔術を使えたなら。そう何度も思っていた。幼い頃なんか特に皆とは違う劣等感を感じていた。もし、自分が魔術も剣術もあったら。そう思うとどうしてもグラディエーナ達との戦いについて行かない方がいい気がしてくる

「…10年前、」

明人が暗い雰囲気を出してる中サラがぽつりぽつりと話し始めた

「私が『魔法の旅』で出てくる魔術師を目指すって言ったら明人はその横に立つ勇者になるって言ってくれたよね?あれ嬉しかったんだよ?」

「懐かしい話をぶり返すなよ恥ずかしい」

こうは言っているが明人は1年前千夜にこの話をしている

「あのお話に出てくる勇者って魔術は使えずに持ち前のスキルで何とかしてたんだよ。だから明人も絶対なれるって思ってたよ?」

「でも俺スキルなんて持ち合わせてねぇよ…この高い身体能力。それだけだよ」

「え…?」

「ん…?」

少し長い沈黙。後にサラがなにかに気づいたように手をパンと鳴らした

「ちょっとごめんね」

サラが明人のお腹に手を当てると少しずつ力を加え押し始める

一瞬黒い瞳が赤くなったその瞬間ガクンっと大きな衝撃が走る

「!?」

「ごめんちょっと痛かった?でも多分すぐ収まるから」

サラは手首をくねくねして明人の様子をじっと見つめる

「やっぱり…。小さい頃からなんか感じてたんだけどそうだったんだね」

「な、なんだよ、ていうかさっきの何したんだよ」

「私魔術師目指してたんだけど実はプリーストの方が向いてたらしくて。物語の魔術師もプリースト兼魔術師だから夢も壊さずに進めたんだけどね」

明人の顔をしっかり見つめる

表情は真剣でまっすぐ目を見ている

「今ね、人間なら誰でも持ってる魔力の器ってのをプリーストは唯一解放できる。それを使って解放したんだけど、解放したら魔力が溢れてくるんだけど明人は違う。異能が溢れてきたの」

「異能…?」

「うん。もう遠回しな言い方は辞めるけどね

最近魔王の素質を持った人が現れ始めたじゃない?明人はその勇者版。勇者の素質ってところかな。それが溢れてきたの」

魔王だの勇者だの何言ってるんだこいつという現実放棄したい気持ちに襲われるもぐっと我慢し続けるように促す

「明人が魔術を使えない理由って勇者の素質。これじゃないの?」



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