第15話 そして
明人は空中で羽ばたくそれに唖然としてしまう
物語にも出てきて勇者に切り伏され、ゲームでも少し苦労はするが倒すことの出来るその存在。
しかし現実はどうか、こちらの攻撃によるダメージが通らなさそうな固い鱗、睨まれただけで固まってしまう鋭い目。
モンスターの頂点の一角と呼ばれるが実はモンスターではなく神なのではと言われる存在。
「ドラゴン…」
改めて口にすると空気が凍りつく。
誰も動けないでいると明人の後ろでカチャっと金属が鳴りそれを合図に明人の横を素早く何かが通過した
「しぃっ!!」
「舞蝶!馬鹿野郎!止せ!」
晃の言葉で誰が通過したのかようやくわかった。
黒い線を描きながらドラゴンに一直線に向かうのは忍の舞蝶だった
晃の声も気にもせず遥か彼方のドラゴンに向けて突っ走る
「ちっ!」
晃が剣を構え走り出す
そんな2人を見てようやく動けるようになったほかの面々もそれをサポートするために各々の武器をかまえ突進するーーーー
(懐かしいな、もうあれから1年か)
もしあの時、あの10人の誰かがいなかったら明人達は全員帰らぬ人となっていただろう。
(本当にあいつらは強ぇ…)
間違いなくプロとして進めばより腕も上がり危険度の高いダンジョンでもなかなか死ぬことは無いだろう
もしかすると千夜のようにまた会えるかもしれない
そんなことを考え、家に向かっていると
「あれぇ?間違いなくこの辺だと思ったんだけどなぁ」
先程まで周りに誰もいなかったのに突然現れた声の主を伺う
声の主は少女だった
金髪ショートに緑色の目、顔は幼げがあり大きくなれば美女になるのは間違いない程だ
少女は鼻をスンスンと音を立て匂いを嗅ぐ仕草をする
「んー?この近くにグラの匂いがするのは間違いないよね…」
(グラ…?もしかしてグラさんのこと言ってるのか…!? というかこの人…!!)
グラディエーナから聞いたグラティエーナの仲間の2人ーノーラとマリーーの情報を思い返す
「よいか?明人くん、萌ちゃん。わしの仲間の2人はわしと同じく人間じゃないんじゃ。そもそも魔王軍幹部じゃったわしの元の配下じゃったんじゃよ」
「人間じゃないのは薄々わかってたけどどんな見た目なんだ?グラさんと同じで人間の世界で普通に生活してるって言ってたから人間と見分けつかないってことだろ?人間の形態の時の特徴とか教えてくれよ」
明人の言葉にグラディエーナはパチンと指を鳴らしこめかみの辺りをトントンと指で触れた
その瞬間明人と萌の脳に直接2人の映像が流れこんできた
「それに映し出されているようにノーラは金髪のショートヘアに緑目、基本緑の服を着ておるな。本当の姿は本人の極秘情報でもあるから黙っておくぞ」
「あ、あの!あなた、ノーラさんですか!?」
「ん?そうだけど、あなただれ?」
(ビンゴ!)
明人はノーラにグラディエーナが現在自宅の地下に住み着いており、稽古をつけてもらっていること等全てを話した
「とりあえず俺ん家来てもらっていいすか?グラさんが待ってるんで」
「んー。グラの事出してくるあたり信じてあげたいけど」
ノーラは一瞬にして明人と距離を詰め長い爪を首に突き立てていた
「っ!?」
「ごめんねー、つい昨日まで人間たちに追われてたの。ちょっとタイミングが悪かったかなー」
「ちょっ…待っ…!!」
明人がノーラの手を掴もうとした瞬間ポカンという間の抜けた音が聞こえた
「コラ、ワシの弟子に何しておるんじゃ」
「グラ!」
「グラさん!!」
ノーラはグラディエーナに叩かたのだろう。頭頂部を軽く擦りながら突然の乱入者に驚いていた
「ここではなんじゃ、場所を変えよう」
ノーラを連れグラディエーナの住んでいるダンジョンにテレポートで一瞬にして飛ぶとノーラは明人の前で土下座した
「ごめんね!グラの弟子だって言ってくれたのに信じてあげれなくて!さっきも言ったけどつい昨日まで人間に追われててさ!ちょっと疑心暗鬼になっちゃったって言うか!」
「ちょっ。顔をあげてください!立場が逆なら俺だって疑います!俺は平気ですから!!」
「まぁ今回ばかりはノーラにも悪気はないみたいだからワシからは何も言わんが万が一間に合わなかったらどうするつもりなんじゃ」
「悪かったって!でもやっぱり心の中では本当にグラの弟子ならグラが助けに来るかなーって思ってて…!」
「それは信頼か?甘えか?ふーむ…」
そこでグラディエーナは明人の方に改めて向き直る
「まぁさっきの件は本当に申し訳なかった、最近の人間たちはかなり強力でな、逃げるのが精一杯じゃからあまり責めないでおくれ」
(1番責めてたのグラさんだと思うが…?)
「こやつがワシの仲間の1人、ノーラじゃ。回復魔術を使えるちょっと珍しい魔術師じゃ。まぁワシよりは弱いがな」
「なんでそこで私をディスるのよ!だいたいあんたは本来の姿が人間みたいでいいわよね!その姿のまま本来の力が使えるんですもの!」
かなり重要なことを聞いた気がするが明人は無視することにした
「それで?この子にはどこまで話したのよ、仲間の1人って言ったってことはマリーのことは言ってるってことよね?」
「あらかた話したぞ、でもあれか、石についてはまだ伝えてないかのぅ」
「石?あーあれ?まだいいんじゃない?石回収より先にマリー見つけないと」
「それもそうじゃな」
「うぉい!さっきから黙って聞いてればさっきから重要なことポンポンいいやがって!本来の姿だの本来の力だの石だの何の話だ!」
ーさすがに耐えられなくなった
「あれ?何よグラ、私の本来の姿の話してないの?」
「まぁそれはお主のプライバシーに引っかかると思ってな」
「相変わらず変なところで律儀ね。まぁいいわまず本来の姿、これから教えてあげる
とは言っても実際見せるわけじゃないわ。こんな小さな空間であの姿になったら崩壊してしまうもの」
ノーラは咳払いをして腰に手を当てビシッと明人に指を向ける
「私はあなたたち人間の言うキメラ、しかもその上位種である、取り込んだモンスターの能力を全て使うことの出来るグロウキメラ!」
「いや思ったよりすげぇの来た!!」
明人の中ではグラディエーナの仲間とはいえ部下と聞いていたためリッチよりはレベルの低いモンスターだと思い込んでいた。しかし実の所は…
「ちなみにノーラはこれまでかなりのモンスターを取り込んでおってな、モンスター図鑑に載っておるキメラがかなり可愛く見えるくらいにすごいぞ」
「そんなに!?」
「し、仕方ないじゃない!なんかどんどん体が大きくなっていっちゃうんだもん!!私だって見た目は気にしてるわ!でもだからといってモンスターを取り込むのはやめるわけにはいかないの…」
先程のポーズからだんだん崩れていき気づけば膝をつき項垂れていた
「なんで久々に会えたのにこんなことに…」
「久々のこの感じにちょっと安心してるワシがいる」
「なんでよ!!」
「は、話がズレたわね、次に本来の力について。これは至ってシンプル。グラは別として私のこの形態はさっき言ったグロウキメラの状態の約3割ぐらいしか力が出せないの。でもその代わりに力が温存されてるわけだからそのリターンは大きいわ。火力やスピードあらゆるステータスが大幅に上がるのよ」
「ワシは常にこの姿じゃからそういったリターンとかないんじゃが一応強化された形態を今作ってる最中じゃ」
「形態って作れるもんなの!?それって元々生まれ持ったものとかじゃないの!?」
「いやワシが特別なだけじゃ、あと仲間とはいえ生きてきた時間が違う。まぁなんというかリッチを舐めるなってことじゃな」
「えぇ…」
「じゃ、じゃあ次石についてだけど。明人、これ見た事ある?」
ノーラが突然明人に向けて何かを放り投げ、慌ててキャッチすると手の上には小さな石があった
「これがその石?いいや見た事ないな…なんかよく見たら変なマークが見えるな…」
「まぁ世界に12個しかないからそんなポンポン見つかっても逆に困るけどね」
明人の手の中から石を拾い上げ丁寧にしまい込む
「この石の名前は星石(せいいし)。不思議なマークでしょ?」
「星石…。これ、なんでグラさん達これ集めてんの?」
「んーちょっとスケールの大きい話になるんじゃがな。ワシ、ノーラ、マリー全員でこの石を5つ所持してるわけなんじゃがまぁその辺の話はおいおい話すとしようかのぅ」
グラディエーナは石をふたつ取り出し明人に見せつける
「これは『世界の内側』に入ることの出来る唯一の手段、つまるところ鍵じゃ」
「世界の内側?なんだそれ?」
「ちょっと難しい話になるがまぁ簡単に言うとな、世界の内側を制するものがこの世の全てを手にできる!」
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