第14話 1年前(2)
「というかまさか10人中4人が制御可能な素質持ちとは…どんな確率だ?」
「私もびっくりです…!周りに素質持ちを持った人なんてなかなかいなかったので…」
「何十人に一人の存在が4人も同じ場所に集う。偶然か?」
他のみんなが就寝している頃万が一のことを考え見回りを兼ねて明人と千夜は周りの警戒に当たっていた。
「でも私は嬉しいですよ?ここの皆さんは最初は怖がってましたけど私たちのことを受け入れてくれています。全部アキトさんのおかげです」
明人がちらりと見ると顔を赤くした千夜が恥ずかしげにニコリと笑った
「どうだかなぁ。結局暴走したら手のひら返しで文句垂れるんだろ?」
「そうかもしれませんけど皆さんはちょっと腕がたつ一般人ですし。それは当然ですよ」
明人は自分が千夜に懐かれていることを何となく察していた。自惚れかもしれないがそこに恋心が混ざっていることも。
「そういえば、明人さんって彼女とかいるんですか?かっこいいですし剣の腕もプロレベルですし」
こういう恋バナもあり段々と自分のことを意識していると思わせるようなことも気づいた。情けない勘違いならいいのだが。
「実は誰とも付き合ったことなくてな。つーのも初恋を引きずってる弱い男なのさ俺は」
「初恋…ですか」
千夜が俯いたところを見て明人もたまにはいいだろととある昔話を始めた
「俺がまだ幼稚園の年長だった時、まぁちょうど10年前か?好きな女の子がいてな。その子はなかなか美人でそいつを好きなやつなんて俺含めなくても沢山いた。ライバルが多かったんだよな」
小さい頃自分の好きな人を教えるからお前も好きな人を教えろという情報共有みたいなやり取りをして驚くほど他の人と好きな人が被っていたことを思い出す
「俺はその子とほんとに小さい頃から遊んでてな、気づいたら意識してた。その子は「魔法の旅」っていう童話が大好きでそこに出てくる勇者の仲間の魔術師に憧れていて。だから俺もその横に立つ勇者になってやるって言っちまって大きくなったら2人で色んなダンジョン攻略するって約束しててな。馬鹿だよな、2人でなんかダンジョンで野垂れ死ぬしダンジョン探索がこんなに厳重になってるかなんて知ってもないのに」
今思えばダンジョンとはいえ2人っきりになったら探索に集中出来るわけない
そこで千夜がくすくす笑っているのに気づく
「小さくて可愛いじゃないですか。大きくなったら結婚する!なんて将来のことなんてわかってない子供が軽々しく口にするんですよ?可愛い思い出となるんです」
「まぁ…あれはホントいい思い出だよ」
ー「あきと!わたしたち2人で悪いモンスターを退治しておはなしのゆうしゃさまとまじゅつしとしてゆうめいになろ!」ー
ー「もちろん!おれはこの世でいちばんつよい剣士になるんだ!」ー
「ところで、その初恋の方には思いを告げたのですか?」
懐かしいシーンを思い出していると千夜の声で我に返る
「いいや、伝える前にその子引っ越しちまって。ま、もしまた会えたら告ってもいいかもな」
「会いに行かないんですか?」
「…」
千夜には言っていないが引っ越したと言っても電車で30分ほど揺られるだけで一応は会える。子供の頃は二度と会えないと思ってガチ泣きしたが実際今となっても会ってないから間違ってはなったのかもしれない
「質問を変えますね、会いたいんですか?」
「…そりゃな。古い友人と会いたくなるのも仕方ないことだと思ってるけどこれは違う理由なんだろうな」
会いたいが怖かった、流石に10年も会ってなければ忘れているだろう。あなた誰?と言われたら死にたくなる。覚えている振りをされても結局傷つくんだろうなと思っている。
むしろ10年も思い続けている明人は世間一般的に気持ち悪いとされる
というか妹に尊敬はしてるけど恋愛面はちょっと…と言われて素直に凹んだことがある
「アキトさんは好みのタイプとかありますか?」
「ショートヘアな活発女子だな。ついてくるんじゃなくて振り回してくるような子がいい。」
このタイプも初恋のあの子のせいだなと苦笑する
(そういえば千夜とは真反対なのか。)
明人は告白されてもタイプじゃないからごめんなさいという人ではなく1度その子と付き合ったらどうなるかを考えてみて断ってきた
…もし、千夜に告白されたらどうしようと考えてしまう。千夜が自分のことを好きだという確信はないがちょこちょこ見せるアプローチは気があるとしか思えない
「そうですか。でも私はアキトさんのこと、好きですよ?」
「…あっ…えっと…あ、ありがとう?」
「気づいてましたよね?私が妙にアプローチしてるって」
「まぁ…俺は鈍感で難聴系主人公じゃないからな」
「アキトさんの反応を見るに告白慣れしてますね?では趣向を変えましょう」
千夜は座る明人の前で堂々と立ち、ビシッと指をこちらに向け
「アキトさん!あなたを私の彼氏にしてあげます!」
「いやなんか上からじゃね!?」
流石に突っ込んでしまった。
「答えを聞かせて欲しいですね」
「…ごめんな…気持ちは嬉しい。ほんとに。」
明人が言葉をゆっくり紡いでいく。千夜はそれを言い終わるのを待っている。不思議な空気感、それを壊すように突如大きな音が鳴り響いた
ドォンっ!!
振動で大地が揺れる。立っていた千夜も倒れてしまうほど。明人は咄嗟に千夜を支え何事かと周りを見る
「みんな起きろ!緊急事態だ!」
そう声をかけるまでもなく全員起きて臨時体制を取っていた
揺れは収まる気配がなく上から砂がパラパラと落ちる
「仕方ねぇ!みんな!最低限荷物を持ってこのダンジョンから出るぞ!」
晃の言葉に全員が頷き出口の方に向かおうとすると同時に揺れが激しくなる
まるで侵入者は許さないとダンジョンが言っているようだ
「こんな地震起きるなんて言われてたか!?」
「いや!運営からは普通のダンジョンって聞いてる!」
「先に偵察隊がダンジョンに入ってるしこんな大きな揺れを気づかなかったなんてありえない!」
…つまり、
「おいおいおいおい!なんか崩れてねぇか!?これやばいぞ!」
「みんな!頭を伏せろ!手で覆え!あとなるべく1箇所に固まれ!」
その言葉を最後にダンジョンの地面が穴が抜け、明人達はダンジョンをさらに地下へ落ちて行った。
「…ん…?」
瞼をゆっくりと開けるとまず最初に千夜の顔が目に入った。
改めて見てもかなりの美人でもっと自分に自信を持てばいいのに。そんなことを考えてしまう。
「あ、起きました?良かったです…」
頭は柔らかいものに載せられているらしく痛みなどはない。千夜の顔が上から覗くように見えたのでこの場合膝枕をしているということだろうか。
それに気づいた明人は気恥しさもありゆっくり起き上がり悪いなと頭をかきながら言う
「みんなは?」
「皆さんは佳奈さんと麗奈さんが手当してもらってますね。全員揃っていますし軽傷で済んでよかったです」
見渡すと確かに全員いた。明人は立ち上がりちょうど手当を受けている晃の元まで向かう
「お!明人くん目が覚めたか!みんな無事でよかった!」
「そっちもあまり酷い怪我じゃないようでよかったよ。それで、ちょっと聞きたいんだけどここ、ダンジョンの地下何階か分かるか?」
モンスターと遭遇していないようだが今、この状況はとてつもなくまずい。
まず1つ目がダンジョンから出るのが第1条件だが下手に動くと落ちてきたこの階層のつよいモンスターと遭遇する危険がある。
そして2つ目、動かなかったとしてもモンスターがこの辺りに来る可能性だってある。
「詳しくは分からないがこの魔力の濃さ的に俺たちじゃ突破できないレベルだな。」
最後に3つ目魔力が濃いのは強いモンスターが現れるのはもちろんだがこのパーティーにはあまり強い魔力を当てない方がいい人物が複数いる。
「彼女たちが暴走することも頭に入れておかないとね」
素質持ちの千夜、聡太、夕、獅音の4人。この魔力の濃い状況で暴走を抑制できると本人たちも言いきれないだろう。
「ダメ、運営と連絡取れない」
「そりゃそうだ、地下だからな。こういう時のためにトランシーバーくらい準備しとけよな…」
舞蝶と晃のやり取りを聞きながら千夜の元に戻る
「大丈夫か?暴走を押さえつけられるか?」
「はい、今のところ大丈夫です。でも、私より夕さんが…」
その言葉に夕の状態を確認しようとした瞬間、明人の方向になにか鋭いものが飛んできた
後方でぴしゃっと水音がするのを聞き取った
「お、落ち着け夕!自分を強くもて!抑えろ!自分で抑え込むんだ!」
聡太が夕の攻撃をかわしながら夕に話しかけている。
(今飛んできたのは水?水だからって舐めちゃまずいな、水は自然災害で原点であり最も脅威だ)
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!」
長い髪を振り乱しているがどうにか抑えようとしているように見える。
「くっそ!俺も他のやつも大丈夫なのになんで夕だけ!」
「聡太!だめだ!もう少し距離をおけ!」
「そうだ聡太くん!気持ちはわかるが近づいたらまずい!離れるんだ!」
明人と、様子に気づいた晃の声も無視して聡太は夕にさらに近づこうとしている
ほかの人たちはまずい状況だとわかっているがどうすればいいかわかっておらずオロオロとこちらを見ている
(俺だって分かるわけねぇじゃねぇか!)
そこで異変が起きた。夕が肩を揺らしながらその場で止まったのだ。
しかし、安心したのはつかの間、夕の手に水でできた剣が生成される。それは恐ろしく鋭く、水でできているがなんでも切れそうなものだった。
明人は咄嗟に聡太に近寄り手を掴み逃げようとするが遅い。剣を大きく振りかぶりーー
「ーえ?」
明人は聡太の腕を掴んだまま唖然としていた
夕は自分の脇腹に剣を突き刺していたのだ
「私のっ…!大切な人を傷つけたくないっ…!!」
口から大量の水を吐いて膝をつきそのまま倒れてしまった
「聡太さん…大丈夫ですよ?心配しないでください…。私の水が私の元にかえっただけですし…。でもちょっと寝てますね…」
「悪かった。」
どうにか壊れずに済んだテントを張り直し全員がその中で休んでいると颯太が突然言い出した。
「明人にあんな偉そうに試すとかやっといてできてなかったのはこっちだった。本当にすまねぇ!」
「いやいや、聡太は悪くないだろ。それに夕さんも悪くないし。」
しかしこのままでは埒が明かないと言うことで最後に聡太の土下座で話は終了した
荷物持ちなど提案されたが1人だけへばってるのは困ると却下し本人は納得してないようだが他全員が気にしてない、更には何も出来なかったことを負い目に思っていたこともあってそこまで求めなかった
ちなみに夕はとっくに目が覚めており全員に精一杯謝ってテントの外で反省していた
今回の件は誰のせいでもなく、もし悪があるなら4人をパーティーに連れてくと言いきった明人だろう。
(でもそれはあの4人に失礼だ。俺自身を正当化しようって訳じゃないがあの4人を連れてきたのは間違ってないはずだ。事実、夕さんの件では誰も傷ついてないしな)
その時、千夜、聡太、獅音の3人がぴくりと反応し目が鋭くなった
「どうした?」
「外に、まだ遠いですけど強い魔力の反応が」
「やっぱり」
「アンタも感じたか。さっきの地震の前にも本当に微かに感じた魔力だ」
聡太は夕を呼んでくるとテントから外に出て直ぐに戻ってきた
「おい!早くテントから出ろ!これはまずい!!」
聡太の言葉にみんな一斉にテントから出る。
その真正面に。それはいた。
ー1度羽ばたかせるだけで強い風を起こす大きな翼ー
ーどんな盾でも簡単に引き裂けそうな鋭いつめー
ー振り回すだけで万物を破壊できそうな太く、長い尻尾ー
ー凶暴そうな牙から微かに漏れ出す全てを灰燼に帰してしまいそうな煉獄の炎ー
ー鋭く睨まれるだけでその場から動けなくなりそうな凶悪そうな瞳ー
それは真っ直ぐ明人達を見据え油断なく空を羽ばたいていた
明人達の敵意を感じ取ったのか威嚇するようにそれは大きく吠えた。
ビリビリと肌で感じとり、大地が揺れる。まるで先程の地震は自分が起こしたと答え合わせをするかのようだった
「まじ、かよ」
「こんな難度の低いダンジョンにいるはずない…!」
それぞれがそれぞれの反応を見せる中、明人はそれの名前を呟いた
「ドラゴン…!!」
ドラゴンの方も聞こえているはずないのにそれに合わせるかのようにもう一度吠えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます