第13話 1年前

「ダンジョン探索のバイト希望の方はこちらに並んでくださーい」

女役員の言葉に10人の男女はゾロゾロと女性の前に並び始める

(やっぱ知らねぇやつばっかだな…冬真無しの実力調べとはいえやっぱちょっと不安だな)

10人の中の1人、明人は1番後ろに並ぶ。

冬真を誘えばきっと着いてきてくれただろう。しかしいつも一緒にいれる訳でもないし、冬真1人だけ連携が取れても意味は無い。こうやって初めて会う人達と息を合わせられるようにしないといけないのだ

(まぁあいつが一緒にバイトしてくれるのは優しさもあるんだが…)

いかんせん明人は魔力適性が0だ。その代わりに剣術は常人を超える。こんな極端な能力を持つ人を初見で明人と連携を取れるはずがない。それを思っていつもバイトについて来てくれるのだろう

(でもぱっと見た感じ結構いい感じのパーティーになったんじゃないか?ヒーラー、タンク、剣士、魔術師。いい感じの数字で成り立っているな)

白銀の大きな鎧を纏う騎士、ローリングスター(トゲトゲの鉄球に棒がついている武器)を肩で支えるアーマーウォリアー、眼鏡をかけた腰に薬を携える女薬師などなど、100点中100点なパーティー編成となっていた

(ん?1人たらなくないか?さっきまで俺含めてちゃんと10人いたはずだが…?)

というかさっきまで明人の前にはほかの9人が並んでいたはずだ。

もう1人をキョロキョロとさがしていると

「あ、あのっ!!」

「うぉっ!?」

突然の背後からの呼び掛けに咄嗟に振り返る

「すすすみません驚かせてしまって!」

「いやこちらこそ気づかなくて悪い…大声出して悪かった、大丈夫?」

後ろにいたのは眼鏡をかけており黒い長髪、容姿はとても整っているのだがオドオドしていて、そんな性格とは別に前衛のようで軽い篭手などをつけていた

「はい…ありがとうございます…私、相田千夜って言います。」

「俺は相川明人。苗字似てるね」

千夜は明人の顔をじっと見つめ「アキトさん…」と呟いた

「それで、俺に何か用?さっきまで前に並んでたよね?」

「あっはい!実はその…私前衛でして、アキトさんも見た感じ前衛のようでしたので同じ前衛としてご挨拶を…」

挨拶に来たのは間違いない。しかし、他にも前衛はいるためまだ用件があるはずだ。

そう考え明人も千夜のことを見つめる。

「そ、それとですね。茶化してるとか冗談という訳では無いんですけど私魔術を使えないんです…」

「え?」

「多分あなたも魔術を使えないのでは無いですか?私とは違う理由だとは思うんですけど…」

(驚いたな…)

実は明人が魔術を使えないと1発で見抜いたのはこの千夜という女が初めてだ。とはいえ決して今まで会ってきた人達が相手の魔力を推し量る技術が無いわけでは無い

人間の先入観、「魔力適正が0なんてことはありえない」という考えから混乱し何らかの方法で魔力を押し殺してると捉えられてしまう。

しかしこの女は魔術が使えないと断言して見せたのだ。魔力を推し量ることが出来ないのか?否、自分とおなじ境遇の者だと判断したのだ。

「驚きました、私と同じで魔術が完全に使えない人がいるなんて…!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!千夜、君は一体何者なんだ?」

ほかの8人がゾロゾロとダンジョンの中に入っていく。

その足音で誤魔化すように小さく耳元で囁く

「私、不思議な能力を持ってるんです」

「不思議な能力?」

「えぇ世間では魔王の素質と呼ばれる能力なんです」

割と最近現れ始めた強弱の差が激しい異能持ち、それらは魔王の素質持ちと呼ばれている。

「…」

「世間では暴走している人達がいるみたいですが私は小さな頃から能力を使えてましたし暴走はしません。信じてください」

真っ直ぐな目で明人を見つめる

(はっきり言うと信用はできる。暴走する危険性があるならばここには来てないし、その力を利用しなにかする気なら俺に言う必要が無いからだ)

「俺だけに言うのはなんでだ?」

「私が万が一暴走したらあなたに力ずくでも止めて欲しいんです…あなたになら殺されてもいいです」

スラスラと答えるがその覚悟は本物で先程から明人から目を背けない

「…わかった。暴走する前提で話を進めるのも縁起悪いからな。万が一その時がきたら俺に任せろ」

その言葉に千夜は儚く笑った


ダンジョンのバイトはバイトでも2日もかかる長期バイトだ。

そして食費や衣類などは運営が出してくれておりそこら辺を含めるとバイト代を含めて実質5万円ほど。

たかが5万に命をかけるのかと考えてしまうが基本アルバイトは安全性の高いとされるダンジョンをさらに詳しく探索してもらうというのが本命なのでちゃんと注意さえしていれば危険に晒されることも無い。

そして今、大きなスペースをみつけテントを貼り、火を起こしそれを10人が囲うように座り込んでいる。ちなみに明人と千夜は隣同士に座っている。

危険度の低いダンジョンは基本弱いモンスターしかいない。弱いモンスターは火を恐れるので襲ってこない。しかしもしここが危険度の高いダンジョンなら賢いモンスターが多く、火を見つければ人間が近くにいることを知っているので襲いかかってくる。

「さて、ここでみんなの名前と能力についてちゃんと聞いておこうか」

パンと手を叩き一人の男が言った。金髪で見た目は20歳後半辺りだろうか。チャラチャラしているがどこか生真面目な雰囲気を感じる。腰には大きな剣を携えていた。

「俺は葛山晃。見た通り剣士を生業としている。実力は中の中ぐらいかな。そんなに強くないが情けないからって見捨てないでくれよ?」

おどけて見せてると少し空気が軽くなった気がした。この中で最もリーダーシップに長けているのではと思えるほど全体を見ている。

次に右隣の女性が手を挙げた。マスクで顔が半分見えないとはいえ美人というのが分かるしとても若い、おおよそ20代だろう

「私は黒田舞蝶。シノビが役職で飛び道具が得意。」

淡々と語るが元からそういう性格なのだろう。黒い衣服を身にまとい腰には短剣が多数携えられていた。

続いて横の眼鏡をかけた縦ロールの髪型の女性が杖を握りしめながら自己紹介を始めた

「わ、私安藤麗奈って言います…!私はプリーストで皆さんの支援しかできませんけど逆に支援ならできます!頑張ります!」

プリーストは回復やバフ、破邪の魔法、対魔魔法など使える魔法はそこそこの魔術師より多いがゴブリンなどの一般的なモンスターには攻撃手段が一切ない。しかしアンデッド、ゾンビなどの通常の攻撃が通らない相手には逆に独壇場となる。パーティーに1人か2人は欲しいところで、次の女性がプリーストのようなので安心だ。1人ではほか9人の支援や回復などをしていたら手が負えない可能性があったため、2人いるに越したことはない。

「私は安藤佳奈。さっき自己紹介したあの子の姉です。プリーストの腕はあの子の方がすごいけど私は簡単な攻撃魔法が使えるわ。

この中では葛山さんがリーダーみたいだし頑張って使い分けて欲しいわね」

先程の麗奈の方が19歳くらいの見た目に対しこちらは25歳くらいか。結構大人びており片耳だけにつけたピアスとショートヘアが相まってとてもクールな印象がある

指名を受けた晃の方もお手柔らかに頼むとおどけて見せた

「じゃあ次は俺ですね。衛宮雪隆。見た通り剣士ですが逆に剣しか使えません。」

メガネに白衣という格好に剣を携えていて髪はボサボサだが元々そういう髪型なのだろうと思う

(どこをどう見たら剣士になるんだ…

ていうかなんで剣士なのに白衣着てんだ…?)

そんな視線を送ってしまっていたのか雪隆がにこりと笑うと

「常日頃からこれ着てるので落ち着くんですよ。仕事とプライベートのメリハリを付けられる大事な勝負服です」

なるほどと感心していると次の人の番となった

「ぼ、僕は後藤獅音です。世間で言うところの魔王の素質、『影操作』が使えます…」

「そ、素質持ち?最近よく聞くあれか?」

「そ、そうですね…でも僕は制御できるようになっています…!暴走はしません!」

オドオドした話し方だが暴走はしないと言うのは強く言いきった

しかしやはり不安が残るのか晃と舞蝶の方から処分した方がいいのか?いやでも…という会話が聞こえる。それほど素質持ちが起こした事件は壮大なものだった。酷いところではその地の大地が消滅したとまで聞く

それはこの場にいる全員が知っていることだ。多少ダンジョン慣れしてるとはいえダンジョン+一抹の不安となると崩れる可能性だってある。目の前の脅威をどうするか、そんな空気になってしまうが…

「別に本人が暴走しないって言い切ってるんならいいんじゃね?俺は獅音を信じる。それに素質持ちはこいつ…千夜もみたいだからな」

明人の言葉にさらにざわつき獅音と千夜を交互に見始めた。しかし1人の男がじっと明人を見ていることに気づいた

「なぁ兄ちゃん、能力を見てもないのになんでそんな信用出来る?もしかして言ってないだけで兄ちゃんも素質持ちだったりするのか?」

「いや、俺は魔術が使えないただの剣士だよ。そこらにいる普通なヤローだ。あと俺はこいつらを完全に信じてるわけじゃない。暴走したらこの手で止める。それだけだろ?」

「その危険をなくそうって話だろ?暴走した後じゃ遅いと思わねぇか?」

「それは正しい。でも持ちたくもない能力持っただけで差別される世の中なんて反吐が出るな。暴走する危険があるから排除する。ごもっともだ間違いなく正しい。でも排除されたくないから必死で制御することができるようになった。だとしたら信じてやらないのは可哀想だろ」

明人の言葉にほかの面々もポカーンと間抜けな顔をするも確かにと頷き始める

「別に全員信じろとは言わない。俺が責任を持つ。だからこいつらをパーティーに入れてくれ。このとおりだ」

明人自身ここまでする必要があるのかと我にかえってしまうが誰も傷つけてないのに傷つけられることを恐れて誰にも寄り付かれなくなった人物を見たことがある。それをもう見たくなかったというのも本音だ。

「たぁーっ!おもしれぇ兄ちゃんがいたもんだ!すまねぇな試すようなことしちまって。建前だけで言ってるんじゃねぇかって思っちまってよ」

男は明人の横にたち肩をパンバンと叩いた

「実を言うと俺達も素質持ちでな。建前ではいいこと言ってても本当はいいふうに思ってないやつを何度も見てきてな。」

「俺たち…?」

「あぁ俺の彼女の雨宮夕も『水化』って素質持ちでな。そんで俺、悪い紹介が遅れた。前澤聡太。俺も『竜言語』って素質なんだよ」

聡太の後ろで青髪の女性がぺこりと頭を下げた。聡太はオラオラ系のちょっと怖そうな人に対して夕は大人しめの性格らしい。

「そんで?兄ちゃん?あんた名前は?」

「俺、相川明人よろしく頼む」

こうして明人含めた10人の短く、そして長く感じてしまうほど濃いダンジョン探索が行われるのであった

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