第12話 雌猫
「アキト!キミをウチの彼氏にしてあげるにゃ!」
明人の目の前に立ちビシッと指を指す美少女
ショートカットの茶髪で目はくりくりしておりニカッと笑う口元からは犬歯がちらりと見える。
「えっと…どちら様?」
明人の知り合いでは無い、こんな印象的な性格をした人なら忘れることもないだろう。
交際宣言をするくらいなので明人と何か関わりがあるように見えるがそんなことも無い
しかし女の方はアキトと面識があるらしく覚えていないことに不満を持ったのかプクーっと頬をふくらませる
「アキトには1発でわかって欲しかったけど去年とは格好も話し方も違ったから無理もないにゃ」
そういう割には不満そうではあるが…
「ウチの名前は相田千夜、以前キミとダンジョンのバイトに出向いむぐぅ!?」
女ー千夜の口を大急ぎで塞ぐ
「本当に千夜か後でたっぷり確認させてもらうがもしマジならなんでお前がここに?!」
「プハァ!…なんでって言われてもなぁ。頭のいい学校は面白くないのにゃ。だから家から近いここに今日から通うことになったんだにゃ。アキトがいることも知ってたし!」
「そういえば家近いっつってたな…」
明人はちらりと時計を見る
「もうすぐホームルームが始まるか…、しゃーない。放課後開けとけ」
「え!?放課後デート!?」
「さっきの告白だがNOだ、前も言ったろ…」
(何だこの女は…)
冬真の前の席で行われる明人と千夜のやり取りに冬真は首を傾げる
過去にダンジョンのバイトは明人と一緒に出向いたことはあるが千夜という女は覚えがない。格好が違うらしいがダンジョンを一緒に潜った女などほんの数人だしその中にその名前はいなかった
明人が1人で行ってその時にパーティーメンバーになったことがあるとかだろう
それなら納得出来る。しかし
(なぜ、咄嗟に隠した?)
この学校ではバイトは禁止されておらず勉学と両立できるならむしろ社会勉強のためにやれと校長が言い切ってしまうほどだ
(バイトしたという行為を隠した線はないな。ではダンジョンに潜った時に何かあったということか?)
千夜がフラフラと立ち去ったところで話しかけてみることに
「明人、あの千夜という女。なんだ?」
「…お前にも話さないとなって思ってたんだが…放課後時間あるか?」
「生憎どっかの誰かさんの家に行かなくちゃいけないからな」
どうやら話してくれるらしい。
明人の性格を知っている冬真としては隠していたつもりではなく言うタイミングを見失ったと考えていた
(どんな爆弾を隠し持っているのやら)
そんなことを考えていると先生と相田千夜が教室に入ってきてホームルームが始まった
放課後、近くの自販機でそれぞれジュースを買った3人。公園に立ち寄り、明人と冬真はブランコに腰かけ、千夜はその隣の鉄棒でぶら下がっている
「まず、さっきもこいつが言いかけたが俺たちが出会ったのはダンジョンのバイトでだ。…俺はお前とのコンビネーションはそれなりにいいとは自負してるがお前に甘えていたりもする、だから俺一人で向かったんだ」
この世界のダンジョンのバイトは腕に自信があり、協調性のある人間ならば正直給料のいいバイト、そのため思った以上に人気がある
ベテランなら4人、中級者なら6人、バイトなら10人でダンジョンは潜るものとされ人数が集まり次第ダンジョンに入るという形式で探索が行われている
つまり明人と一緒にダンジョンに潜ることになった9人のうちの1人が千夜ということ
「それはいい。大体は察してたからな。問題はお前がなぜ、咄嗟に隠したかということだ」
「それなんだがな…」
「別にいえばいいにゃ?アキトの親友なら信じてくれると思うにゃ」
千夜の言葉に明人は冬真を見つめる
「…信じなくてもいいが俺は真実を言うだけだからな」
明人は冬真から目を逸らし真っ直ぐ正面を見据え
「俺ら含めて10人は竜殺しなんだよ」
冬真も真っ直ぐを見据え少しの沈黙の後小さくそうかとつぶやいた
「信じるか?」
「お前は言った。真実を言うと。ならばそれは真実なのだろう。俺の親友はそんなつまらない冗談を言うやつではないからな」
冬真は地面を蹴りブランコで前後に揺れる
キーコキーコとさびた音を立てながらゆっくり動く
「しかし、なぜ黙ってた?竜殺しとは誰もが憧れる二つ名だ。」
「あれ?お前知らないのか?ドラゴンの血ってのは浴びたやつには膨大な力を手に入れるんだ。俺と千夜、残りの8人は異常にまで強力な力を手に入れたんだよ」
「?。それも含めて黙ってる必要はないと思うが?」
明人はあーと困ったように声を上げるとブランコから降り近くにポイ捨てされた空き缶を拾う
それを空高くに放り…
「なっ!?」
明人により投げられた空き缶は遥か彼方まで飛ばされ風圧に耐えきれず上空で破裂した
「みんなの憧れの竜殺しがここまで常識外れなんて誰が思うんだよ…」
明人の元々の運動神経は一般人をはるかに凌駕するほどだがこれは確かに常識外れだ
明人がこうならばもしやと千夜の方に目を向けるも千夜の方はおーと拍手を送っていた
驚きもしてない、そう、まるでそれが当然かのような反応
「本当は腕力だけじゃなくて魔力も上がったはずなんだが俺は魔力適正がゼロだからなどうやら全部腕っ節の方に回されたらしい」
明人は右手を握ったり閉じたりを繰り返しブランコに座り直す
「俺の知らないところでそんなことがあったんだな。しかしなんで俺にも言ってくれなった?俺たちはその程度の仲なのか?」
「いや、それは…」
「そんなもん大事に思ってるからに決まってるにゃ。明人はドラゴンを殺したその日ウチたちに妹ちゃんにも黙っておくって宣言したのにゃ。」
大事に思ってるからこその思いやり。男同士では絶対に言えない言葉に2人とも赤面する
「そんなイチャイチャされても困るだけだからウチからも質問。アキト、その剣どうしたのにゃ?キミとダンジョンのバイトに行ったのは1年くらい前。その間に武器を取り替えるなんておかしくないけどその武器、そこら辺で取り扱うようなものじゃないにゃ」
「これは俺の師匠からの贈り物だよ。師匠についてはちょっと言えねぇ…すまん」
ちなみに冬真は明人が初めて学校に持ってきた時に気づき、聞いてみるも同じ返しをされていた
「気にしないで欲しいにゃ。それよりも2人ともお客さんのようだにゃ」
千夜の視線の先には黒いフードを目深まで被った男がそこにいた
「さすがウチが見込んだ男にゃ!まさか同性愛者にまで追いかけられるとは!」
「茶化すなよ…千夜、下がってろ」
「は?この千夜って女も竜殺しだろ?一緒に戦った方がいいんじゃないのか?」
正体は分からないが冬真は千夜という女に勝てる気配がしなかった
野性的な勘がそう訴えてくるのだ
「こいつは切り札なんだよ、有効な相手には有効だが効かねぇやつにはほんとに効かねぇ」
「んー、キミ達も襲われたことある感じにゃ?大丈夫、ウチに任せて欲しいにゃ!」
千夜は明人と冬真の前に立ち手を構える
「いけるか?」
「余裕にゃ。にゃはっ☆」
完全に意識をこっちに向けているしか見えない隙がありすぎる千夜にフードの男は手を構え、攻撃魔術を放つ。
千夜に直撃し、煙がたつも明人は焦っているように見えない
「あいつはな、素質持ちなんだよ」
「…なるほど。あの女が安全ということはお前が保証するということか」
「あぁ。昔は普通の見た目の女の子だったんだが見るからにわかりやすい能力なんだよな」
煙が消え千夜の姿が見える
「にゃはっ☆」
舌をペロリとだし構える手をよく見ると手の先、つまり爪が1mほどまで伸びている
「あいつの能力は『猫化』脊髄反射で攻撃を躱し、長い爪で攻撃する優秀なアタッカーだ」
「ウチを倒したかったらーーー」
千夜が一瞬で男と距離を詰め、爪が伸びた手を大きくふりかぶる
「ーーーアキトぐらい強い剣士を連れてくるんだにゃ☆」
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