第11話 魔術
夢を見る。いつまでも続くような闇の中をさまよい続ける。そんな夢。
前に進むためにもがいていたらとても愛しい光が私の前に現れる。私は心を痛めながらもその光を振り払い前へ進もうとする。
しかしその光は私のことを追い続けて…
「ん…あれ?」
沙絵子が目を覚ますと2人の子供たちが近寄る
「おかぁさん!!」
娘の萌が勢いよく飛び込んできてそのまま押し倒されてしまう
「えっと…萌?どうしたの…?」
沙絵子が困ったように明人に目を向けると明人は頭をかきながら答える
「散歩から帰ってきたら父さんと母さんが倒れてたんだよ。ほら、最近2人とも結構働いてただろ?だから起きるまで起こさないことにしたんだけどこいつが起きなかったらとか言い出してな」
そういい萌と沙絵子をゆっくり引き剥がす
「母さん疲れてるから。今はゆっくりさせてあげようぜ」
「えっと。成仁くんは…?」
「父さんならもう自分の部屋に行ったよ。」
「そう…」
2人の子供たちが眠りに行ったことを確認し成仁の部屋の扉をノックする。起きていたのかすぐに返事が帰ってくる
入ってみたら珍しく眼鏡をかけており本を読んでいたようだ。
「成仁くん…」
「沙絵子。」
大丈夫かどうか聞くだけなのに何故か言葉が上手くまとまらず二人の間に沈黙が流れる
少し時間が経った頃に成仁の方から優しく声をかけてきた
「体の方は大丈夫かい?2人の話を聞く限り僕と君は倒れていたようだからね。僕も人のことを言えないけれど君も相当無理していたんじゃないか?」
家事の方は君に任せっきりだからな…とつぶやくも沙絵子は咄嗟に首を振る
「家事はたしかに大変だけどやりがいがあってとても楽しいの。だから問題はそこじゃないと思うんだけど…
私よりも成仁くんの方よ。あなたに何かあったらどうするの。」
「す、すまない。君や子供たちのためだからと仕事を頑張っていたがどこか無理していたようだ」
2人とも大事な人のためならいくらでも頑張れる人であり、世間的にいえば最高の親であった。
「…実はね、眠っているあいだ不思議な夢を見たの。真っ暗闇の中を無我夢中に突き進んでいくの。周りを全部押し退けてひたすら前に進んでいくそんな夢」
「沙絵子もか。実は僕もそんな夢を見ていてね。こんな偶然あるんだね」
2人が同時に倒れ、その2人は同じ夢を見る。こんなこと偶然で済ましても良いのか。
「なんでもない夢だったはずなのに今思い出したら凄い不安になっちゃって。夢の中の私は自分のことばかりを考えて周りを振り払っていたわ。なにか大切なものを押し退けてた。でもそんな私を止めるのはその大切なもの。」
「あぁ。自分のことばかり考えると自分を正当化したくなる。しかし第三者から見たらその止める者が正しいのかもしれない」
もし夢の中の自分が突っ走っていたことが間違った行為ならば、あの光たちは止めてくれていたということか。
「私も道を間違えるかもしれない。その時がもし来たら…」
「あぁ、僕と子供たちが手を引っ張って引き戻すよ」
その逆も然り。2人はやや強く抱き合った。
2人が目を覚ます前、つまり今から30分ほど前。明人、萌、グラディエーナは横たわらせた2人を前に明人は重々しく口を開く
「父さんと母さんのあの件は黙っていよう」
「そ、そうだね…」
明人の提案に萌は即答する。
「なんでじゃ?お主らの両親2人はここら辺では本当に実力者じゃ。先の件を伝えたら一層警戒すると思うが?」
この中で最も実力者のグラディエーナは不思議に思ったらしく首を傾げる
「父さんと母さんは強いよ。それは間違いない。でも2人の馴れ初めなんか俺も萌も死ぬほど聞いた。武力行使だった過去だったらしい。でも2人ともそれは望んでない。
それに、俺らは普通の暮らしをしたい。見えない何かに怯えるのはゴメンだ」
これはただの願望。警戒を怠るのはありえない。あのコウモリのような強者なんて隠れているだけでまだまだいるのだろう。また両親が巻き込まれる可能性だってある。
しかし逆にあそこまでの強者ならもう一般人となってしまった両親の警戒なんかいとも容易く貫いてくるのではないか
「いやもうそれ開き直りってやつじゃな?ワシとしてはそういう考え嫌いじゃないが2人は平気なのかの?」
「まぁそもそも今回の件で父さんと母さんを巻き込んだサクシャってやつは許せねぇ」
明人は少し嫌な夢を見ているのか少し険しい顔をした2人を見つめる
「でもまぁグラさん、俺決めたよ」
グラディエーナから貰った剣をなで、神妙な顔で告げた
「サクシャってやつ俺がぶっ潰す。殺しはしないぞ。自分の罪を償ってもらわねぇとな」
「あっはっはっはっは!!面白いことを言うのう明人くん!!ワシは魔王の側近として、そしていつか殺すターゲットとしてやつを見てきた。しかしやつの弱点を付くことができるものなんてあの勇者ぐらいじゃった!」
何か琴線に触れたのかお腹を押え、苦しそうに笑い続ける
「あぁやっぱり!人間というのは面白いのう!ワシも元人間じゃがな!!これこそ!これこそ正しく!人間の持つ狂気!!」
「グラさん何が面白かったか知らないけど父さんと母さんを起こすのはやめてくれよ?」
「あっはは…はぁ…もちろんじゃ、そんな怖い目を向けないでくれ、ワシはもう地下に転移で戻るからの」
どれほど面白かったのか涙が出るほど笑ったグラディエーナはすぐにいつも通りに戻る
「あぁ今日はありがとうグラさん。おかげで助かったよ」
「礼なんかよせ。ワシは好きで人間に手を貸しておるからな。じゃがまぁもし本気で恩を感じておるならわしの仲間探し手伝ってくれるかのぅ?」
「あぁもちろんだよ。もう1週間近く経ったら夏休みだ。その時には手伝わせてもらう」
「そもそも私たちは手伝うつもりだったよ?」
「そうかそうかありがとう。2人とも。それではまたのぅ」
そういい、グラディエーナは一瞬にして消えた
「お兄ちゃん…危ないことはしないで…」
「…ごめん」
謝ることしか出来ない明人を見て萌は涙を流す
「バカ泣くな。俺の馬鹿みたいな運動神経と根性はお前がいちばん知ってるはずだろ?
後先のこと考えても仕方ねぇ。母さん達が起きるのを待とう」
今は親たちが無事に元に戻ってくれたことを喜ぼう。そう考え2人はくらい沈黙の中両親が目覚めるのを待ち続けた。
そしてそれから何日か経った、
(前は俺らしからぬシリアスな顔見せちまったからな。萌を安心させるためにもいつも通りおちゃらけた感じで行こう)
明人の前にとある美少女が立つ。
それはもちろん萌ではなく自分と同じ制服、なんなら同じクラスで…
「アキト!君をウチの彼氏にしてあげるにゃ!」
(いやおちゃらけるどころかドタバタ系になっちゃってるぅーー!!?)
明人の心情を理解しているのかしていないのか目の前の美少女はとてもいい笑顔を明人に向けた
「にゃはっ☆」
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