第7話 世界の真実

「えーまず人間たちの定着しつつある間違った常識を直していくぞ。モンスターはダンジョンに籠って人間に無害とか思われておるらしいがはっきり言う。それは間違いじゃな」

グラディエーナは魔術により椅子と机を出し2人に対面に座るように指示する。

「モンスターたちは出ないじゃなくて出られないんじゃよ。しかも地下から近い部分にいるような弱いモンスターはな。」

「でもさっきグラさんダンジョンから出てきたモンスターは秘密裏に討伐されているって言ってなかった?」

「萌ちゃんの言う通りじゃ。じゃがそれはもう少しあとの話。順を追って話すから待っておくれ」

グラディエーナはどこから話すかのぅと呟いて少ししてから明人を見つめた

「明人くんに質問じゃ。なぜ、ダンジョンは地下にあると思う?」

「え。それが常識なんじゃ…でもたった今間違いを直すって言ってたし…そうだな…さっきグラさんが言ってたけどダンジョンは魔力が濃いから?」

「正解!地上と違いダンジョンは魔力が濃い、地上の魔力なんかわしの本気の半分も出せないくらい薄いのぅ」

じゃあグラディエーナの本気って。そう思う2人をよそにグラディエーナの話は続く。

「地下に行くほど魔力が濃くなるのも2人はわかっておるな?ダンジョン最奥にはダンジョンの主がおってそこに近づけば近づくほど強力なモンスターに出くわす。これは正しい常識じゃな。…さて、ここでじゃが地下深くの階のゴブリンみたいな雑魚モンスター、これの強さってどれくらいじゃと思う?」

地下深くは魔力が濃い。たとえ雑魚モンスターとして有名なゴブリンでももしかしたら歴戦の猛者とタメはるくらいに強いのかもしれない。そう予想するが萌の答えにより明人の予想は崩れた。

「個体差にもよるけど基本的ゴブリンが濃すぎる魔力を浴びると最期までは分からないけど死んじゃうんじゃないかな。だから強さも何も無い」

「大正解じゃ!ちょっとこれは意地悪な問題じゃったが流石は萌ちゃんじゃな。では次は逆のパターンじゃ。最強のモンスターとして有名なドラゴン。こやつが魔力の薄い地上に現れた場合どうなる?」

「この流れだと魔力が足りなくて死ぬ…?」

「大正解!魔力は濃すぎても、薄すぎてもそのモンスターに相応する濃さの魔力じゃないと死んでしまうんじゃよな。魔力は人間にとっての酸素だと思ってくれてもあながち間違いではないぞ。さて、では先程の萌ちゃんの質問に答えていくぞ。」

グラディエーナはここからが本番だと言うように座り直す。

「先程ドラゴンのような強いモンスターが地上に現れたら魔力の薄さに耐えきれずに死んでしまうと言ったが強いモンスターは魔力を体内に温存することが出来る。それを消費してそれなりの時間は地上にいることが出来るな。」

「なるほどな。グラさんが地上ウロウロしてる時もそれを利用したって感じか?」

「その通りじゃな。ワシは最高1週間は地上に入れるのぅ。まぁそれはともかく地上に出てきたモンスターが秘密裏に討伐されている。でもモンスターは強力なモンスターじゃなければ魔力に耐えきれずに死んでしまう。これのからくりじゃが実はシンプルなんじゃよ。」

強力なモンスターが体内に温存した魔力を使って地上に現れたというのも考えられるがそれこそ人間の手じゃ負えないしニュースにもなるだろう。

「実は魔王の素質を持つものは本当にごく少数だが10年前からちょこちょこ現れてたんじゃよ。まるで実験しているかのようにな。しかし人間では能力に対応出来ずに死んでしまい不審死として片付いていた件だってある。それをきっかけにモンスターたちは自分の主たちを探し求め地上に現れ始めたんじゃ。多分じゃが魔王の素質をこの世界にばらまいている黒幕は魔王に1番近い素質を持ってる。あるいは魔王の生まれ変わりかもしれんな。魔王は常に不思議な魔力を垂れ流しておってな。そんな存在が地上に現れたことでダンジョンと地上の魔力に大差が無くなりモンスターたちは混乱しつつも地上に出てしまったんじゃな。」

「つまり今ってダンジョンと地上の魔力の差がないからモンスターがまだ出てくるってことか」

グラディエーナは重々しく頷く

「まぁそれでも人間でも対処できるくらいのモンスターじゃからどうにかはなると思うが…」

モンスターではあるがリッチは元は人間の身。人間が傷つくことに抵抗があるのだろう

「さて、ここまででなにか質問はあるかの?だいたい話は終わりなんじゃが」

「じゃああまり関係ないけど一つだけ!グラさんの仲間の2人はいつから離れ離れになったの?」

「今日で三日目じゃな。あの二人じゃからどこか近くのダンジョンに潜り込んでおるかもしれんし対して心配はしておらんが魔王派の組織に捕まったりしてたら困るしなるべく早く再開しておきたいのぅ」

((いや超心配してるーーー!!))

そんなツッコミが顔に出てしまったのかグラディエーナは気まずそうに目をそらす。

「と、ところで2人とも!時間はあるかのぅ?軽く手合わせしてみようか。手合わせと言ってもワシは手を出さん。2人の攻撃をさばいていくだけにしようと思う」

明らかに話を逸らしたが2人はそれに乗る

「じゃあどっちから行けばいい?」

「む?2人がかりでかかってこい?ワシは上位モンスターの一角リッチじゃぞ?」

「グラさんから全然魔力を感じない…普通魔力って漏れるはずなのに制御されてる…」

萌のつぶやきに明人は驚愕し一周まわって呆れる。こんな芸当ができる人に手合わせとはいえどうダメージを与えるのか。そもそもダメージを与えることの出来るビジョンが見えない。

「リッチにはダメージを負っても多少なら自動回復できるスキルがある。気にせずに来たらどうじゃ?あるいはあれか?時間が無いのを言い訳に逃げるのか?」

見え見えの挑発に明人は1度ため息を吐く

「どっちにしろ俺らの実力を知らないとグラさんの特訓メニューも組めないだろうし。1回だけ行かせてもらうぞ」

そういい萌を後ろに控えさせ明人は剣を抜かずに鞘に入れたままで切りかかる



「いい線は行っておるんじゃが2人ともまだまだじゃな」

いつの間に取り出したのかお茶を飲みくつろぐグラディエーナの視線の先にはぜぇぜぇと息を整えつつ倒れているふたりの姿。

最初の手合わせはほとんどお遊びだった。グラディエーナは間違いなく攻撃を捌いていただけだったが明人の渾身の一撃や萌の全火力を乗せた魔法全てを軽くあしらってしまった。それを見た2人からはみるみるやる気がなくなっていき諦め始めていた。

「これが実践じゃったら52回は首が飛んでたのぅ」

「な、なんで1分くらいの手合わせでそんなに死ななきゃなんねーんだよ!」

そんなツッコミにグラディエーナはフームと腕を組む

「明人くん、お主は後ろの萌ちゃんの事を気にしすぎじゃ。魔術を放つタイミングを見計らうのはいい事じゃが1分間の中で半分以上後ろを気にしてたら隙をつき放題じゃ。お主1人ならちょっとは変わったかもしれんがわしからすれば1ミリも3ミリも大差ないしの」

「ぐっ…」

「次に萌ちゃん。まだまだ発展途上なのはわかっておるがそれでも弱すぎるぞ。実戦経験ないのは分かるがもしかしたら魔力量や魔力適正の高さに心のどこか慢心しておったのかもしれんな。確かに全火力を乗せた一撃は脅威じゃったがまだわしの喉元に届かん。」

「うっ…」

思った以上に厳しい言葉に2人は呻くしかない

「特訓には飴と鞭を良い割合で与えれば効果は出ると言うがワシはそうは思わんな。ワシは変にお主らを甘く育てたり逆に厳しすぎるように育てたりはせん。アドバイスしか送らん。それを自分で理解して強くなることが手っ取り早い特訓じゃと思っておる。こんな面白くない特訓じゃが着いてこれる自信はあるかの?」

その言葉にふらつきつつも2人は立ち上がろうとする。しかし体の限界が来てしまっているため倒れふすも気持ちはグラディエーナに届いた。

「お主らは若いのに本当すごいぞ。明日から本格的に特訓じゃ!ここから地上に戻る術式は組んである。体が動くようになったら言っておくれ」


「今日はありがとうグラさん自分の未熟さを痛感したよ」

「私も…。才能の無駄遣いってこのことなんだなって思った…」

歩ける程度に体力が回復した2人はグラディエーナに感謝を告げる

「いやいや2人はワシを超えるほど強くなると思っておるぞ。特に萌ちゃんお主は本当に魔術の才能がすごい。使い方を間違えなければ間違いなくこの世界トップの魔術師になれる」

「えへへ…そうかな、嬉しい」

素直に照れる萌を明人は優しく撫でる

「伸び代で言ったら萌ちゃんが上じゃが明人くんもなかなか剣の才能がすごいのぅ。じゃから成長すると見込んでこれをお主に渡す」

グラディエーナは先程までローブで隠れていたのだろう、腰に携えていた剣を明人に渡す

「護身用に持っておったがワシは魔術しか使わんからのぅ。剣が可哀想じゃし君なら上手く使えるじゃろう」

明人はグラディエーナから渡された剣を抜く。鋭く尖り、剣特有の光の反射を放つ漆黒の剣。パッと見ただけでも明人の持っている剣とは格が違い、かなりの逸品だと分かる。

「いいのか?こんなの貰って。」

「構わん構わん。それはワシのはるか昔、そう200年前の頃の友人のものでな。新しい剣が手に入ったから要らんと捨てようとした所を勿体ないからとワシが貰っただけじゃよ、さて2人とも、親御さんが心配するだろうしそろそろ転送するぞー」

グラディエーナが魔術を起動し始めた時明人はふと気になったことを聞いてみる

「なぁグラさんあんた200年前から存在してるみたいだけど勇者とか魔王って知ってる?」

「おー知っておるぞ。懐かしいのぅ。なんならその戦いを見てた数少ない存在でもあるな

あの童話は本当だということだろうか。また来る時にあの本をここに持ってきて聞いてみるのも悪くないか。そんなことを考えてた時

「だってワシ元魔王軍の幹部じゃし」

そんな爆弾が放り投げられた

「「えーーーーー!!!?」」

2人は素っ頓狂な声を上げながらそのまま転送されていった。

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