第6話 銀髪の美魔女

「…ーい。おーい。もしもーし。聞こえてるかー?お、目覚ましたようじゃの」

聞いたことない女性の声に起こされ、目を覚ました明人が最初に見たのはこちらを覗き込む銀髪の美女だった。

妹の萌もなかなか美人と思っていたがこの美女は別ジャンルの美人だ。大人の雰囲気というものを漂わせ妖艶な笑みをこちらに向けてくる。

「よーし。萌ちゃーん。お兄ちゃんが目を覚ましたぞー」

美女は明人が目を覚ましたのを確認し明人から離れていく。

明人は上半身だけ起こし美女の行先を見る。妹の名前が出たのもあるが頭が少しぼうっとするのもあり考えが上手くまとまらない。

「グラさんありがとうございます!助かりました!!」

妹の声が聞こえその後タッタッタッと軽快な足音が聞こえる。

「おにぃちゃん大丈夫!?ごめんね私の不注意で…」

「うーん、まぁなんとか大丈夫か。ところであの人たちは…?」

妹と仲良くしていたらしいし寝込みに襲撃されなかったことを考えると敵ではないと考えにくいがあの美貌は人間ではありえない。

「あの人はね。このダンジョンの主のグラエディーナさん。」

萌の紹介に合わせてグラディエーナは手を振る。

「ダンジョンの主は少し違うって言ったはずなんじゃがな。ワシはここに勝手に住み着いてる居候みたいなもんじゃよ。まぁ名前長いし萌ちゃんと同じようにグラと呼んでくれ。よろしく頼むぞ明人くん」

見た目とは反対に年寄りのような言葉遣いが気になるが気にしない方がいいだろう。

「ちなみに種族はリッチじゃがリッチとして生まれてから人間には危害は加えずこんな感じでコソコソ暮らしておる」

「ちょっ!?ちょっと待て!?リッチ!?リッチっつったか!?」

明人は頭の中でリッチの情報を思い出す。

リッチ。魔術の真髄を極めた果てのアンデッド。一般的なアンデッドは1度死んだ人間が未練などによりもう一度生を受けることが出来る。疲れなど無縁な体に加え浄化魔術以外に致命的な攻撃はない。

しかしリッチはまず自分からアンデッド化する儀式を行う。その儀式の代償としてアンデッド化せずに灰になる可能性もあるが成功した時のメリットが絶大。まず、人間ではありえない魔力を手に入れることの出来る。次に種族による魔術攻撃での追加ダメージ。さらに対魔魔術以外の魔術からの攻撃、及びにレベルの低い物理攻撃は効果がないという能力がある。

危険度で聞かれれば本職が出会ったとしても10人以下なら絶対に逃げ出せとの事。

そんな圧倒的にまずい相手が目の前にいる。そう思うと震えてしまう。

「さっきも言ったがワシは人には危害を加えたりはせん。ワシは目的のために動いておるだけじゃからな。だからそう身構えんでくれ。2人はちゃんと客人としてもてなすつもりじゃよ」

グラディエーナの言葉が嘘か本当か分からないが少なくとも2人の命が握られているのは間違いない。しかし相手は明人と萌2人は瞬殺できる程のアンデッド。今のところ危害を加える気がないようなので大丈夫だと考える。

「じゃあそうさせてもらう…まずはいきなり入ってきて申し訳ない」

「構わんよ。むしろあの程度の術式で慢心してたワシにも非がある。それに勝手に敷地内に岩を置いてそれをダンジョンへの入口にしてしまった。どちらかと言うとワシが悪いんじゃよ」

それはそうとも言えるが力こそ正義なダンジョンの中で自分たちより圧倒的格上の方に非があるというのは気が引ける。

「俺らは別に気にしてないよ。でも今思ったんだけどなんでうちに入口を置いたんだ?なにか特別な理由が?」

「む?気づいておらんのか?あの家の地下からものすごい魔力を感じてのう。ワシも力を溜め込む必要があったし一時的に居座らせて貰っておった。」

すごい魔力?と明人と萌が首を傾げる。

「もしかしたらじゃが萌ちゃんが魔力適性が人より高いのは魔力が高い場所で育ったからかもしれぬな。もし地下に出入りするようなことしてたら魔力適性250は超えてたんじゃないかと思う」

「なるほど…いや、あれ?ちょっと待て?」

魔力を常に受け続けたら魔力が上がるのは知っている。萌もそれの影響で魔力が上がった。それも理解できる。しかし…

「俺も同じようにこの上で暮らしてるのになんで魔力適性0なんだ?」

「萌ちゃんからだいたい聞いておったがまさか本当とはのぅ。ワシもむしろ知りたいくらいじゃが…しかし明人くんも単純に魔術の才能がないという訳では無いみたいなんじゃよな」

腕を組みうーむと唸るグラディエーナ

「どういうことだ?」

「魔術の才能が無い者って魔力適性0じゃないんじゃよ。10から20くらいはあるはずなんじゃ。それに明人くんがここに降りてきてからここに住むモンスターたちが出てこようともせん。確かになにか強い気配を感じるが明人くんこそ何者なんじゃ?」

言ってる意味がわからない。明人はちょっと運動神経には自信があるただの高校生だ。人よりちょっと強いくらいで負ける人なんてそこら中にいる。

そうグラディエーナに伝えるとどこかで聞いたことあるのぅとつぶやき黙り込んでしまった。

「グラさんから聞いたんだけど今仲間を探してるんだって。」

「仲間?」

萌が少し辛そうな顔をしながら先程聞いたのであろう話を始めた

「うん、この頃モンスターってダンジョンの中にいるって言われてるでしょ?実はちょっと違くて。街中に現れたモンスターはこっそり討伐されてるんだ。グラさんが本当の目的を達成しようと街に出たら突然襲われたらしくてね。その時に仲間とは一緒だったみたいなんだけど危害を加えられないから逃げるしかなくてその時にバラバラになったみたいなの」

「本当の目的って?」

「そこまでは聞いてない。多分言ってくれないと思ったから。」

仲間達を見つけるのはその本当の目的とやらを達成するためなのだろうか。

一抹の不安があるもののグラディエーナしか真相は分からないし今考えても無意味なのだろう。


「さて明人くん、萌ちゃん。突然なんじゃが今この世界に危機が迫っておる」

突拍子もなく話し始めたグラディエーナの言葉に2人は固まる。

「先程萌ちゃんから聞いた不審者の男なんじゃが間違いなくワシが秘密裏に調べていたとある組織の下っ端じゃな。」

「魔王復活を目論む組織だろ?グラさんが調べるくらいにはやっぱ危なかったりするのか」

「そうなんじゃよ。夜にならないと好きなように動き回れんしもし動いて目撃されたら今の時代すぐ拡散じゃ。全く…200年前はこあこまで文明は進んでおらんかったんじゃがな」

「あ!もしかして不審者情報とは別にあった銀髪の女性って…」

もしかしなくても。と言うやつなのだろう。

というかここまで目立つ銀髪な人はなかなかいない。

「まぁそこら辺の話は置いとこうかの。この世界に迫る危機というのはな、魔王復活だけじゃないんじゃ。」

話をまとめるとこうだった。ある日突然魔王の能力の一端を持つものが一斉に現れた。今日遭遇した男もその1人。[凶爪化]というかつて魔王が使っていた能力だ。

特別強力な能力を手に入れたものがいれば闇の中を昼間のように見ることが出来る目の[暗視]という能力のように戦闘に使えない能力を手に入れてしまった者もいる。

そんなもの達がこれからも続々と現れる。

なぜ突然そんな状態になってしまったか不明だし何者かが仕組んでいた可能性だってある

「誰が黒幕みたいな目安はついてるの?」

「うん?そんなもん組織のトップじゃろ。ワシがどれだけ調べてもトップの情報だけは手に入れられんかった。完璧すぎるからこそ怪しいんじゃよなぁ」

そこであ、そういえばと区切る

「組織の者達はな魔王の能力を[魔王の素質]と言っておった」

魔王の素質。わかりやすくて納得だ。

「まぁ組織のことはのちのちでいいんじゃが魔王の素質持ちのもの達の討伐を手伝って欲しいんじゃ。ワシだけじゃかなり行動が限られてくるんじゃよ。もちろん危険な目にあえと言っているもんじゃからワシが2人を見違えるレベルに鍛えるからの」

「どっちにしろ下っ端吹っ飛ばした話は組織で流れるだろうし俺はマークされると思うから大丈夫だが萌は…」


男との1戦での萌の状態を思い出したのか明人が萌の方をちらっちらっと確認する。しかし萌としてはむしろ手伝いを立候補するところだった

(リッチであるグラさんに魔術を教えてもらえれば私も一人前の魔術師になれる!)

こんな事件になりそうな1件を利用するのは間違っていると思う。しかし手っ取り早く実力を伸ばすにはこれしかないという思いもある。

「私は大丈夫。グラさんよろしくお願いします!!」

萌がグラディエーナに頭を下げると明人はほっとしたような顔をして頭を下げられた本人のグラディエーナはニコリと笑う。

「じゃあちょっと2人とも訓練に入る前に少しモンスターとかダンジョンについて詳しく教えるぞ!」

こうして明人と萌の兄妹にグラディエーナというリッチの師匠ができたのだった。


2人がグラディエーナと話している同じ時刻。真っ黒な帽子を被った青年が鼻歌交じりで明人たちの家に歩みよっていく。鼻歌が聞こえるはずなのに誰も青年を気にしている様子はない。

「さぁて!悲劇の閉幕かな?喜劇の開幕かな?楽しみだ!!」

青年はとても楽しそうに黒く笑う。

歯車がまた回り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る