第4話 魔王復活
明人と冬真は男と対峙する。
剣は街中ということもあり構えはしないがいつでも鞘から抜けるように手は近くに置いておく。
「こいつなんの用だよおっさん。こいつの恋愛対象はタメの15歳から17歳までだぞ。彼氏は今募集してないらしいからそういう類なら帰っとけって」
「お前噂の不審者か?蛇の刺青にショートナイフだから間違いないとは思うが」
萌を庇う形で立ちはだかる明人と冬真。目はしっかり相手を見据えすぐに対応できるように身構える。
「ったく。素直にどいてくれればいいのによ。もう一度言う。そこを退け、そこのお嬢ちゃんに用があるんだよ。その用にはお前らは必要ねぇ」
不幸か幸いかこの辺りにはこの4人以外に人の気配はない。いや、もしかしたらこの状況ですら仕組まれている可能性だってある
そうなると人払いの結界。音質遮断の結界などなど使えるレベルの魔術師だと予想される。明人にとって魔術師は分が悪い相手である。接近戦を持ち込みたいのに相手は遠距離からの狙撃を可能とするからだ。事実明人は腕のたつ剣士だが魔法をメインで扱うモンスターでは1人では勝てなかった。
話は逸れるがモンスターとはそもそも魔王軍の異形と言われており、有名どころではゴブリン、スライム、コボルト、そして最強のドラゴンなど様々な種類がいる。今はダンジョンに引きこもり魔王の復活を待っていると言う噂も。そしてダンジョンだがこの世界では実は人間たちの暮らす街とほとんど隣合っていると言っても過言ではない。山奥にあれば下水道の一部がダンジョンだったりする。
噂によれば人間の暮らす街の地下にもあると言われている。しかしモンスターはダンジョンから出てこないのであまり危険視はされていない。
「あまり手荒な真似はしたくねぇんだよな。隠密行動を心がけろって言われてるし…まぁそのためにわざわざこんな結界張ってもらったんだが。んじゃあまぁ」
男は手をポキポキと鳴らし明人達を威嚇する。
「とっとと終わらせっか!」
男は腰あたりに手を落とし構える。それは例えるなら空手の構えだ。そういう武術かと警戒したがすぐに杞憂に終わった。
男の手が黒く染まっていく。爪の先端まで真っ黒に染まったと思ったら爪がどんどん伸びていき、例えるなら悪魔のような手に気づけば変化していた。
「変身魔術か!?」
「いや、魔力が感じられん!魔術を放つ際多少は魔力を周りにオーラのように放つはず!これは魔術じゃない!」
「ということは…!」
もしあの凶悪そうな腕が本物だとすると2人がかりで本気で挑まなければならない。そう、後ろで怯えて声すら出せない萌を庇いながら戦うのは少し厳しい。
これは萌が情けない訳では無い。単に実戦経験がなく、中学校での擬似戦闘では低位のモンスターしか戦わないからだ。しかし明人と冬真は過去に何度かアルバイトでダンジョンに潜り、死にかけたことだって何度もあり強敵を前にしても立ち上がることは出来る。
「萌だけ逃がすか?」
「あほか。あいつの狙いは萌ちゃんだ。萌ちゃんを逃がした場合あいつは俺たちを無視して萌ちゃんを追う。それにさっきの言葉的にこいつにはなにか手助けしている仲間がいるはずだ」
こんなに大声で話しても誰も来ないし来る気配もなければさすがに結界が張られているのも確信となる。仲間がいるというブラフだとしてもどちらにしても萌をそばにおいて戦う必要がある。
「作戦会議は終わったか?それじゃあ行くぞ!!」
男は腕を構え2人に突っ込む。人ならざるスピードで突っ込んで来たため2人も遅れながらもそれぞれ武器を抜き放ち迎撃する。
2人も負けじと男に飛びかかりーーーー!!
「なんだこいつよっわ」
明人は剣をしまいながら言い放った。
「警戒を怠るのは阿呆だぞ。たまたま相性が良かったに過ぎん」
冬真も同じく刀をしまい、大の字で横たわる男に近づく。
「おい。お前なんで萌ちゃん狙ってんだ。誘拐が目的か?それとも強姦か?」
「萌の前でそんな話…」
「大丈夫おにぃちゃん。ごめんね冬真くん続けて」
冬真は確かに萌ちゃんのことを考えてない発言だった許して欲しいと頭を下げ男に向き合う
「で?目的は?」
「く、くそ…なんだお前ら。ただの高校生じゃねぇのかよ、
…俺らの目的は魔力適性が200超えてるやつの回収だ。そこの嬢ちゃんにはちょっと力になってもらおうと思ったわけだ。」
「は!?お前魔力適性200!?前聞いた時110って言ってたじゃねぇか!」
「そりゃ魔力適性0の兄がいれば誰だってそうなるだろ」
萌が明人に頭を下げ続けるがそれを尻目に冬真の尋問は繋がる
「ようは魔術師達を集めるってことか。それの理由は?」
「そ、それは…」
ここで初めて男に怯えが見えた。他言することで誰かに咎められるのだろうか。
確かになにか組織に所属していたなら裏切り行為だし折檻は行われるだろう。
男の目があっちこっちと動いた後重々しく言う
「魔王の完全復活だ」
「魔王の復活?なんのために?」
「んなもん世界を支配するためだ。」
つまり世界征服ということか。思ったより子供っぽい夢物語のようなものが出てきて冬真も顔が固まる
そんな時だった、はるか遠くから勢いよくなにかが飛んでくる
冬真は咄嗟に伏せるもそのなにかは冬真を狙っていたわけではなかったようで男の首に刺さる。ドスッという鈍い音をたて男の方を見たらそこにはナイフが刺さっていた
「ちっ!」
明人は萌の目を覆いそれを見せないようにし、冬真は飛んできた方向を見つめるも人影はない。
「とりあえず警察に連絡だな。萌、あまり思い出したくないだろうけどもう少し頑張れるか?」
「うん、大丈夫…」
「いやー危ない危ない。あの子が情報の流出止めてくれなかったら僕が動かないといけないところだったよ」
黒い帽子をかぶる少年はまた、空に佇む。日はとっくに沈み夜の空が幻想的に広がる。
少年の足元には交番があり、とある3人が1人の不審者の起こした事件の取り調べを受けている。
「同胞1人を失ったのは少し辛いけどリターンもあった。あの3人も僕の書いたシナリオに大事な役者。」
少年はクックックッと笑う
「3人には悪いけどまだイベントは起こるよ、今のままじゃ間違いなく死ぬはずだがなんとかなる。そう言うシナリオだから間違いない。」
少年は交番から出てきた3人を眺めてまた笑う。そして少年の姿は笑い声を残して消えていった。
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