第3話 先触れ

帰路についた明人は冬真を連れて自宅に向かっていた。

「いいのか?今日もお邪魔して。俺としては帰っても親がいないから大人数で食卓を囲えるのはありがたいが。おばさんに迷惑かかるようなら遠慮したい」

「お前それ毎回言うよな。別にいいんだって。母さんもお前の家庭の事情把握してるしむしろ毎朝母さんから連れて来いって言われる俺の身にもなれよ」

「そうか。厚意に感謝する」

明人は礼を言う相手が違うだろーよとケラケラ笑う。

冬真の家は裕福だが両親が共働き故に冬真が寝ている間に帰ってきて、すぐにまた仕事に向かうとの事。家政婦でも雇うかという話も出たが冬真は拒否。人の手を借りていてはいつか一人暮らしした時困ってしまう。今のうちに慣れておく必要がある。そんな理由で家に帰っても冬真1人ということになる。

自分に厳しくする冬真だがやはり家族の温もりというものは忘れられずに…

(いや。たまに遊びに行くだけでも明人のご両親はとても手厚く歓迎してくれる。歓迎と言っても客としてでは無くどちらかと言うと息子として。俺がこいつの家に高い頻度で行く理由は…)

「あっ!お兄ちゃん!!それに冬真先輩も!偶然だね!」

家に向かう2人に声をかけたのは、さすがは美男2人に大声で声をかけるだけの度胸はあるほどの美少女だった。

少女は薄い茶色のロングヘア。若干ウェーブがかかっておりところどころ跳ねてるように見えてそういう髪型。

目元が長く黄色の瞳をしており笑顔からちらりと見える八重歯も相まって猫を連想する女の子だった。

「おー萌!部活終わりか?ご苦労さん」

「萌ちゃんおつかれ。今日も元気そうで何よりだ」

2人は軽く労いつつその美少女-萌が自分たちの元に来るまで立ち止まる。

「いや今日は委員会だったんだー。結構長引いちゃってさ、なんか不審者が現れたからその対処法についてだって。今の子供たちはそんなにヤワじゃないのにねー」

「ダメだ萌ちゃん。最近は魔術師殺しって呼ばれる能力を持った奴らがいるらしい。俺と明人は剣があるが魔術しか使えない人はお手上げらしいぞ」

いつになく真剣な顔な冬真に萌もは、はいと返事する。

「ま、逆に魔術しか効かないやつに対しては俺は完全に無力だからなー」

明人が魔術を使えないというのをバカにするものはいない。昔やけくそになりつつも魔術を使えるように努力していた明人を知る2人なら尚更。

「一応聞いておくか。その不審者って特徴とかってどんなのなんだ?野郎に手出す物好きはいないと思うが退治するって意味合いでは知っておいた方がいいかもしれないしな」

明人の言葉に冬真も頷く。

「黒いローブに顔に蛇の刺青目付きが悪くて腰にショートナイフを携えてるんだって」

「The悪者って感じだな。そこら辺うろついてたら1発で通報だぞ」

事実目撃されて不審者扱いされているのだから間違いないわけではあるが。

「しっかし蛇の刺青か。なんかどこかで聞いたことがある気がするな」

「あれだ。200年前いたとされる魔王の側近の1人。アルドゼルガ。」

「聞いたことあるぞそれどんなやつかちょっと覚えてないけど」

「それとね。人には危害を加えてないんだけどなんか銀髪で全身真っ黒なローブを羽織った女の人が…」

話しながら歩く一行だが冬真が手を伸ばし2人を止める。

目の前に明らかに先程あった情報の男と思われる人物がたっていたからだ。

確信がないのはフードを深くまで被っているため顔が分からないから。しかし明らかに3人を待ち構えていたかのような佇まいから怪しい人物と認識したのだ。

「なぁおにぃさんたち。後ろの嬢ちゃんに用があるからどいてもらえるか?」

顔を上げてニヤリと笑うその顔には目元を通る蛇の刺青が確かにあった。



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