30,魔王の気持ち
「……」(もきゅもきゅ)
ちら、と妾は大賢者の方を見やった。
酔っ払ったリーゼが大賢者に絡んでいるところだった。
……ふむ。
まぁ別に助けてやってもいいのだが……あいつ、なんだかんだで嬉しそうな顔してないか……?
思えば、リーゼが来てから大賢者はよくリーゼの方を見ているような気がする。
確かにリーゼはとても美人だ。それも凜々しい雰囲気の美人である。
……大賢者はああいうのが好みなのか?
見た感じはブリュンヒルドと雰囲気が似ていなくもない。いかにも女性らしい美人という感じではなく、どことなく中性的な感じとでも言うのだろうか。
以前、妾は愛人の一人や二人くらいは認めてやると言ったことがある。
人間社会ではどうか知らんが、プラネスでは強い戦士が何人も配偶者を囲うのはわりと普通のことだ。
これは性別に関係ない。強い戦士ほど配偶者が多いのは普通のことだった。強い男には何人もの妻が、強い女には何人もの夫がいた。
本妻にはむしろ、それくらいの器量が求められた。いくら
だから妾も以前はあんな風に口では言ったのだが……何だか、リーゼの方ばかり見ている大賢者に対して時折ムッとしてしまうことがあった。
いまも何となくすっきりしない。
何だかんだで嬉しがってるんじゃないかこいつ? と思うと何やら釈然としないものを感じるような、感じないような……そんな感じなのだ。
……おかしいな。
妾はそんなにも
いやいや、別にこいつが誰を好きになろうが、それは全てこいつの勝手だ。
妾は別にこいつと結婚するつもりはない。
というより、その資格はないと思っている。
こいつの前世をめちゃくちゃにしたのは妾だ。
こいつが何と言おうと、その根本的な責任は全て妾にある。
妾は〝魔王〟だったのだ。その事実は生まれ変わろうが消えたりしない。
こいつには今世では幸せになる権利がある。というか、ならねばならないと思うし、〝ミオソティス〟としてはなって欲しいと願っている。
それを邪魔するような
立場上、許嫁という立場ではあるが……こいつに誰か好きな人間ができたら、それを邪魔しようなどとは思っていなかった。
その時こそ、妾はどこかへ消えよう――と、そう思っていたのだ。
妾は〝ミオソティス〟ではない。妾は〝魔王〟なのだ。今さら〝ミオソティス〟としてこいつに好意を伝えるつもりは毛頭ない。
……と、そう思っていたのだ。本当に。
だが――
「ちょっとシャノンきゅん!? いまどこ見てました!? もしかして胸を見てませんでしたか!?」
「見てませんよ!?」
「もうオマセさんですねえ、シャノンきゅんは……しょうがないれすね。ちょっとだけなら触ってもいいれすよ?」
「えぇ!?!?!?!? いいんですか!?!?!?!?」
「ダメに決まってるれしょうが!!!!!!」
「あいたー!?」
大賢者は
……なにやっとんじゃあいつは。
……むう。
しかし、やっぱりあいつ何だかんだで嬉しそうじゃないか……?
なーんか面白くないな……っと、いかんいかん。
また心の狭いことを思ってしまった。
これでは良い女とは言えんな。なに、母上のように何でも笑って流せるようになればいいのだ。そう、尊敬する母上のように何でも笑って――
「って、ああ!? だいじょうぶれすかシャノンきゅん!? すいませんついうっかり!?」
「いや、大丈夫ですから!? ちょっと抱きつくのやめてもらえません!?」
「うわああん!! シャノンきゅん死なないでくらさい~!!」(バキバキバキ)
「ぐああああ!!!! ちょ、苦しい!? 苦しいですって!? どんだけ力強いんですかあんた!?」←と言いつつ、言葉とは裏腹に美人に思いきり抱きつかれてちょっと嬉しそうな顔
――イラッ。
「てりゃッ!!」
気がついたら食い終わった肉の骨を投げつけていた。
大賢者の頭に刺さった。
「いたーーーーー!?!?!? なんか刺さったーーーー!?!?!?」
「ふん」
妾は口元を綺麗に拭いて、席を立った。
……ぐぬう、あのアホめ。相手が美人で少し胸が大きいからってデレデレしおってからに。
あーなんかイライラする……。
くそう、これじゃダメだと分かっているのに……どうしてもイライラする!!
正直、もう自分でもどうしたいのかよう分からんくなってきていた。
「……はあ、とりあえず寝よ」
寝て起きたらこのイライラも消えてるだろう。
……消えてるかなぁ?
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