第7話

 庄太郎が学校を辞める少し前からアルバイトで悩みを親身になって聞いてくれる人がいた。その人は木下菜々子という大学生ぐらいの女性だった。(正確な年齢はわからないが。)彼女は誰とても優しくて誰からも信頼されていた。

 庄太郎が学校を辞めることになり、家から追い出されようとしていて、身の周りの片付けをしており、バイトを辞めるためにバイト先へ行った。その時の気持ちが表情に出ていたのか、木下に「大丈夫?」と声をかけられた。折角なので庄太郎は木下にそのことを相談すると、木下が「私のとこに来る?」と言ってきた。流石に庄太郎も驚いたが、他にどうするというあてもなく行くことにした。

 庄太郎は家を追い出された後、木下に渡された住所に向かった。そこは一軒家だった。そこのインターホンを押すと木下が出てきて、家の中へ招かれた。

 招かれた家の中は全体的に白く、それにも関わらず塵ひとつなかった。どこか生活感がないような不気味な家であった。木下は一人暮らしだった。

 しかし、家での生活これまでにないほど快適であった。木下自身も庄太郎の癖について理解を示してくれた。あとから聞いたのだが、木下の家系は代々金持ちだそうで、よく寄付などを行っていると言っていた。だがそれは庄太郎には嘘のように感じた。庄太郎には木下を信じきれなかった。家の中は何も不自由はなく欲しいものはすべて出てきた。庄太郎に与えられた部屋には最初からいくつか服があった。それのサイズは木下のものより小さかった。それらは、庄太郎に合うもの、庄太郎より明らかに小さいものなど様々であった。庄太郎は怖くて木下に聞けなかった。外との交流に関しては少なかった。傍から見たら監禁に近い状態なのだがもともと外にあまり興味がない庄太郎にとってはどうでも良かった。

 木下は庄太郎を好いてくれていた。それは庄太郎が憧れていたものだと思っていた。

 庄太郎が生活になれてきた頃、木下は庄太郎を愛するようになっていった。しかし、それは愛ではなかった。ただ弄ぶようなものであった。庄太郎にとってこれは何よりも辛かった。しかし、庄太郎はこの家から出ることはなかった、確かに辛かったが外はもっと怖いと思ったからである。唯一の救いは庄太郎が木下を完全に信じていなかったことだろう。

 木下の行為は日に日に過激になっていった。その代わりに生活は豊かになっていった。庄太郎は不思議に思ったが、深く考えたくはなかった。

 庄太郎が木下の頼みで木下の部屋にものを取りに行った。頼まれたものを探そうと机の上を探していると、向かいの棚から何かが光るのが見えた。庄太郎は気になってそれを取ってみると、それは小型のカメラだった。庄太郎は小型のカメラなど見たことがないので珍しそうに眺めていた。しばらくして、木下が「まだ見つからないの?」と言いながら部屋に入ってきた。庄太郎が振り向いた時の木下の目は虚無であった。人間の喜怒哀楽のないなにかに取り憑かれた目、そして諦めたようなそうでないような目であった。それが怖くなって次の日窓から逃げ出した。玄関は何故か開かなかった。

 庄太郎は木下が庄太郎が憧れていたものを微塵も庄太郎に抱いていないことを知った。

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