第6話

 最近、母親が叫ぶ回数が増えてきた気がする。内容は主に僕に対して、学校に行けというものだ。でももっと酷いのは父親の方で、怒鳴るのはもちろん、頭を殴ったりしてきた。夜にリビングへ行くと父親がいて、他人から見られづらいところをアザができるまで殴られ、朝まで縛られて学校に行かせられたこともあった。その日以降リビングに行くことはなかった。

 八月に入っても基本的に部屋から出ることはなかったし、妹が夏休みなので部屋にいる時間が長くなり女装ができなかった。でもそれで良かったかもしれない。今の状態で女装をしたら自分というものが本当に分からなくなるかもしれないから。

 時間が大量にあったので、どうしたら親が怒鳴るのをやめてくれるを考えた。

 僕が理由を言っていないからだと考えた。なので、家族に自分のことを話してみることにした。そうすれば、一緒に悩んでくれると思ったから。

 ある時、家族が久々に全員揃ったときに、自分がバイ・セクシャルで人形も好きだということ、女装癖があることを言った。妹の服を使っていたことについて謝った。その時の光景はまさに僕にとって地獄だった。

 母親はなんでそうんなふうに育ってしまったのか、と嘆き、泣いていた。父親は世間に知れたら、俺がそのコミュニティに居づらくなるだろなにを考えているのだと、泣く母親を黙らせつつ訳のわからないことを言っていた。妹はただ軽蔑したと言わんとするような目で見ていたばかりでなにも言わなかった。仕舞いには父親が、お前はうちの子じゃない、退学させるとまで言い出した。流石にそれはお願いして取り下げてもらったが、高校を卒業したらこの家を出ていくこととなった。

 それから卒業するまでの半年間は地獄の様な生活だった。両親の怒鳴りは罵倒へと姿を変え、何の金も出さないようになったので、出ていったあとの為の金を貯めるためにアルバイトを始めた。もちろん学校に行く時間などなかった。働いている人はみんな優しかった。しかしそれは僕のことを知らないだけなんじゃないかと何度も疑心暗鬼になった。そこから帰ると、部屋にあった人形がすべて捨てられていた。両親に問い詰めると、矯正だと言っていた、それ以上は僕の話を聞かなかった。バイトをしてから少し財布に余裕ができたので自分で買った服(女装用、普段使い関係なく)は次の日には捨てられていた。

 僕は朝早くから家を出たので親は僕が学校に言っていると思っていたようだった。もちろん学校に行っていなかったので、辞めることになった。僕は出ていくことになった。貯めた金は全て妹に取られた。

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