第3話
庄太郎が教室に着くとき、まだ教室には誰もいない。淀んだ空気、チョークのあとのある黒板、薄汚れた白い壁、このときだけは、学校が好きであったりした。
庄太郎は教室につくと窓を一箇所開けて席につく。自分の席でただ何かをするわけでもなく、ただ何もなく、何かを考えることもなく黒板をじっと見つめている。チョークの跡が何かに見えるだとか見えないだとか、直感し流れていく。これは愉快であった。他人には見えない秘密のようなものに思ったから。
庄太郎が黒板を見るのは他にも理由があった。それは庄太郎がその時だけは全体に馴染めている気がしたからである。
八時十分になるとクラスの女子が一人やってくる。彼女は静かに、庄太郎を横切り一番前の席に座る。スカートの黒が教室の壁と対比し、ワイシャツが黒板の黒と対比したりチョーク跡と同化したりしていた。美しい。それ以外、彼女のことは知らなかった。名前、声、正面から見た顔、彼女が座っている席が本当に彼女の席なのかすら疑わしかった。それほどに庄太郎は他人に興味が無かった。
しかし庄太郎は惚れていた。それが彼女に対してのものなのかはわからなかった。ただ、彼女が庄太郎を惹きつけた要因の大部分は黒いスカートであろう。彼が彼女に惚れたのは単に目にする機会が多かったからだろう。
先程も書いたが、庄太郎はスカートというものに惹きつけられていた。そして次第にそれを身に着けたいという欲求が強くなっていたのを感じていた。庄太郎は男が好きだとか、女性になりたいというわけではなかった。ただ身につけたいだけであった。それが家族に知れたら、世間に知れたらどうなってしまうのか、そのことが脳裏によぎったが庄太郎にはどうでも良いことだった。
庄太郎は妹の部屋に多くのスカートがあることを知っていた。妹は兄とは違い社交的でよく遊びに行くとき、スカートを履いていたのを覚えていた。だから妹の部屋忍び込んでスカートを履いていた。―他の家族は仕事やら遊びやらで夜中に帰ってくることなどざらにあった。なのでバレることはなかった。
最初の方はそれで満足していたのだが、次第にエスカレートしていった。
ある時、庄太郎が晩ごはんを買うためにコンビニに行ったとき、庄太郎が惚れている彼女を見た。本当に彼女なのかはわからなかったが大変似ている様に見えた。もしかしたら、全くの他人かもしれない。しかし庄太郎にとってそんなことはどうでも良かった。彼女から学校とは違った印象を受けた。そんなことより驚いたのは、彼氏がいたことであった。正確には彼氏かはわからないが、親しい異性がいることだけでも、庄太郎の心を傷つけた、裏切られた気がした。そして愛してもらっていること、彼女の服装のいつもと違った美しさへ憧れを感じた。
そうして、庄太郎は女装というものに引き込まえていった。
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