第2話
庄太郎は夏というものが好きであった。人以外を感じることができるからである。
庄太郎は特にこの時期、学校の駐輪場から下駄箱までの道が好きであった。干上がってコンクリートの上に砂だらけになって靴ひものような姿になっているミミズ、腕にひっついて赤くなっている蚊などそんなものがすきだった。
先程夏が好きだと書いたがむしろ庄太郎は生来暑いのが嫌いだった。正確には庄太郎は夏ではなく、夏の虫が好きだった。虫どもがこの暑さの全ての原因だと考えると、自分に一切の責任がなくなって自由であるかのように錯覚するのである。だがその錯覚はいつも駐輪場から下駄箱につくまでの陽射しとそれによる目眩とによって覚まされ、現実に戻ることになる。これは庄太郎が学校を嫌う理由として充分なものであった。
庄太郎は特にセミが好きであった。ミンミンジジジという声が自分を誉めている様に聞こえるためであった。他人はよくセミがいるから夏の暑さが厳しく感じるだとか、煩くて鬱陶しいだとか言っているが、それは庄太郎には羨ましいことであった。しかし庄太郎は蝉が嫌いであった。木に停まっているのも、蝉は何をするのも一人だからである。大勢で鳴いている時、土の上に横たわっている時、かと思えば嘲る様に暴れ死ぬ時、周りには誰もいない。ただ曇った目でアリに引かれるのを待つのみである。そんな運命を見ていると、虫に慰められている自分がどうしょうもなく悲しい存在に思えた。しかしそれも虫に慰めてもらうほかに方法はなかった。
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