自分として生きる
月下美花
第1話
庄太郎は飢えていた。心が渇いているのを感じていた。
庄太郎は十八年前、男として性を受け生まれた。家族は母親と父親、妹がいた。母親は庄太郎の小さい頃、父親と共働きであったため、庄太郎の世話は母方の祖母がすべてやってくれていた。庄太郎は祖母が大好きであった。その祖母は両親が妹を迎える時母親が仕事を辞めて専業主婦になったため、施設に追い出された。そして、しばらくして死んだ。庄太郎は祖母の墓がどこにあるのかを知らない。祖父はすでに亡くなっていたので誰にも聞けなかった。
父親は家庭に興味がなかった。しかし騒ぎだとか、噂されるだとかをひどく嫌うようで何あるとそのたびに庄太郎は殴られた。
妹は庄太郎が十歳の時に養子として迎えられた。両親は妹ばかりかわいがった。両親は妹にいろんなものを買い与えた。高いドレスやカバン、宝石なんかも与えていた。傍から見て庄太郎と妹の格好の差は同じ家族とは思えないようなものであった。妹自身もそれを理解しているらしく、すっかり庄太郎のことを見下すような態度をとるようになった。庄太郎は妹が嫌いであった。そればかりか家族という集団が苦手であった。そう思い始めた頃から親にそれが伝わったのか、親が手をあげる回数も増えていった。庄太郎は自分のせいとばかり考えていた。それでも泣くことはなかった。
そんな環境だったためか庄太郎は暗い性格になっていった。
学校でもその性格が祟ってか、友達といえるものが一度もできなかった。彼に好意を向けるものなどいなかった。
庄太郎も基本的に誰も自分に興味を持ってなどいないことはわかっていた。しかし、常に誰かが自分の悪口を言っているのではないかと、触覚のなくした虫の様にびくびくしていた。それでいて大胆なところもあった。
ここまで読んで察せるだろうが、庄太郎は褒められるという体験をあまりすることはなかった。そのためか、人間というものを信じることができなかった。。いつしか自分にも疑いを持つようになっていた。
庄太郎が唯一信じることができたのは幼いころ祖母からもらった熊の人形のみだった。庄太郎が熊の人形を信じることができたのはその幼児よりも無垢な目が庄太郎の存在を許している様に感じたためであった。それだけで救われた。
庄太郎はいつしか人形を愛するようになっていった。
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