1-8
翌日は休みで、昼近くになって起きると優希はもう部屋にいなかった。
テーブルに「始発で帰るね」という書き置きと昨晩の酒代が置いてあった。
「気ぃ使わなくていいのに」
みさをはまだアルコールが抜けていない重い頭を左右に振った。少しクラっとして、台所のカウンターに手をつくと山積みになっていた郵便物がバサバサと崩れ落ちた。
たまにしか家に帰らないのでポストはいつも満杯になってしまう。大半が必要のないDMやチラシだが、大事なものが混ざっていると困るので、とりあえず全部取っておいて、時間がある時に仕分けしようと思っていたのだ。
「あーあ」
散らばった紙束の中に一つ、大きな緑色の封筒があった。表に病院名が印刷されている。昨年末に受けた健康診断の結果だろう。みさをはなんとなく片付けを後回しにして、その封筒を開けた。
不規則な生活をしているわりに、みさをは至って健康体で、健康診断でひっかかったことは一度もない。今回の結果も当然Aだろうと安心しきっていた。
しかし結果票を開くと、判定結果欄には別のアルファベットが書かれていた。見間違いかと思って目をこする。
「Eって……」
AからEはいきなり飛びすぎだろう。BとCはいったいどこに行ったんだ。
酔いと眠気は一瞬で吹っ飛び、食い入るように結果票を見つめた。
これって、乳がんの可能性があるってこと?
「
口にするだけで恐ろしい言葉だ。
胸の鼓動が一気に高まり、不安が波のように押し寄せてきた。
健康診断っていつだったっけ?
検査日を確認すると五か月も前だった。若いうちは病気の進行が速いと聞く。なぜもっと早く開封しなかったのだ。だらしない自分を叱ってみてももう遅い。
とりあえず服の上から右胸を触ってみた。が、よく分からない。
そこでソファに寝そべって服をまくりあげ、丁寧に指を這わせたが、やはりしこりらしきものは感じなかった。やり方が間違っているのだろうか。
それより再検査の予約をする方が先だと気づき、急いで病院に電話をかけた。
だが無情にも受話器からは、「本日の診療は終了しました」という録音された音声が流れてきた。明日も日曜日だから休診だろう。こんな気持ちのまま月曜日まで待たなくてはいけないのかと思ったら泣きたくなった。
助けを求めるように、みさをはノートパソコンの電源を入れた。
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