第1話②

人は人を見た目で判断する。ポケットに手を突っ込んで歩いていたら強そう、内股でゆっくり歩いていたら弱そうだと思われる。

隆二りゅうじ昔はよくいじめられていた。昔は弱そうだった。歩き方も内股気味でポケットに手を突っ込むことなんて一度も無かった。毎日虐められた日はおじいちゃんの所でよく泣いていた。

おじいちゃんは隆二が訪れる度に「隆二は優しすぎるんだ。でもそれでいいんだよ。ずっと優しくしていれば、虐められなくなるから」と言った。隆二はそれを守り虐められ続けてもずっと優しくしていた。

隆二が中学の時に突然とつぜんおじいちゃんは亡くなった。その日から隆二の中の何かが壊れた。優しさを忘れ、人を虐めるようになった。耳にりゅうのピアスをつけ手はいつもポケットの中に突っ込む。歩き方も変わった。

そうしていたらいつの間にか恐れられる存在になっていた。別に強くなったわけではないのに、見た目を変えただけで誰も自分を虐めて来なくなった。虐められないためには自分を強く見せないといけないとずっと思っている。

高校でも耳に龍のピアスをつけ、道の真ん中を歩き、手はいつもポケットに突っ込んでいれば、虐められることはなかった。人は自分を見るとすぐに去っていく。見た目は大事だ。

隆二は最近は学校には行っていない。行きたくないのではなく行けないのである。父が入院している。癌にかかっていて莫大な治療費が必要になる。母はいなく父が貯めている貯金だけでは足りないので、学校を休んで働いている。

今は父の病院近くのコンビニでバイトをしている。時給は900円父の治療費が300万程かかるので、3000時間以上バイトをしないといけない。父に治療を受けてほしい一心で働いている。

「隆二君それ運んで」

今隆二を呼んだのは、2つ年上のバイトの先輩の二口にぐちさんだ。二口さんは見た目を気にしないタイプの人なので、こんな自分にも気軽に話しかけてくれる。

隆二は言われた通りパンが入ったカゴを店の中へ運んでいく。パンはこのコンビニではおにぎりの次によく売れる商品で多く入荷している。

「ありがと。隆二君」

「はい」

二口さんは隆二の顔を覗き込む。

「隆二君って何でそんな格好してるの」

隆二はどう答えようか迷った。二口さんはとても優しくて背が高いいい人だ。この格好をしていることを言ったら、きっと隆二を心配して相談に乗ってくれるだろう。だからこそ言うことができなかった。二口さんを困らせたくなかった。

「趣味です」

「趣味か〜。確かにそういうの憧れるのわかるかも」

二口さんはその後も耳のピアスがどこで売っているのかや、そのポケットに手を入れるのはくせなのなど色々なことを聞いてきた。こういったことを聞かれると気分が悪いのだが、不思議と二口さんに聞かれるのは気分が悪いと思わなかった。

「じゃあね。隆二君お先に」

6時過ぎに二口さんは先に帰ってしまった。

隆二は7時までコンビニでバイトしてコンビニを出た。さっき二口さんに買ってもらった缶を開けて一気に飲み干す。

自転車に乗って家へと向かう。いつものように帰路きろの途中にある河川敷かせんしきによったところ、河川敷で寝ている同じくらいの歳の男がいた。そっと起こさないように自転車を止めていつもの椅子で川を見ながらジュースを飲む。

冷えた炭酸水が喉の奥を通り、炭酸特有のあの感じがくる。何とも言えないような爽快感そうかいかんを感じる。

「ん、もう空が赤いな」

隆二は声の聞こえた後ろを見る。さっきの寝ていた男が起きている。自転車の走る音で起こしてしまったのだろうか。

「君はもしかして龍神君」

急に男が隆二の名前を聞いてくる。同じ学校のやつなのだろうか。

「いや隆二です」

「隆二?」

「はい」

草むらから男が走って降りてくる。

「君があの隆二君か。写真で見たのとは違って、そんなに怖くないじゃないか」

この男も二口さんのような見た目をあまり気にしないタイプの人なのだろうか。写真って何だろう。自分の写真が広まっているのか。

「君は?」

「俺……俺は田中博」

「自分は芹沢隆二」

「本当はお前優しい系だな。そんな見た目しているが」

「違うよ。こんな見た目しているから話し慣れていないだけさ」

「今はもう7時過ぎか」

博はスマホを取り出して時間を確認する。

「じゃあ」

隆二は自転車に乗って河川敷を出ようとしたが、博が「話して帰ろう」と言ってきたので、共に帰ることにした。

「俺昔から、人を尊敬するって決めてるんだ」

博はいきなりそんなことを言い出した。

「父に昔よく言われたんだ。人を尊敬しろ。馬鹿ばかにするなって」

「僕も昔おじいちゃんに優しくあれって言われてきたなぁ」

「お前なんで……やっぱ聞くのやめた」

博はきっと学校に行っていないこととかこの姿のことを聞こうとしたんだろう。そう言ったことはあまり答えたくないので、聞くのをやめてくれて助かった。

「じゃあな」

大きな交差点で博と別れる。信号が青になったので、道路をわたり向こう側に渡りそこからは自転車に乗って誰もいない家に向かって1人で帰った。

隆二が向かう方から大きな厚い積乱雲せきらんうんが迫っていた。



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