芹沢が消えた……

水月歩

第1話

「おい、知ってるかあの芹沢せりざわが二学期に入ってから一度も学校来ていないんだって」

「それ本当か。あの芹沢だぜ。二学期入ってからもいろんな奴から金むしり取っているんじゃないか」

「そういえば、この前繁華街はんかがいで芹沢らしき人みたぞ」

「まじで。キャバクラでも行ってんじゃね」

「でもまだ高校生だぞ」

「芹沢ならあり得るって」

「確かに」

「私もそう思います〜」

「そういえば、ミカンちゃんって。芹沢と仲良くなかったっけ」

「全然仲良くないよ。一方的にグイグイこられてただけだよ」

「分かる!芹沢ってマジでやばくない。恵子けいこのとこにも私のとこにもグイグイ来たの」

美和みわお前もやばいぞ。その芹沢と付き合っていたんだからな」

「それは、あいつがグイグイきすぎて断れなかっただけだし。別に、あいつのこと好きじゃなかったし」

「そう言うことにしといてやるよ」

拓実たくみ繁華街の時の芹沢の写真ないか」

「もちろん。取っておいたぜ」

「拓実それ盗撮とうさつじゃね」

「まあ、よくね。芹沢だし」

「だね」

拓実が芹沢が繁華街を歩いている写真をアップした。

「マジじゃん。これ芹沢じゃん。耳のりゅうのピアス絶対あいつのじゃん」

「ほんまやん。これは芹沢で間違いないな」

「ポケットに手突っ込んで歩いてるのは、学校だけじゃないんだな」

「俺もそれ思った」

『私も』と文字の書いてある可愛い羊のスタンプをアップした。

「ミカンそのスタンプなんていうやつ」

「モッコだよ。20種類ぐらいあって確か100コインで買える」

「それ今買ったわ」

美和がモッコのスタンプを送信そうしんする。

「芹沢の名前ってなんだっけ」

龍神りゅうじじゃなかったけ」

「それだ。名前からしてヤクザ系だよな」

「龍神の父親ってヤクザの長じゃなかったけ」

「そうだよ。絶対そうだよ」

「この前龍神のお父さんの見たとき、顔にでっかい切り傷があった」

「じゃあヤクザ確定だ。他のヤクザの集団と戦っている時に顔に傷ができたんだよ」

「明日から登校する道かえようかな。龍神の父に会いたくないし」

「それな」

「お待たせ」

「田中、用事済んだのか」

「ああたった今終わったとこ」

「用事って何だったんだ」

「大したことないことだよ。芹沢って誰だ」

「2学期から転校してきた田中は知らないか。学校一強い不良だよ」

「そんな奴がいたの」

「そいつがキャバクラ行ってたのを拓実が発見したんだよ」

「高校生でキャバクラ行ってるの」

「そうなんだよ。芹沢はやばい街で見つけたら逃げたほうがいいぞ」

「俺この前芹沢に街で追っかけられたんだ」

「うちは睨みつけられた」

「怖っ」

「じゃあ、抜けるわ」

「田中もう抜けんのか」

「この後約束があるから」

「それは女か」

「ああ、そうだよ。じゃあな」

「田中抜けやがった」

「それより、芹沢のもっとやばい写真あったよ」

「出せ出せ拓実」

田中はスマホを切って机の上に置く。

「はあ〜。疲れた」

田中は1人部屋で呟いた。

芹沢か。どんな奴なんだろ。そんなにやばい奴のなのか。あの写真の男どっかで見た気がするんだよな。どこで見たんだろ。芹沢やっぱりよく分からん。通話面倒臭くなって適当なこと言って切っちまったけど、いいか。

ひろしご飯できたわよ」

下から母親の呼ぶ声が聞こえてくる。

「は〜い」と適当な返事をして階段を降りていった。

「もう、学校慣れた?」

「まあ、慣れてきたと言えば、慣れてきたのかも」

「何その言い方」

今日のご飯は、味噌汁みそしるに焼き魚にほうれん草のお浸し。そして米。米は家族みんなが大好きだ。

「今日のご飯も美味しいね」

焼き魚に醤油しょうゆをかけ、米と一緒にいただく。ほうれん草も味噌汁も米と一緒に口の中に入れる。

あっという間に全部食べてしまった。

「美味しかったよ」

「戻るの」

上に戻ろうとする博を母が呼び止める。

「ああ、戻るよ」

博には父がいない。博が5歳の時に交通事故で亡くなってしまったと聞かされている。父との記憶は微かであるが残っている。その記憶の中の父はよく「人を尊敬しろよ。絶対に馬鹿にするなよ」と言っていた。その頃は尊敬の意味も分からず、どう言うことを伝えたいのか全く分かっていなかった。だから人を馬鹿にすることはできるだけしないようにしている。さっきの通話から途中で抜けたのもそれが理由だ。

今日は日曜日だ。時計は1時を指している。まだ11時間も今日が残っている。明日は学校が終わった後にバイトの面接に行くことになっている。大学の資金を母が出すことは、できないので自分で今のうちに貯めておこうとを思ってコンビニのバイトの面接を受けることにした。

家に居てもすることがないので、外を走ろうと思い家から出る。近くに河川敷があり、そこまで走るつもりだ。河川敷に着いたら少し休んでからまた家まで走って戻る。

博は中学で、陸上の長距離の県の代表に選ばれるほど速かった。高校に入ってからは陸上はやっていないが、中学の頃同じくらいのペースで河川敷まで走った。

「ふ〜」

博の額から汗が出ていて、汗で服が透けてちくびが透けて見える。博はそのまま草むらに横になり空を見上げる。

「真っ青だ」

今日は雲が一切ない青天だ。上空では何匹かのツバメが飛んでいた。



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