第76話 横川一家 6
俺たちは来た時と同じで、またゾロゾロと車を連ねて帰りだした。帰ってる道中、俺の携帯に着信があり、取ってみると合コンしてた友人からだった。
「お前来そうもないから、今日のとこは散ったからな。まぁ収穫もあったから、またゆっくり話するわ。」
あーすっかり忘れてたわ。せっかくの機会だったのに、こいつらのせいで・・・。まぁ仕事だからしゃーない。
「おう、すまんな。仕事やったもんで。また飲もうや。」
そう伝えて電話を切った。ちょっとだけ不機嫌になった俺は修三に、
「さっきも言ったように、車とバイクは速攻で売れ。あと家の中にあるもんで売れるもの、家探ししとけ。もうお前が払って行くしかないからな。ちゃんと払って行くなら悪いようにはせんから。それから親父と連絡取り続けろ。月曜日に出てくるようなら、いろいろ考えてやらんこともないからな。わかったな。」
そう話してると、また電話が鳴った。店長からだ。
「おう、お疲れ。社長がな、つーか他の社長連中なんだが、俺らに礼言いたいから出てこいって言うのよ。たぶん後ろの連中も行くだろうから、わかりましたって返事しといたけど。とりあえず、そのボンクラをパチンコ屋まで送って行って、そこで連中がちょっとだけ話するだろうから、俺らは先に行っとくべ。」
わかりましたと応じて、俺は車を走らせた。まぁ車がどんなのかも見ておきたいしな。話する時に付いてくれてたベテランさんとも少し話しておきたいし。
そうこうしてるうちに修三を見つけたパチンコ屋へ着いた。車を停め、修三の車を見に行った。ついてきてた人達も見に行ったが、見てガックリ。古い古いワゴンR。正直財産価値は無いな。まぁ車のことはあまり知らなかったってことにするか。これだとバイクもあまりアテには出来んな。
「修三くんよ。まぁ車のことは俺あんまり知らんけど、コレって廃車寸前じゃね?これじゃ売っても、逆に金取られそうだな。まぁえぇわ。とりあえずこの土日でしっかり金の算段つけとけや。それから、向こうでも言ったけど、電話は繋がるようにしとけ。お前はケンジくんをアテにしてたみたいやけど、アテにならんかったからと言って、直樹くんを裏切っていいわけじゃないからな。その辺はよく覚えとけ。」
他の業者さんたちが続いて話をしてるけど、俺は店長と一足先に失礼して会社の駐車場に車を置いてから、社長に呼ばれた会場に向かう為タクシーへ乗った。聞くに、来てた業者さんたちもみんな来るみたいだ。タクシーの中で店長から、
「お前、あの修三、どう思う?」
うーんと唸りながら、俺は答えた。
「たぶん、月曜日にはいなくなってると思いますよ。そこまで肝の据わったやつでもないですし、逃げることで頭一杯でしょ。この土日でたぶんですけど、親父と連絡取れると思います。その後はとっとと一緒に逃げるんじゃないでしょうか?まぁ仲間との絆ってやつを見せてもらいましょう。」
うんうんと店長は頷きながら、
「俺もそう思うわ。なんとかこの場を凌いで逃げたろうってのがアリアリとわかる。まぁ他が乗っかってきたのは余計だったが、よく保証人つけれたわ。ウチだけのやったら、今頃終わってたかもしれんしな。社長にも困ったもんや。今回はたまたま保証人ついたからいいもんの、ダメになってたらどうするつもりやったんやろ。まぁ最後は悪いと思って、最悪取れなくてもいいって言ってたけどな。これで懲りてくれたらいいんだけど。」
ウチと仲いい、もしくはちょいちょい一緒に行ってる人とかならいいんだけど、それ以外となるとデメリットしかないからなぁ。仲いい業者などは貸しを作っとくと、しっかり後で返してくれるんだけど、それ以外だとそれっきりになることが多いのよね。だからリスクを冒してまで付き合う価値は無い。社長同士がどんな付き合いをしてるかはわからんけど。もっとも恩を恩とも感じてないやつも多いし、これ見よがしに金額乗っけてくるやつもいたし。結局ウチがほとんどの労力を掛けたわけだしな。まぁ修三が逃げてくれたら万々歳かな。まぁ放っといても逃げるだろうけど。そしたらこちらに大義名分がある。ヘタに払わん、払えんと言いながら居続けてもらう方が迷惑な場合もあるのである。おそらく横川は一家丸ごと、週明けになんらかのリアクションを起こしてくるはず。修三から話が伝われば尚更である。月曜日に出てくるほど肝も据わってないだろうし、仮に出てきたとしたら、今日修三があった目と同じことをされる。そうなると普通の神経の持ち主は出てこれるものではない。まぁ弁護士へ駆け込むとこが関の山だろう。
そうこうしてるウチに社長が待ってる会場に着いた。あとで少々みんなと打ち合わせしとかないかんなと思いつつも、保証人を付けれた満足感に俺は包まれていた。
タクシーから降りて店に入り、社長らがいる部屋に通され戸を開けると、社長が開口一番、
「じょにー、スマン!」
っと手を合わせながら謝ってきた。後で乗っかってきた会社の社長方も、
「じょにーくん、無理言ってスマンかったねぇ。」
と口々に謝ってきた。俺と店長はいえいえと言いながら、愛想笑いを浮かべ席に着いたが、何人かの社長に対しては腸が煮えくり返っていた。自分トコの分以外にも乗っけてきたからである。それでいて、お宅の従業員は高みの見物だもんな。まぁそうするようにしたのはウチだけど。他のトコの人にあまり手を出させたくなかったのは理由がある。他の人が手を出して上手くいった場合、そっちに主導権を持って行かれるからである。捕まえたのはウチだが、話をまとめたのは他のトコとなると、優先順位が変わってくる可能性が出てくる。最悪話をまとめたとこが先現金にして、こっちが取りっぱぐれる可能性も出てくるってことだ。ウチを何が何でも一番にしときたかったのである。現金化した時はウチが一番。取れなかった時はみんな取れないからねってことにしときたかったのさ。出し抜かれるのが嫌なだけなんだけどね。
社長連中と一通り挨拶が終わった頃に、続々と一緒に行ってた連中が来た。口々にお疲れと労いの言葉を投げかけてもらいながら、自分とこの社長に各々が説明に行っていた。そんな方々を横目に見ながら、社長に店長と俺で今回のことを報告してた。まぁ今回のことは社長に非があるってのは三人ともわかってるんだが、だからといって全力を尽くさないという理由にはならない。最後まで全力でいくつもりである。
しばらくして場も和んできたので、今日一緒に行ってた人達が俺と店長の周りに集まってきた。店長にはもう一度念を押すと同時に、順番を話し合ってもらうよう促した。これは月曜日から事態が動くことを想定してである。仮にウチが月曜日に終わった後、書類を誰に預けるかとか、誰が修三と連絡取るかとか、まぁそれは多岐に渡る。
その話し合いも一段落し、俺は一緒に直樹くんと話をしたベテランさんと雑談をしてた。ふいにそのベテランさんが、
「そう言えば、じょにーくん。あの時、俺にも経験あるって言ってたやん。じょにーくんも走ってたの?」
俺はへっ?って感じになったけど、真顔で返答した。
「はい。チャリで学校通ってたんで、走り回ってましたよ。あの時は若かったっすねぇ・・・。」
ベテランさんはあれ?っというような顔をして、
「じゃあ、仲間がどうたらこうたらとか、裏切らんとかって話は?」
俺はちょっと考えながら、
「うーん、仲間ってのがどういうもんを指すかは人それぞれなんですけど、まぁ俺の場合は仲間っていないっすね。俺からしたら仲間ってのをチラつかせて来る奴は大体裏切ると思ってるんですけど。まぁ同級生がそれにあたるかもしれないすけど、全然会わないから裏切るも何もないんすよね。それに俺の同級生ってまぁまぁボンクラが多いんすよ。俺も含めて。」
ベテランさんは呆れながら、
「物は言いようだなぁ。」
まぁあの時は同調しただけで、その一言だけで妙な連帯感を生むように仕向けただけである。けど、俺は嘘ついてないからね!まぁどう取るかは相手の勝手なんで、そこまでは責任を持てないのである。
そんな感じで総勢20人を越える宴会は、夜遅くまで続いたのである。
そして土曜日・・・・。
自宅で起きた俺は、とりあえず修三に連絡してみた。修三と連絡を取るのは俺と、直樹くんとの話に一緒にいたベテランさんが代表で取ることになった。また現金化した時の順番は、ウチが一番、二番は次来た4社、三番はあとできた3社となった。連絡網はウチの店長を頂点に、そこから順次情報を下ろしていく方式となり、一応俺は二番手の4社の方々とは連絡取れるようにはしてるけど、その必要性、緊急性がある時以外は全て店長を通すこととなった。
修三は電話に出た。家族のことを聞いたが、誰一人として帰ってこず、誰一人として連絡取れなかったらしい。その落ち込み様は相当なものだった。自分1人捨てられたというくらい落ち込んでたわ。まぁその辺は家族の話なんで知らね。金の段取りしとけよと念を押して電話を切った。
一応そのことを店長に報告すると、
「ほぉ。まだ逃げてなかったんやな。」
と感心してた。まだ親父から連絡が入ってないのだろう。親父側は電源を切ってるから、入れたらすぐに修三と連絡を取るハズである。そうなったらおそらく修三は逃げる。電源を切って親父の元に走るだろう。修三が逃げる時に直樹くんへ一言でも何かを言っていくかどうかってのも、今後に関係してくるけどね。まぁ俺は何も言わず、音信不通になると思ってるけど。直樹くんのことは放っていくだろう。修三みたいな人間は、自分が悪いとは考えない。こうなったのは俺のせいじゃないと、死ぬまで言い訳していくだろう。まぁ気の毒なのは直樹くんだねぇ。仲間との絆とやらを信用した結果、300万もの借金を背負うハメになっちゃったからなぁ。
そしてその後、予定通りというか何というか、こちらが考えてたように修三とは連絡が取れなくなった。
さあ、祭りを始めようか・・・。
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