第75話 横川一家 5

とりあえず段取りも決めた。話すのはウチともう一社。まとめた借用書を作って、さて行こうかと話してたとこに、店長が渋い顔をして俺に小声で話しかけてきた。




「もう3社来るらしい。今日社長連中で飲むって言ってたやろ。そこでウチの社長に他の4社の社長が、ありがとうと礼を言ったらしい。そしたら他の社長がどうしたの?って話になって、他の社長がこのことを謳ったらしいのよ。ほんで、ウチもお願いと言ってきたとこがあって、3社来るってさ。先に来たヤツらのこともあるから、断り切れんかったらしい。社長はスマンと謝ってたけど、ここまで来ると正直取れる気がせん。こうなるってのは想像出来んかったらしい。もう最悪取れなくてもいいからとさえ言ってたし。そいつら来てみないと合計いくらになるかもわからんし、また借用書書き直さないかんし。」




うーむ、由々しき事態だな。今ですらどう転ぶかわからんのに、これ以上乗っかってくるんかよ。俺は店長に提案した。




「まぁ社長が言うなら仕方ないっすね。こっちからも少し条件出しておきましょう。話すのはウチと代表の一社。ぞろぞろ行ってもいいことないでしょ。それと現金化のメドがついた場合、ウチが最優先で抜けらしてもらうってことで。そうしないとえぇ加減沈みかけの船なのに、ウチまで沈んでしまいます。それでなくても、そこまで仲いいってわけでもないとこまで入ってるんで。あと、ちょっと金額おかしいとこもあるみたいなんで、それはナシにしてもらえんでしょうか。社長にも言ってもらえませんか?それと他社との調整をお願いします。こっちは修三と話詰めときますんで。ウチが一番乗りだったんで、それくらいの条件つけてもいいと思いますよ。」




店長はわかったと応え、すぐに先来た4社の人と話し合い、社長にも電話をかけ始めた。俺は修三に、




「今からもう3社来るから、ちっと待っとれ。来たら合計金額でまた新しい借用書作ってもらうからな。お前の親父、やりっぱなしだな。お前、車以外に売れるもん無いか?それも考えとけ。話する時の材料にするから。」




修三は半泣きだったのが、もう泣く寸前になっていた。アホか。泣きたいのはこっちや。店長からOKサインをもらい、先来た4社の人もごめんと手を合わせてきた。それから15分くらい経った時、言ってた3社が着いた。車から降りてくる人は申し訳なさそうに頭を搔きながら出てきた。お疲れ様ですと挨拶を交わし、店長が状況説明をして、その後合計金額を弾き出してきた。




額面300万・・・。




金額を聞いた時、ちょっと笑ってしまった。ウチの残高15万なのになー。なんで20倍になったんだろー?俺は修三に、




「300万だってさ。さっさと書いてね。」




俺は少々不機嫌になりながらも、書類を仕上げた。店長に出来ましたと報告をした時、他社との折衝も終わり、GOサインが出たので出発。だが、車を計9台連ねてのパレードである。正直行きたくねぇ。




道中、修三は、




「どうしてこんな目に合わないかんのやろ・・・。親父からロクに金も貰ってないのに・・・。」




と言ってきた。その言葉に俺はイラつきながら、




「知らんがな。お前、親父の借りてるやつ、全部保証人になってるやろ。お前を街中の街金が追い回すからな。さっきの後輩の件もそうやけど、自業自得と思って諦めろ。どうしてこんな目に合うかは、自分が一番わかってると思うぞ。今から行くとこの話をしっかり纏めたら、えぇ方法教えたるから。死ぬ気で頼みこめ。まぁ正直パチンコ屋でゴネんかったら、ここまでの状況にはならんかったと思うぞ。ところで、なんであの後輩呼んだんや?嫌われてるって知らんかったん?それからこれから話に行く奴の名前は?」




修三はボソボソと喋り始めた。




「いや、若い頃面倒見てやったんやけど、あそこまで嫌われてるとは思いませんでした。確かに抜けてからもちょくちょく顔を出しには行ってたんですが、差し入れとかも持って行ってたし・・・。これから行く奴ってのは直樹っていう奴っす。」




ふーむ、言ってることはまともに聞こえるんだけどね。




「お前、その差し入れの金はどっから出た?どうせパチンコで勝ったからとか何とか言って、差し入れしたんやろ。まぁそれはえぇわ。そのタネ銭はどっから出た?さっきの後輩の言ってたこともあるけど、下のもんから金せびって、その金でパチンコして、勝ったから差し入れしたとか言うんじゃないだろうな。それってただのクズやん。そりゃ嫌われるわ。それとな、面倒見てやったって言ってるけど、具体的にどんな面倒見てやったん?面倒見てやったのと面倒見てやった気になってるのとでは全然違うぞ。お前の言ってることはただの自己満足や。後輩を金集めるATMくらいにしか見てなかったんやろ。面倒見てやったから、先輩の言う通りにしろって、まぁまぁウケるな。そんな人生送ってきたんやったら、今のこの状況も納得出来るわ。ケンジくんとやらも同様のクズやろ。ロクな死に方せんぞ。」




修三はションボリしてた。




「とにかく、これから行く直樹くんの所で確実に話まとめろ。まとめたら悪いようにはしないから。この状況から逃げれる方法も教えてやる。」




そして、車は直樹くんの自宅近くのスーパーに着いた。着いたらここから電話をする段取りになっている。一度業者で集まって、俺ともう一社が話するようにして、残りの人達は駐車場に散った。




さて、どんなのが来るかな・・・。




修三は直樹くんに電話を掛けて、スーパーの駐車場に着いたことを告げた。10分ほどで来るとのことだが、もう一回修三に念を押した。




「お前は説明した後、ひたすら頼み込め。後は俺らが話をするから。」




わかりましたと修三は言ったが、ホントにわかってるんかねぇ。そうこうしてるうちに直樹くんが乗ってるであろう車が、駐車場に滑り込んできた。車から降りてくると、これまたイケメン。なかなかの好青年だわ。直樹くんは修三を見つけて駆け寄ってきた。




「久しぶり。どうしたん?」




その言葉とは裏腹に修三の顔色は冴えない。最初は修三が口火を切った。




「夜にスマン。実はな、親父がちょっとトチってしまってな。仕事で必要な物を買う為に、こちらさん(俺ら)からお金を借りてたのよ。ちゃんと支払っていたんだけど、その支払いを忘れて昨日から県外の仕事に行っててな。帰ってくるのが週明けなんよ。この人に言われて俺も知って、慌てて連絡取ろうとしたんだけど、親父のやつ充電器を家に忘れて行っててな。電池が切れたみたいで連絡取れんのよ。充電を向こうで買ってりゃ、そのうち連絡してくるとは思うんだけどそれもないしさ。俺が親父の保証人になってるから、これを俺が全額払わないかんのよ。んで弱って、お前に相談しに来たわけなのよ。」




修三くん、よく出来ました。この筋書きは俺が考えた。どうしても親父に非があることを言いたかったし、週明けに戻ってくるという文言も入れときたかったのよね。さて、こっからは俺らの仕事だ。




「うちらは修三くんのお父さんにお金を貸してる業者です。支払日を忘れるというのはまぁ誰しもあることなんですけど、それを全部認めていくと、こちらの商売が成り立たなくなります。金額も300万とちょっと多額なので、社長も少し心配してましてね。まぁ逃げたわけでもなさそうですし、週明けには戻ってくると言ってますんで、待ってもいいんですけどね。ただ社長は修三くんの人柄を知らないんで、ワタシが待ってもいいと思っても、なかなかそうはいかないんですよ。一回全部返してもらってと言ってるので、それに従うしかないんですよね。サラリーマンって悲しいですよねぇ。当然のように300万なんて大金、右から左へってわけにもいかないですし。そこで修三くんに提案したんですよ。お父さんが帰ってくる月曜日までの保証人を付けてくれと。お父さんが帰ってくれば問題は解決しますし。まぁ逃げる気だったら、息子さんを置いて逃げる親がどこにいるかって話ですよね。そんな親はどこにもいないと思いますし、もし万が一のことがあっても、修三くんは車を売って、バイクも売ってお金を作るって言ってますし。それだけでも全額とはいいませんが、半分以上のお金は出来ると思います。それからは保証人を付けたことによって、分割払いが可能となります。もし直樹くんが保証人なっても迷惑かける人間じゃないと思いますけど、いかがでしょうか?」




直樹くんは静かに考えだした。俺は畳み込むように、




「なんでも昔一緒に走ってたと聞きましたが。ワタシにも経験がありますので。あの当時の仲間を裏切るようなことはワタシにも出来ません。昔一緒にバカした奴らとの友情や絆っていいですよね。」




直樹くんは頷きながらも、やはり金額がネックになってるようだ。




「もし、お父さんが帰ってこなかったりしたら、俺が全額払うのですよね?」




想定内の返答が来たな。




「いやいやいや、そうではなく、お父さんが帰ってこなかったら、修三くんが支払うんですよ。直樹くんが支払う可能性はほぼゼロです。ほぼってのは一応可能性があります。お父さんが帰ってこなくて、修三くんが連絡取れなくなり、こちらが支払い不能と認定した場合です。修三くんが直樹くんを裏切るとも思えんですし、お父さんも週明け帰ってくれば、問題は収まるんで。あくまで問題解決するまでの保証人です。」




直樹くんはずっと考え込んでいたが、俺はそこで修三に合図を送った。修三は泣きそうな顔をして、ガバっと土下座をし、




「頼む!お前しかおらんのよ。絶対迷惑かけるようなことはしないから!」




直樹くんはため息をつきながら、




「ホントに大丈夫か?」




土下座をしてる修三は何度もウンウンと頷き返した。




「仕方ねぇな。今回だけな。絶対裏切るなよ。」




ヒャッハー!俺の頭の中を脳汁が駆け巡った。早速書類を作り、簡単に申込用紙に記入してもらった。ほぉ・・・勤続7年。社会保険あり。結婚してて、子供もいる。両親も同居で借り入れナシ。これ以上の保証人はおらんわ。修三くん、いい仕事したなぁ。一応何かの為にこちらの連絡先も渡して、直樹くんを見送った。




直樹くんの車が見えなくなったとこで、駐車場に停めてた車からみんながワラワラ出てきた。俺は店長に小声で報告した。




「一応保証人は付けれたんですが、どの程度いけるかはわかりません。ウチだけのなら楽勝なんですが、さすがに300万ともなると・・・。月曜日に現金化して、さっさと抜けとく方がいいかもしれません。一応申込用紙に書いてもらったんで、他のとこには月曜日FAXで送るように話しといて貰えますか。俺は修三に言い聞かせておきますんで。」




店長も怖い顔がやっと笑顔になり、




「わかった。書類は代表でお前が持っとけ。抜けていく順番はウチが1番ってことだけしか決まってないから、あとは来たヤツらで話し合ってもらおう。社長にもそのことは伝えとく。ようやったな。」




俺は車に乗り込んで、修三に念を押した。




「えぇか。お前が連絡取れんなった瞬間に、全部直樹くんへ取りにいくからな。お前がいるうちは直樹くんに連絡することはない。だからこっちと必ず連絡取れるようにしとけ。それから車とかバイク、あと現金化できるもんあれば、家をひっくり返してでも探しとけ。直樹くんに迷惑かけたらいかんぞ。」




時計を見ると、すでに22時過ぎ。出てきた業者さんたちからはありがとうとお礼は言われたんだけど、正直こんなことは今回だけにしてほしい・・・。




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