第66話 恵子 8

高速へ乗る前に、道路沿いにある自販機の前で車を止め、恵子にコーヒーを買い与えた。それを飲んでいる間に、俺は店長に報告をする為、車の外に出て電話をかけた。




「お疲れ様です。一応父親は保証人になってくれました。それと詳しくは明日会社で話しますが、恵子の分は保証してる分と合わせて、整理に動くと思います。こちらだけでもいいとは思いますが、念のため、明日の朝に来るスーパーの主任とやらも括っとくと安心だと思います。そちらはどうでしたか?」




店長は元気のない感じで話をしだした。




「全然ダメだわ。全員引っ張られてるか逃げてるかって感じ。1人協力業者に捕まってたから、譲って貰おうと思ったが、順番がギッシリ詰まっとる。気を付けて帰って来いよ。」




わかりましたと応じて車に乗り込んだ。高速に乗り、道中、恵子に父親との話を明かした。そして自分の分と保証してる分も出してくれる話をした。




「明日にでも電話があると思うけど、早急にいくらかお金を送って貰った方がいい。なんなら恵子さんの方から電話かけてもいいと思う。ウチはこれで社長も納得してくれるだろうから、一番後でもいいし、出来たらお父さんに出てきてもらいたいのよね。それと恵子さんから聞いた話、全部は話してないからね。特に叔父さんとの事は。それは自分で判断して。おそらく明日の朝には業者さんが来ると思うから、ウチを除いた2社分は振りこんで貰った方がいいと思うよ。そうでないと息子さんのとこやお父さんのとこに連れて行かれると思うから。まぁ相談くらいならいつでも乗るから、電話してきて。」




恵子はボソボソと、




「ありがとうございました。ところで父はどうしてあんなに泣いていたのですか?」




俺は正直に言うべきかどうか悩んだが、




「それはお父さんに聞いて。悪い話をしたわけじゃないから・・・。」




まぁ2人のことは俺が立ち入るべきではなかろう。時間は掛かっても仕方ない。20年も経ってるんだからな。そう簡単にはいかんやろ。実は首を突っ込みたくないだけなんだけど。




恵子の住むアパートに着くと、時刻は3時に近かった。明日というか、もう今日だけど。注意点だけ伝えて話もそこそこに自宅へ帰った。超眠ぃ。俺は自宅に帰ると風呂も入らずに、そのまますぐに寝てしまった。




翌日、寝坊しかけたがギリギリ起きて、車を飛ばしてなんとか会社に間に合った。すでに店長は来てて、もうすぐ岡林が来るだろうと待ち構えながら、店長に昨日の話を全て報告した。店長も眉間にしわを寄せながら、




「重すぎるな。聞いたからといって何が出来るわけでもないから、あまり首突っ込むなよ。お前ちょいちょい突っ込んでいくからな。気にしたとこで、恵子の人生、お前が背負えるわけでもないだろうし、背負う気もなかろう。だからあまり気にするな。これから先のことは向こうが考えることだ。」




さすが、俺の上司を伊達に何年もしてないな。よくわかっていらっしゃる。そんなことを話してたが、時間はすでに9時半。あら、岡林くんブッチしたか。まぁいいや。それほどアテにもしてなかったし。一応佐和子に電話しとくかな。岡林くんは全部終わってからイジメるかのぉ。




そうこうしてるうちにFAXが流れてきた。いつものFAX弁護士から2人分の破産通知(正確には受任通知)。まぁ昨日連絡とれなかった時点でそうだろうなとは思っていたけどね。残りは俺の引っ張った3人と終わらしたやつか。とりあえず佐和子に電話かけてみた。おそらく出ないと思うけど。しかし、佐和子は電話に出た。岡林が来なかったことを伝えて、




「今日中に耳揃えて返してね。」




そう伝えて電話を切った。まぁ近くに業者いたみたいだし、終わった後、どう動くかちょっぴり楽しみ。




そんなことを考えてる時に電話が鳴った。恵子の父親からだった。




「昨晩は遅くまで付き合って頂き、ありがとうございました。恵子の件なのですが、朝一番で電話を掛けてみると、業者が2社来てたみたいで。本人はどうしたらいいかわからなくなってるみたいだったので、私がその業者と電話で話をして、恵子から口座番号を聞いて、急いで振りこみました。その足で銀行に連れて行かれて、お金を引き出して終わったそうです。昨日話出来てなかったら、大変な事になる所でした。ありがとうございました。そちらへの返済は数日内にしますので、誠に申し訳ないのですが、もう少し待っててください。」




俺はわかりましたと応じ、電話を切った。報告をしたら、店長も喜んでくれた。まぁそれまでに誰か持って来てくれたらそれでいいし。美知恵と折半するのもいいし。相談しながらあーでもない、こーでもないと盛り上がってた。まぁ順当にいけば、恵子の父親が払ってくれるから問題ない。




ついでに美知恵の動向も掴んでおこうと、俺は美知恵に電話を掛けた。鳴るはなるのだが・・・。ほぉ・・・ウチの電話に出ないとは、どうするつもりなんかねぇ。店長に頼んで協力業者に問い合わせをしたが、どこも捕まえてないという。まぁ他の業者に捕まってるんだとは思うけど、今日中に連絡なけりゃ考えるかのぉ。




ちょっと悪いじょにーさんが、こんにちはと顔を出した今日この頃である・・・。




俺は美知恵が連絡取れないことで一計を考え出し、店長に相談して了承してもらった。




まず恵子に電話をした。




「こんにちは。無事他のとこは終わったみたいね。お父さんから電話があったわ。昨日のやり取りは覚えてると思うけど、佐和子さんはどこかに捕まってて、岡林も今日出てこなかったのよね。まぁこれはこれでどうでもいいんだけど。んで恵子さんもわかってると思うんだけど、美知恵さんにも保証人が付いてたでしょ?恵子さんサイドだけ苦労を掛けるのも申し訳ないんで、そちらの方からもいくらか貰えたらいいなと思いまして。全部払ってくれればそれでいいし、半分でもいいだろうし、最悪貰えないかもしれないし。で、少しだけ時間が欲しいのよね。お父さんは数日のうちに終わらすって言ってたんだけど、まぁウチはそこまで急がんでもいいし、他で貰えるならそれだけ負担も減らせれるでしょ。それとお父さんは月払いの分もやってくれそうな事を言ってたから、そっちから始末していったらどうかな?そっちは恵子さん自身しか返す人いないんだし。こっちの分はウチが返してって言える人がもう一人いるしね。どうかな?承諾してもらえたなら、お父さんとは俺が話しとくよ。」




恵子はよろしくお願いしますと言ってきた。次に父親に電話した。




「先ほどは連絡ありがとうございました。少しお話があって連絡させてもらいました。恵子さんの借り入れのことですが、朝に2件終わらせたみたいですけど、ウチを除いてまだ何件かあります。たぶんTVCMしてるようなとこだとは思いますが。そういったとこは恵子さんが1人で借りてる所です。ウチの分に関しては、恵子さんの他にもう一人保証人が生きてます。お父さんに全部払っていただけると楽といえば楽なんですけど、そちらだけにご苦労を掛けるのは申し訳ないと思っています。少しでももう一人の保証人の方から貰える可能性があるので、ウチの分に関しては少しお時間を頂けませんか?お父さんに全部返済されますと、こちらがその保証人に払ってくださいという大義名分が無くなってしまいます。少しでも払ってもらえたら負担も減りますし、全部払ってくれるなら尚良し。いかがでしょうか?」




父親はしばし考えて、




「わかりました。少しでも払っていただける可能性があるのならお願いします。恵子が1人で借りてる方は準備が出来次第、払って行くようにします。お世話になりっぱなしで申し訳ありません。よろしくお願いします。」




俺は頑張りますと伝え電話を切り、店長と顔を見合わせて、お互いニヤっと笑ったのである。悪い店長とじょにーさんがコンニチワー!




そして俺たち2人は17時を待った。17時が来た瞬間にまず美知恵に連絡を取った。まぁ出るハズねぇわな。次に保証人につけた親友に連絡をした。




「美知恵さんが連絡取れません。このままでは支払い不能と言わざるを得なくなります。早急に連絡を取って頂かないと、貴女が全額返す事になりかねないのですが。」




親友はヒステリックになった。




「私が払う事はないと言ったじゃないですか!私に払えと言っても払えません。どうしてもというのなら、恐喝だと言って警察に行きます!」




あーこの類か。だったら親友面してくんなよ。世間知らずも甚だしい。まぁいいや。とりあえず揺さぶってみるかのぉ。




「えーと、ワタシはまだ美知恵さんが連絡取れませんと言っただけです。全額払わなければならないというのは可能性の話です。それと払う事は無いなんて、一言も言っていませんよ。警察行ってくれてもいいですけど、なんなら今から自宅に伺います。そこに警察呼んでおいてくださいね。家の前にパトカーとかおもしろそうですやん。旦那さんに返済を迫るつもりもないですが、話はさせて頂きますけど。協力してくれるならある程度は融通利かそうかと思いましたが、こちらもそのつもりで動きますね。」




電話を切り、店長と俺でもうひとニヤリ。とりあえず行ってきますと言うと、店長に止められた。




「じょにー、お前昨日遅かったんだからえぇわ。ちょっと延滞の段取りして、お前は集金に行け。美知恵の件は俺が行く。こんな面白そうなこと、お前だけ楽しもうたってそうはいかん。」




えっ!楽しもうって・・・。いや、気持ちはわかるが。俺も店長も博打では駆け引きを楽しむタイプ。まず確実に恵子の父親が払ってくれることが大前提だが、こいつらから取れなくても全然いいし。基本いい恰好しぃは嫌いなのである。まぁ店長なら場慣れもしてるだろうし、警察来ても屁のツッパリにもならんだろう。警察は民事不介入が原則である。金貸して連帯保証人に金返せと言って、そのたびに恐喝で捕まってたら商売成り立たんわ。まぁここは俺よりだいぶ強面の店長に花を持たそう。




店長はウキウキしながら、日報も出さずに鞄へファイルを詰めて会社を出て行った。まぁ社長が居なくて良かったかもしれん。こんなこと知れたら、社長自ら、俺が行ぐ!って言いかねんもんなぁ・・・。

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