第80話 仲本 3

仲本から取り巻きが離れていったのは、いくつか理由がある。一つ目は金の無さ。議員さんが使えるお金はある程度決まってるとは思うけど、意外とそんなになかったってこと。それ以外は仲本が持ちだしで払ってた部分もあるらしいのだが。それに関連して、仲本が何人かに金の無心をしたことも原因かな。自分たちが被害こうむる前に、足元明るいうちに離れとこうと思ったやつが何人かいたみたいだな。二つ目はせっかく議員になったのに、意外と使えねぇってこと。自分たちの利益になるようなことをやらそうと思ってたのだが、仲本は他にあるからと優先順位を落としたことにある。まぁこれは真面目ゆえにってとこだろうか。それになったばかりのペーペーの言うことなんか、誰も聞かんしな。何か頼まれた方も他の議員さんと天秤掛けたら、仲本のことなんて後回しにするだろうし。話を聞く限りでは、なかなか厳しい情勢ってのはわかった。つまり、残りの任期中に何か爪痕、結果を残さないと、次当選する目はないのある。店長とも話し合ったが、以上の理由により次回は保証人必須となったのである。




仲本もケツに火が点いてるのだろう。毎日のように書き換えを言ってきたが、毎回保証人が必要ですと突っぱねた。いっそ終わらしてもいいかなぁっと店長と言い合ってた頃、ついに仲本が保証人を言ってきたのである。




近所のおっさんで山崎と言った。仕事は農業で独り者。見た目はしょぼくれたおっさんだが、妙に理屈をこねる感じだな。俺の嫌いなやつ上位にランクインしそうなやつだ。多分だが、こいつ友達いねぇなって思った。仲本は増額を言ってきた。店長も言った手前、断るわけにもいかなかったが、まぁ30万がいいトコだろうな。そして山崎を保証人として、仲本は額面30万となった。




それからの仲本は急に支払いが悪くなった。議員の仕事がとか、議会の用事がとか、会合があってとか、様々な理由を付けて支払いを翌日にしてくれと言いだした。まぁこっちとしては保証人もいるし、議員さんやから任期中に逃げることはせんやろし、これを理由に次回は更に保証人をつけてと言うことも出来る。まぁノンビリいけばいいかと、店長も言ってたしな。




もちろん協力業者からの情報収集も怠りなくやっている。どうも山崎を他には付けてないらしい。これはこれで朗報だな。支払いも、うちと同じような感じで遅れ気味みたいだけど、まぁ大丈夫だろって感じで楽観的だった。




大勢は議員の任期中は逃げないだろうという方に傾いていき、書き換えをゴリゴリやっていってる所もチラホラ出てきだした。他のところも追随していき、仲本の金回りは若干持ち直した。にしても、日に3万強の支払いをよく出来るもんだ。なんかの金を流用してるんじゃなかろうかという疑惑まで湧いてくる。




ウチはというと、遅れて支払ってきてることを盾に、ずっと追加の保証人が必要と突っぱねてる。仲本はちゃんと払ってるからと言うが、俺らからしたらちゃんと支払ってるわけではない。遅れながらでも支払ってると食い下がるが、残念ながら遅れながらではない。遅れて支払っているのである。似たようなことを言ってるが、中身はまるで違うのである。本人にしてみたら、自分に非はないとアピールしたいのだろうがね。ありまくりぢゃ。議員やってりゃ、期日を守ることの大事さくらい、わかりそうなもんだけどな。農業をのほほーんとやってきた時の感覚が、まだ残ってんのかね。




仲本は、他所はやってくれるのに、なんでここはやってくれんのやろ?とブツブツ言いだした。保証人まで付けてるのにと。言葉の端々に俺は議員様だぞって感じが見て取れる。少々イラっとするものの言い方である。こいつ変わったなぁっと思ったが、立場がそうさせるんかね。貸してくれて当然とでも思ってんのかねぇ。




ある日、だいぶ残高も減ってきたので、そろそろどうしようかと店長も言ってたので、田舎のオカン情報局から情報を仕入れようと電話した。オカンが言うには、実家近辺の道路を舗装してもらったと近所の人は喜んでいたのだが、仲本はだんだんとそれを鼻にかける言動が出てくるようになり、最近ではまぁまぁ嫌われているらしい。道路の話を利用して、金の無心をしてくることもあったらしくって、実際何人か貸してるっていう噂もあるくらいだ。こいつ、ただの嫌な奴に成り下がったな。




仲本はしつこいくらい書き換えを言ってきた。そして店長は仲本に選択を迫った。このまま終わらすか、山崎を保証人にして15万に減額するか、追加の保証人入れて30万にするかを。結果、仲本は15万に減額する道をとった。




15万にしたら、ちっとは支払い良くなると思ったが、相変わらずのグダグダした支払い方で、任期中はずっとこんな感じやろなぁと感じてしまう今日この頃であった・・・。




仲本は日々の支払いに窮していた。まぁ普段の支払いに加えて、当選当初のハジけた生活のツケ、さらには周辺から借りたお金の返済。議員さんが自転車操業なんて、誰が想像できよう。オカン情報局からは、議員さんだから貸したって人が大半との情報を得ている。そりゃまぁ、仲本から議員の肩書取ったら、ただのしょぼくれたおっさんだからな。しかし、有権者からお金を借りて放っとくわけにもいかず、しかし日々の支払いはもっと放っとくわけにはいかない。もはや議員の仕事をしてる場合ではなくなっていて、日々金策に走ってるらしい。これは任期満了と共にゲームセットかなぁと思ったりもしてる。ひょっとしたらこいつ、2期目とか夢物語を描いとるんじゃあんめぇな。




そして時は過ぎ、任期満了まであと数ヶ月となった。他所のとこは任期中はガンガン行くと決めてるらしくって、金は回してるみたいなんだけど。これは任期切れになったら止めますよ、という意味合いに他ならない。ウチはそれを計算して、どの辺で他が引くのかを考えながら、書き換えをしていった。計算上では任期満了手前に終わる予定だったんだけど、まぁ支払いの悪い事悪い事。一日待ってくれと言われて待ったら、普通は翌日に二日分持ってくるのが当たり前なのだが、いつ頃からか、シレっと一日分しか持ってこなくなっていた。店長もこれには呆れ気味で、こりゃとっとと切った方がいいかなぁと言われる始末。もちろん俺も同意見だ。




そしてそろそろ次に向けての意思表示をせねばいけない時期に差し掛かり、仲本は大々的に集会を開こうと画策した。支援者を集めて、次も頑張りますみたいなことを言いたいんだろう。オカンの話では、どこぞの広めの会場を借りてやるみたいなことを言ってたな。オカンに行ってこいやと言ったんだが、却下された。仕方ないので、ウォッチだけ頼んだんだけど。




そして、運命の集会日。オカンの知り合いは出席したとの事で、後から話を伝え聞いたのだが、参加者ナント・・・6人。ウチ2人は出席取ったら帰ったらしい。オワタ。30~50人くらいを想定して、お金を借りてまで会場押さえたのにねぇ。




こんなことがあってもまだ、仲本は2期目に向けての執念を燃やしていたのだが、決定的に2期目を断念しなければならない理由が出てきた。そう、お金である。選挙戦を戦えるだけの資金を貸してくれるとこがないのである。まぁやり切った挙句、好転せずに終わっちゃったからなぁ。しかもかつての支援者からも嫌われることをしてきたのだから、自業自得である。仲本は結構金借りまくって返してないとオカンが言ってたしな。




しかし、この状況を知ってるのはウチだけである。全ての情報は店長に上げてるので、これをどう使うかは、店長の采配だ。予定では任期満了の時にウチの分は、残り3万くらいになってるはずだし。これくらいなら山崎が払ってくれるやろ。




店長はこの情報を義理のある所にだけ教えた。当然、その教えた所は止めるようになり、ますます仲本は窮することとなった。平気で2,3日支払いをトバすことも多くなってきた。こりゃホンマに終わったかもっていう気になってくるな。事実、他所では1週間ほど来てないってとこもあるみたいで、自宅に行っても娘しかいない時の方が多いらしい。本人いてもお金ないからとしか言わんらしくって、だいぶ手こずってるみたいだな。本人だけはまだ行けると鼻息荒くしてるみたいだけど、業者側から見たらそろそろだなぁってのはなんとなくわかるもんだ。まだ事情を知らないとこは金を突いてるみたいだが、2期目がないと知れた時点で、全ての会社が止めるだろう。そうなると終わりってのは本人もわかってるだろうから、おそらくだがギリギリまでは明かさないか、黙っとくかのどっちかだろう。議員でいるうちは、ヘタなことはされないと思い込んでる節もあるからなぁ。まぁ時間の問題である。




そろそろウチも厳しくいくかなぁと思い、連絡のなかったある日、自宅を訪問してみた。まぁ暗くなってからなんだが、電気が点いてる部屋が一つしかない。娘の部屋かなとも思ったが、とりあえずこんばんわと声を掛けてみた。中からは誰も出てこない。しかし、生活してる感がある。お風呂を沸かしてる匂いもするしな。




昔の家って、お風呂もトイレも外にあるとこが多い。俺の祖母宅も外にあったしな。子供の時に遊びに行ってた時は、風呂入るのに全裸で庭を横切ったものだ。トイレも外にあったから、雨の時なんかはずぶ濡れで飛び込んで用を足し、終わるとまたずぶ濡れになりながら家に入ってたこともあるくらい。仲本の家もそんな感じであり、風呂は昔ながらの薪で沸かす、五右衛門風呂タイプっぽかった。たしか娘さんはそろそろ高校生になる年頃だと思ったんだが、いいのかコレは?と少々疑問に思ったものだ。




娘がいることは確実なんだが、まぁ出てこないのなら仕方がない。仲本夫婦はおそらく金策へ走っているのだろう。この家族、そろそろ壊れるやろなって雰囲気が、なんとなく感じ取れたな。




そして、静かに任期満了の日を迎えたのである・・・。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る