第81話 仲本 4

仲本はその日、議員の資格を失った。残高3万ちょい。さて、これからどうするんだろう?俺的にはいなくなってくれたら楽なんだけどね。正直、今の仲本は好きになれんしな。最初は担がれて議員になったんだろうけど、使われるだけ使われて、取り巻きもいなくなり、最終的には議員という肩書を使って借金して回るってどうなんだろうね。ちなみに今回は選挙はなく、無投票でした。仲本が出れなくなり、元さやに納まった感じかな。




仲本が議員でなくなってから2,3日経った。書き換えしてくれと仲本から電話があったのだが、支払いがルーズになってたので、追加の保証人が必要と断った。それを皮切りに他所からジャンジャン問い合わせの電話が鳴ってきた。全てに店長が対応したのだが、ここで全ての情報を開示した。これで仲本に金を貸してくれるトコはなくなる。つまり詰んだのである。2期目やってりゃまだ可能性はあったんだけどねぇ。




それから一週間、仲本は支払いに来なかった。そろそろ保証人である山崎んとこに行こうかなぁと店長も言っていたのだが、本人がいたらめんどいな。連帯保証人になるということがどういうことか、結構勘違いしてる人が多いのよね。本人いたらめんどいというのは、本人いるなら本人から貰ってくれと喚くやつが多いからである。その場合、1から説明しなくちゃならない。それが結構手間なのよね。連帯保証人の恐ろしさはここにある。本人が居ようが居まいが、こちらの判断で請求できるのだ。本人が居ても支払えない場合、連帯保証人はこちらの請求に応えなければならない。よい子のみんな!連帯保証人になる時は充分気を付けてくれよな!




業務が終わり、店頭に持ってくるやつだけになったので、とりあえず本人いるかどうかの確認に行ってきますと言って、俺は会社を出た。ボチボチと暗くなっていく街並みを背に、俺は仲本の自宅に車を走らせた。




仲本の自宅に着くと、とりあえず家に向かって呼びかけてみた。一部屋だけ灯りが点いてるので、誰かいるのだろうと思ったのだが、誰も返事はない。仕方ないなとそこを離れ、保証人である山崎の家に向かった。山崎の家は真っ暗。まだ帰ってきてない感じだが、生活してる感じはあるので逃げたってことはないだろう。もう一回仲本の家に行くと、ちょうど娘が家の中から出てきた。お父さん、お母さんは?と聞いてはみたものの、朝から出ていって知りませんと言われて、そのまま走り去って行った。手に持っていたものはバスタオルが見えたので、風呂いくんだろうなと思ったが、ここで待っていて覗きと言われても嫌なので、その日は帰った。




さらに一週間待っても仲本からは連絡がないので、こりゃいよいよダメかなぁという雰囲気が出てきた。店長からは金額もそんなに大きいわけじゃないから、お前の采配で好きにしていいよと言われたので、ちょっと昼間行ってみることにした。もうこの時期になると、どこの業者も諦めたみたいで、だーれも来ないのである。夜来るだろうってことは向こうも警戒してると思うから、あえての昼間と思っていってみたんだけどね。




現場に着いて、家に向かって声を掛けてみたんだけど、当然のように返答なし。仕方ねぇなぁと鍵の掛かってない引き戸を全部開けて、中に向かって声を掛けた。




「ヤマダのじょにーやけんど、仲本さんいるのはわかってるから、出てきて話をせんかね。隠れとっても、コトは前に進まんからね。今ならどこの業者も来てないから、ゆっくり話出来るよ。」




そう言うと、俺はタバコを吸いながら、縁側に座って待った。そしたら中からゴトっと物音がしたので、こりゃいるよなぁと思い、もう一回呼びかけてみた。




「仲本さん、おるんやろ?出てきて話したら、悪いようにはしないから。」




そのまましばらく待ってると、やっと仲本が出てきた。ったく、手間取らせおってからに。




話を聞いてみると、お金もない。貸してくれる人もいない。当然のように仕事も出来ない。どうしたらいいかわからんという。そんなことを俺に言っても知らんがな。そして仲本は、俺が一番嫌うことを言ってきたのである。




「じょにーさんもここの人間やろ?同郷のよしみで助けてや。お母さんもここにいるのやったら、他人事やないやろ?いくらかでもいいから貸してや。」




俺はこの地域出身というのは基本隠してる。別に悪いことをしたからではない。もちろん本名も明かしてないし。地元ってわかると、こういうことを言ってこられるのが嫌だからである。しかもオカンの事を持ちだされるのが、もっとも嫌なのである。これは暗に、お母さんに知られたら困るやろ?と脅してるのと一緒である。もちろん知られたとこで俺は困らんのだが。オカンは困るかもしれんが、そんなことは知ったこっちゃねぇ。一番言われて嫌なことを持ちだしてきたので、俺の顔からは表情が消えた。




「おい、黙って聞いてりゃ、いらんことばかり口走って。えぇから有り金全部出せ。オカンのことを持ちだしたら、俺が言うこと聞いてくれるとでも思ったか?お前のやったことと、ウチのオカンに何の関係があんねん。ちゃんと話するなら、それなりの便宜も図ってやろうとも思ったけど、そんな気も失せたわ。グダグダ言わんと、さっさと全部出せや!」




久しぶりに頭に血が昇った。仲本は震えながら家の中の嫁に声を掛けて、金を持ってこらした。全部で6400円。領収切って、一言釘を刺した。




「お前がどうなろうが知ったこっちゃないが、あんまり人をナメた物言いすんなよ。この辺で何を言っても別にかまわんが、俺の身内になんかあった時は、全力でぶっ潰すからな。そのことは肝に銘じて生きていけ。わかったな。それとウチはもうちょいやから、さっさと終わらせろや。」




そう言って、俺は仲本の自宅を離れた。




そして、それから一週間後、仲本の破産の通知が届いたのである・・・。




仲本はついに手をあげた。まぁよく持ったと褒めるべきか。個人的に借りたお金はどうするんだろなぁという疑問はあったのだが、まぁ現状ではどうにもならんだろな。おそらく全部ひっくるめての破産だろうし。




仲本の破産の通知が来たので、俺は保証人である山崎のところに出向いた。夜行ったのだが、なんでかいない。まさか逃げたってわけでもないんだろうけど、めんどくせぇな。あと25000円弱なんだけどなぁ。




夜行っていないなら、ってことで昼に行ってみたら案の定いた。仲本の件を伝え、連帯保証人だから払ってねと言ったんだけど、なんで俺が払わないかんねんと言ってきた。そこから説明するのか・・・。っと、少々落胆したんだけど、まぁこれもなにかの修行と思って淡々と説明していった。




「仲本の借りてたお金の連帯保証人になってるのだから、仕方ないやろ。それが契約であり、法律ってもんだ。どうしても嫌って言うのなら、それはそれでえぇよ。口座差し押さえるから、そこまで手間かからんし。こっちはこっちでそちらの立場を考えて、こうやって出向いてきて話しようとしてるんやからな。」




それでも山崎は本人とこに取りに行けの一点張り。最後には警察呼ぶとまで言ってきた。




「警察呼んで納得してくれて、払ってくれるならさっさと呼んでや。こっちは悪い事してるわけではないんやし。恥かいてもいいなら、さっさと呼べ。」




山崎はホントに警察を呼んだ。警察が着くと、脅されただのなんだのと、御託を並べてたのが少々笑えたが。警察は山崎の話を鵜呑みにして、ちょっと事情を聞きたいので、署まで来てもらえる?と言ってきた。




「こっちは身分も明かして、正当な理由があってここまできたのであって、署まで行く理由はないと思いますけど。脅したというのであれば、それ相応の証拠もないと引っ張れないのでは?そちらの言い分を全部鵜呑みにするのは結構ですけど、もし何もなくて、こちらが不利益被った場合は、どう責任取ってもらえるのでしょうか?取ってもらえるのなら、どこでも行きますけど。その代わり一筆入れてくださいね。」




警察も困惑していた。まぁ実際、こんなことで署まで引っ張るのはちょっと無理がある。しかも民事不介入という大原則がある。結局、お互いよく話し合ってねと言って帰って行った。




さて、山崎はどうするかな?と思ったが、また電話をして、誰かを呼んだみたいだ。まぁそれで気が済むなら誰でも呼んだらいいわさ。




10分ほどして、見るからに偉そうなおっさんが来た。着いてから山崎としばし話をして、こちらに話をしてきた。




「ワシは澤田というもんやけど、仲本くんの保証人にこの山崎くんがなってたんやって。今はお金がないと言っとるから、ここは引いてもらえんやろか?ワシが悪いようにはしないから。それに君、ここの出身やって?○○に住んでる××さんなら、ワシもよう知っとる。君のお母さんのこともよう知っとるよ。悪い事は言わんから、ここはワシの顔を立ててくれんかね?」




まぁ仲本から話は聞いてただろうから、知ってても不思議ではないんだけどね。それにしても溜息しか出んわ。このおっさん、適当なことしか言ってないわな。




「おっちゃん、保証人になってたら払わないかんのは当たり前やろ?金がないというのなら、おっちゃん立て替えたりや。そんな大きい金額でもないし。たった25000円ぽっちや。それとな、おっちゃんが今言ってたことは強要にあたるで。オカンの存在ちらつかせたら、俺が引くとでも思ったかね?おっちゃん、俺のオカンを知ってるんやろ?だったら、今からそのオカンとやらを連れてきてみたらいい。それなら俺が引くかもしれんぞ。それとな、なんで初対面のしょぼくれたおっさんの顔を、俺が立てないかんねん。ちっと人ナメ過ぎちゃうか?他人をペテンにかけてまで、えぇ顔しようとしてるって、結構恥ずかしいことじゃないんかね?まぁ話は終わりや。さっき警察来てたから、もう一回来てもらって話聞いてもらおうか?さっさと俺のオカンを連れてこいや。連れてこれんのやったら、今から警察呼ぶからな。どうする?」




この澤田というおっさんが俺のオカンを知ってるわけがない。仲本には地元の人間しかわからん地名を出してはいたが、それは俺の実家とは全く違う地域。それに偽名も使ってる。嘘を言ってるのは明白である。それでもシレっと嘘をついてくるとこが、浅はかというかなんというか。




俺が電話を取り出すと、澤田と山崎はアタフタしだした。ホントに警察へ電話すると思ったらしい。ちょっと待ってくれと言いだした。




「おっちゃんら、他人を騙そうとするのなら、もうちょい相手の情報集めてからするもんやで。思いつきや行き当たりばったりでやってると、必ず痛い目見るよ。俺はこのことを事件にしても、何ら問題ないしな。でもアンタらはそうもいかんわな。たった25000円で前科者になるんだしな。それはそれでおもろいかもしれんから、やってみるかね?地域でも評判になるやろうし、家族も周辺からは妙な目で見られるやろし。なんなら澤田さんの家に行って、半笑いで言ってやろうか?ここの人に脅かされましたってね。さて、どうする?素直に払ってくれたらうれしいんだけどね。大ごとにするのもめんどくさいし。」




そう言うと、2人はなにやら相談をしだした。しばらくして、澤田がホントに25000円で終わりなんやね?と聞いてきたが、それできれいさっぱり終わりと返答した。




澤田が財布からお金を出してきたので、領収書と借用書とお釣りを渡して終了。




「澤田さんね、自分が何か言ったって、引いてくれる人ばかりじゃないのよ。えぇ恰好したくて間に入ったんやと思うけど、ちょっと浅はかやったね。なんで嘘ってわかったか、教えてやろうか?名前も住んでるとこもデタラメだったからだよ。じゃあね。」




俺はそう言い残して、現場を離れた。なかなかめんどくさい奴らだったな。帰る道中、仲本の家の前を通ってみたが、人の気配はしなかったな。どっか逃げたのだろうか?まぁここにはもう住めんだろうなぁ。せっかく議員さんにまでなったのにねぇ。




さて、会社に帰って、仕事頑張るかのぉ・・・。






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