第49話 税務署 3

普段は話しないとこからも、なんとなく知りたいみたいな電話が掛かってきたりしてて、結構な騒動になったな。おそらく特定の職種を狙い撃ちみたいな感じなのだろう。まぁ普通の会社はともかく、社長も税務署に入られたのは初めてって言ってたからなぁ。よっぽど目立つことが無ければ、入られるってことは周辺でも聞いたことなかったからなぁ。まぁどこぞのアホがイキっていらんことして、この職業目立たせてくれたからな。いい迷惑だ。マンガの見過ぎやっちゅーねん。




社長はそれからも税務署へ度々呼び出されて行くようになったんだけど、そんなに聞くことあるかなぁ。俺からしてみたら、タダの嫌がらせにしか思えんのやけど。まぁそういう意味合いもあるかもね。一回で聞いたらえぇだけやもん。それに電話もあるしね。




ある日、社長はフンフンと鼻息荒くして、会社に出てきた。どないしました?と聞いてみると




「あいつら、重箱の隅突っつくような話ばっかりしてきやがって。アレだめ、コレだめ、こっちが黙って付き合ってやりゃあ、図に乗ってからに。挙句の果てに5000万って言ってきたわ。アホか。だからお前じゃ話ならんから、所長呼べって喚いてやった。」




(おいおい、大丈夫か・・・。国家機関に楯突いたら・・・。)




「破産して損金計上してる分までアレコレいいやがって。実は貰ってるんじゃないの?とかワケわからんことまで言い出す始末だし。腹立って喚いてたら、所長が来たのよ。ウチを潰す気ならさっさとやれや!って怒鳴ってやった。」




(キャー!ワイ失業しますやん。)




「その所長ってのは、こういったら悪いけど、ボンクラでな。そういう話は部下に任せてるんでって逃げるのよ。んじゃトコトンまでやってみるけど、お前部下の不始末面倒見るか?って聞いたら、それは・・・って大汗掻きだしたのよね。それを池谷いうのが冷静に話してくださいって言うから、冷静に話させんのはお前やないんかい!って怒鳴ってやった。お前、上からモノ言ってきてるけど、ちっと考えてモノ言えや。誰も彼もがお前の言うことを素直に聞く人間じゃないぞ。やるんやったらトコトンやったるわ。それでウチが潰れるならそれはそれでえぇわ。その代わり、お前らもタダで済むと思うなよ。今まで言ってきたこと、なにもかもぶちまけて、お前のキャリア終わらしてやるわ。俺もただでは終わらんからなって啖呵切ってきたわ!」




(キャー!アカンですやん。)




まぁ社長の話聞く限りでは、ちょっと無理筋の話をしてきてるっぽいなぁ。ロクな説明もなく、あれダメ、これダメって感じだし。一度税理士さんに相談してみては?と言ってみたけど、社長も久しぶりに頭へ血が昇ってんなぁ。店長も俺もなだめるのに一苦労だわ。




社長はそれから税理士の所に入り浸りだした。ちょいちょい会社に来て、税理士さんの話をしてくれてたのだが、嘘かホンマか判断つかんような噂話も聞いてきたのである。




それは税務署の中でもチームがあり、それで成績を争ってると。まぁ全国の税務署がそうかはわからんけど、事実そういう税務署もあるそうだ。つまり監査に入った所からナンボ巻き上げるかを争ってるっつー話だった。そういう話があっても不思議ではないなと思うけど、警察官の交通違反のノルマみたいなもんかのぉ。ウチに入る前に入ったとこでは3000万くらいイワしたから、ここでもイケるやろとタカをくくってきたのかねぇ。それにしてもねぇ・・・。まぁ真偽のほどはわからんすけど。公務員の競争も熾烈って聞くからなぁ。




それからしばらくして、ウチより後に入った協力業者の方が、先に処分が出たらしい。なんとその金額5000万強。嘘やろ?って思った。話を聞くと、全部さらっていかれて、もう好きにしてくれと白旗を上げたらしい。のちにその協力業者の社長さんから話を聞かせてもらう機会があったんだけど、この金額がギリギリのとこだったらしい。何のギリギリなんだろ?って思ったが、会社が潰れる丁度1歩手前の金額だったんだってさ。これ以上だと、会社閉めてたかもしれんって言ってたから、まぁまぁ絶妙の金額だったんだろうな。生かさず殺さずってとこか。こいつら、なかなかやりおるわい。




なんやかやとウチは粘ってるみたいなんだけど、他所は結構白旗を上げてるとこが多いみたいで、どこもン千万クラスを持って行かれたらしい。まぁ叩けばホコリも出るやろ的に話されたとこもあるみたいだった。可哀そうなのは、ここまでやられるとは思ってなくて、心折れて廃業を選んだとこさえあった。そこは結構まともにやってたみたいなんだけどなぁ。まぁアレコレ言われたんだろなぁ。




そうこうしてるうちに、社長が最後の話し合いに出かけていくのであった・・・。




その日社長は一旦会社に出てきた。しばらく何かを思案してた感じで、ずっと座って目を閉じていた。こりゃなかなか厳しい戦いかのぉ。よくはわからんけど、税務署側からしたら、ツッコミどころが満載じゃろって思ってるんだろうなぁ。そしてお昼を回り、社長は出掛けていったのである。




途中、税理士さん拾っていくって言ってたから、税務署出ていくのは13時半か14時ってとこか。俺も店長も仕事が手につかなくなった。そりゃそうだろ。俺らが失業するかどうかが今日決まるんだからな。




ドキドキしながら仕事を捌いてたが、16時頃、社長は帰ってきた。俺と店長は裏に呼ばれた。そして社長から結果を聞かされたのである。




「正直あまりおもしろくない話やけど、印紙代を突っ込まれた。こっちがトコトンまでやるって言ったのが結果的にはよかったらしくって、正直県税は裁判やらなにやらはしたくないらしいのよ。税理士さんの話では、言ってきてたことは無理筋も無理筋で、なんとでもひっくり返せるって言ってたし、税務署からしたら痛くもない腹を探られる前に、白旗上げるやろって思ってたらしいわ。事実、ここ最近入ったとこはほとんどが白旗上げてるみたいだしな。ウチの抵抗があまりにも強くって困り果ててたとこを、重箱の隅をほじくって出てきたのが印紙代ってことだ。貸付件数にプラスして、書類の枚数からして印紙代が少なすぎると。まぁコレ出されるとグウの音も出ん。税理士さんと相談したら、ここらが落としどころと言っててね。んじゃいくらやねん?って聞いたら、年400万の三年分、1200万って言われたわ。考えてみたけど、これ以上突っぱねても仕方ないってのもあったが、もうちょいなんかオマケ付けて欲しいやん。んで、それを支払う代わりに向こう3年間、理不尽なことはせんから接待交際費を100%認めてくれと言ったら、じゃあそれでってあっさり話がまとまってな。署長もこれ以上、ウダウダしたくなかったんやろな。まぁ税理士さんもいたから、お互いに揉めてもめんどくさいだけだって言われて、それで折り合いつけたのよ。」




話を聞いて、とりあえず失業しないことに俺たち二人は安堵した。そして社長は宣言した。




「これから釣り行く時のガソリン代からエサ代、渡船代から飲食費、宿泊費まで全部経費。それからお前らの飲み代も、領収を貰ってこい。全部とは言わんが、ある程度は経費で落としてやるから。ついでに月1くらいなら風俗行ってきてもいいぞ。」




俺と店長はそれを聞いて吹き出した。まぁなんにせよ、これで一件落着になったのはよかった。1200万は結構な大金だが、まぁこれはこれで割り切るしかないだろう。これ以上ツッパると、ちょっと怖い目に合うかもしれんしな。




話は走り幅跳びするほど変わるが、同じ年に俺はマンションを買った。まぁ猫の額ほどのマンションだが。なんか住宅減税とやらがあって、最初はどうしても確定申告に行かなければならないらしい。




翌年の確定申告の時期に、俺は社長に断りを入れて確定申告に向かった。まぁ経験ある人もいるだろうけど、確定申告の会場は混む。アホほど混む。入ると番号札を持たされて、椅子に座って順番まで待つのである。数十人待ちは当たり前。普通に1時間待ちくらいである。まぁ確定申告なんぞしたことないから、とりま行ったらなんとかしてくれるやろって思ってた。そしてやっと俺の順番が来たのである。




案内役の人に促されて、俺は椅子に座った。担当してくれた人がいきなり、




「久しぶりやね。」




と言ってきた。誰だ、こいつ?って思ったが、マジマジと顔を見て思い出した。池谷だ・・・。俺は少々ビビってしまった。まだなんかされるんかと思ってしまったくらいだ。今日は?と池谷に聞かれて、俺は用件を伝えた。書類を出して説明を聞いてみたが、どうも書類が足らないらしい。法務局行って、登記簿取ってきてと言われた。まぁあまり仕事に穴を開けたくないんで、今日中に終わらしたかった俺は、会場を出てタクシーを拾い、法務局に向かった。道中、社長に電話をかけた。




「アルバイトも含めて、何十人も税務署側の人間いるのに、なぜかあの池谷が担当になりました。」




社長もへっ?なんで?って言ってたけど、俺にわかるハズもない。まぁ俺のことなんで、問題ないとはおもいますけどっと言っといたけど。正直気味悪い。




法務局着いて登記簿を出してもらい、その足で会場に戻った。俺を見掛けた池谷がこっち来いと合図する。なんか嫌だなぁと思ったが、まぁさっさと終わらしたい。




池谷は書類を見ながら計算してくれた。それをやってる最中に、儲かってますねぇ。いいとこですねぇ。とチクチク言ってきた。こいつ絶対性格悪いわ。税務署員だから、そういった見方しか出来んのかもしれんけど。




そして、全ての手続きが終わった。俺はありがとうございましたと頭を下げたのだが、池谷は笑顔で一言言った。




「おつかれさまでした。これで住宅減税の手続きは終わりです。それとねじょにーさん、じょにーさんとはまた会えそうな気がしますよ・・・・。」




俺はその言葉に震えながら、会場を後にした・・・。



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