第48話 税務署 2

それに気付いたのは社長だった。なんか周囲が、誰かに張られてるような感覚がすると言ってきた。それを言われて、俺も店長も何をバカなと思ったが、まぁ気を付けるに越したことはないかな。




俺も通勤時、また集金時、外に出る時なんかは気を付けてみたけど、さっぱりわからん。そう言われれば全員がそう見えるし、そうでないと思えば、全員が関係ない人間に見えてくる。まぁそういうもんに関しては鈍感の一言で片付いてしまう俺だからな。




そして、ちょっと前に踏み込まれた協力業者の処分が決まった。3000万超のペナルティー。それを聞いて、結構隠してたのねと思ったが、実はそうでもないらしい。社長からの話を聞いた限りでは、アレもアカン、コレもダメといろいろ言ってきた挙句、さらに重箱の隅をほじくるようなことまでしてきたらしく、話するのがめんどくさくなって、ほぼほぼ税務署の言い分を飲んだみたいだった。規模はウチとそこまで変わらんはずなんだけどな。社長は戦うことをやめたら、これ見よがしに来るからなと言ってたな。まぁそれが仕事だからわからんではないんだけどね。実際自分トコがやられたら、どうなんだろうね。




そしてついにウチの順番が回ってきたのである。




その日はいつものように7時前起床だったが、8時前に社長から電話が掛かってきた。




「家の中から外を見てると、スーツ姿のヤツがウロウロしてるみたいでな。おそらく今日だと思うから、一応心の準備をしといてくれ。やるべきことは店長に伝えてるから、その指示に従ってね。」




わかりましたと応じ電話を切ると、すぐに店長から電話が掛かってきた。




「社長から電話あったと思うけど、まぁそういうことらしい。一応俺は今から会社に行くけど、お前も早めに出てきてくれ。」




俺は電話を切ると、すぐにスーツへ着替え、エレベーターをポチって来るまでの間、上から周囲を見回してみた。普段と変わりないんだけどなぁと思いつつも、車に乗り会社に向かって走り出した。




会社に着くと、すでに店長は着いてるみたいで、中でコンピューターを立ち上げていた。どんなのが来るかわからんのだが、まぁ覚悟だけはしとくか。




事務員さんも来て、9時になり業務を開始した。その直後社長から電話があり、




「今から税務署の人が会社に行くみたいだから、言われた通り書類見せてあげて。」




と言われた。社長、セリフが棒読みでしたぜ。店長に一応電話を代わって、同じようなことを言ってたみたいだが、店長も少々笑ってたな。ものの5分もしないうちに、税務署員が3人来た。身分証明書を見せながら、池谷と名乗ってきた。




「今日は店長さんもじょにーさんも早い出社でしたね。」




げっ!こいつらやっぱ見張ってたんか。やべぇ。まさか俺の性癖まではバレてないだろうな・・・。まぁそれは一旦置いといて、とりあえず対応は基本店長がすることとなった。俺は普段通りの仕事をするだけ。




それでも気になって、裏をチラチラ覗き見してたんだけど、3人のうち2人は話してるんだけど、残りの1人は黙々とコピーを取ってるな。一つのファイルに付き、申込用紙の表、裏、借用書、保証書などなど。このペースで行くと生きてる客だけでも、1週間くらいかかりそうだし、資源の無駄遣いじゃね?っと思ってしまった。そうこうしてると、今度は俺が呼ばれた。店長を前に行かして、アイコンタクトを取れないようにしてからの事情聴取か。ちょっと怖いなぁ。池谷は、




「じょにーさん、少し話聞きたいのですが、今生きてる分はこれだけでしょうか?そんな風には思わないんですけど。もっとあるでしょ?隠してるのを知ってるってだけで、それ相応の罪に問われたりしますので、知ってるなら今の内に言ってください。」




なんか言い方ムカつくな。ハナっから隠してるやろって決め付けてくるやり方は好きじゃねぇな。しかし、この税務署員の話し方には学ぶことがあった。それは3人で来てたのだが、1人は何も言わずに黙々と延々とコピーを取ってる。これは若手なんだろうな。そして残った二人が話をするんだけど、一応役割分担が決まってるっぽい。エース格、指揮官と言えばいいかな。今回のケースでは池谷がこれにあたる。こいつは年齢はそこそこなんだけど、厳しくいろいろ聞いてくる役割。口の利き方は少々キツいが、ボロ出すと食らいついてきそうだな。もう1人はこちらに同意する役割。見た目50少々過ぎたとこで、温和な感じを持ったやつである。二人のコンビネーションでボロを出すように仕向けるんだろうな。これは勉強になるな。




「ここにあるやつしか知りませんし、他にあるとか隠してるってのも聞いたことはありません。店長がおっしゃってることが全てですので、私に聞いてもわかりません。」




そう俺が言うと、池谷は、




「おかしいもん。」




と言ってきた。へっ?って思ったけど、おかしいと言われても、知らんもんは知らんもん。そんなやりとりしてた最中に、社長から店長に電話が掛かってきたみたいで、




「池谷さん、社長から電話があって、このまま居座られたら仕事にならないんで、書類を全部一回持って帰ってくださいって言ってますけど、どうします?」




池谷はそれを聞くと、どこぞに電話をかけ始めて相談しだした。




その後、池谷と店長が相談して、税務署からプラスチック製の折りたためるボックスが届けられることとなり、それに数を確認しながら詰め込んで、持って帰った。




ボックスを運んで出ていった瞬間、俺と店長はでっかい溜息をついた・・・。




その日は仕事にならなかった。あの人達はあまり他人の迷惑ってもんを考えてないな。こっちの都合お構いなしで、居座るからたまったもんじゃない。が、この時点では一応任意なんで、断ることも、日時を変更してもらうことも出来るらしい。まぁそれをすると、後々面倒らしいんだけど。




結局後始末に追われて、また集金もあり、自宅に帰りついたのは22時を過ぎてた。何もなければ集まろうかという話もあったのだが、今朝早い出社ですねと言われたのが引っかかってたこともあり、今日も張られてることを考慮して、取りやめたのである。まぁいつもの居酒屋もバレてると思っていいだろなぁ。まぁその気になりゃあ、どこでも集まれるし。




翌日、ファイルがないので貸付が出来ない。まぁ全然ではないのだが、自分の記憶だけを頼りに、保証人はコイツとコイツだっけ?などとまぁ思い出しながらやったんだけど、手間かかるわなぁ。まぁそれでもなんとか最低限のことはしたんだけど。夕方、やっとファイルが戻ってきた。とはいえ、よくコピーとったもんだな。税務署中にあるコピー機を総動員したんだろうか?昨日会社でやってた感じで見ると、軽く3000枚は越えるんだけどな。コピー用紙代も結構なものだろう。




その日はちょろっと集金があっただけで、尾行に気を付けながら集まることとなった。まぁその辺はなんとでもなる。俺も後ろからの尾行がない事を確認して、集合場所に向かった。そして、普段はいかないであろう、ちょっと街から離れた居酒屋に行った。社長がおつかれとねぎらってくれたのだが、ホンマに疲れた。




ビールを頼み、飲みながら話した。代行で帰るのはめんどいんだが、まぁそれは仕方ない。とりあえず、社長から話を始めた。




「おつかれ。俺、お前らに電話かけた後、一応朝めし食って待ってたんだけどな。しばらく周辺をウロウロしてるだけで、入ってこなかったのよ。なんというか、バレバレというかヘタクソというか。9時前になってインターホン鳴らして入ってきたんだけど、5人来たのよ。俺捕まっちゃうのかと思ったけど、まぁ1人が税務署の監査だとかなんとか、紙を読みながら言ってきたんだけど、その後ろで1人がどこかに電話しながら、「確保」しましたって言ってたのさ。それ聞いて俺笑っちゃってさ。あー俺確保されたんだってね。逃げも隠れもせんけど、まぁ俺1人に対して5人来たってのは驚いたな。一応任意だったんだけど、家上げていろいろ見せてとまぁ、ウロウロされたんだけど、見られて困るもんもないしな。ちょっとエッチなDVD置場を見られて、パッケージ開けてって言われたのは少々恥ずかしかったな。いちいち断らんといかんらしいのよね。まぁ当然のように何か出るわけでもないんだけど、向こうは何か見つけんと帰れんというような雰囲気だったんよね。たぶん、そっちの会社に行ったやつとも連絡取ってたと思うけど、会社の方も何もでんやろし、店長とじょにーに話聞いてもどうにもならんってわかったんやろな。会社にずっと居座られても仕事にならんから、一回書類を全部持って帰ってもらって、コピーとって戻してもらう方がいいかなって思って、そう提案したのよ。まぁ向こうにしても、ゆっくり腰据えて調べれるってことで、渡りに船だったと思うんだけど。今日返ってきたやろ。たぶん必死こいてコピー取ったと思うし、あとは向こうの出方を伺うだけやな。まぁお前らは普段通り仕事しとけば問題ないと思うから。」




わかりましたと二人で応じ、あとは普段通りのくだらん話になっていった。とはいえ、頭の片隅には税務署きた事実が残ってるんだけどね。




翌日からはしばらく平穏な日々が続いた。そうこうしてるうちに、協力業者がまた一つ、税務署に踏み込まれた。そこは放置してた会社で、なんの対策もしてないと社長も言ってた。規模はウチより二回りくらい小さいんだけど、いったいいくらやられるかわからんとも言ってたな。話では洗いざらい持っていけと、会社中の書類をさらっていかれたとか。後で話聞くと、もうちょい対策なり、なんなりしとけばよかったと、ガックリ肩を落としていたな。




それから街中にある中堅どころの街金が、軒並み税務署に入られた。だいたい6年以上営業してて、貸付残高2億未満ってとこが入られたらしいってのが、あとの話でわかった。まぁ後は各々の会社の対応次第だろうけど、ウチは出てこなかったんだから、お咎めなしかなぁと社長も俺たちも甘い考えをいだいてたんだけど、まぁそうそううまくはいかんよね・・・。


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