第50話 さつき 1

事実は小説よりも寄なり。多かれ少なかれ、そういった経験をされてる方も多いかとは思いますが、ワイもその1人です。自分ならこうすると考えてても、他人の考えは斜め上行くことも多いですので・・・・。




さつきはもうすぐ50歳を迎える、お百姓さんの嫁さんだ。本人も一緒に農業をやってるとは言ってるものの、借りに来た時の恰好はとてもではないが、そういった農業をする格好ではなかった。




最初は事業資金として10万借りていったが、まぁまともに仕事はしてないだろうなとは推察してた。パチンコに使ってるのは間違いなくて、貸してから何度かホールで見かけたこともある。まぁダンナに内緒だから、とりあえず大丈夫だろうって感じで貸したんだけどね。貸してからはまぁ可もなく不可もなくって感じで、パチンコ代だけあればいいかなって感じで続いてた。大勝した時などは一回全部返しとくといいながらも、次の日にはやっぱりまた貸してとくるようなやつだ。まぁ他業者からの問い合わせもないんで、ウチだけならなんとでもなるやろと、まぁまぁノーマークなオバサンである。




初めて貸し出してから、なんやかやとしながらも3年が経った。その間も10万から額面が変わることもなく、支払い時にパチンコで勝った負けたと、なかなかうるさいオバさんであった。




ある日、さつきが支払いに来て、またワイワイとパチンコの話をしだしたのだが、その時に丁度支払いに来た客がいた。名を要一と言う。要一はまぁ典型的に自転車操業してる多重債務者。代行運転でその日をしのいで、昼はパチンコしてるようなクズである。歳も40をちょっと超えたくらいなんだが、結婚歴もなく、ただ毎日を漫然と生きてるって感じだな。一応彼女らしきやつもいるんだがね。その彼女は純代という。例に漏れず多重債務者であり、ウチの会社では二人とも融資してる。要一とは相保証。飲み屋勤務なんだけど、こちらも40歳を超えたオバさんである。本人の話ではまぁまぁ人気があると言ってるが、事実かどうかはさだかではない。そんな要一とさつきがバッタリ会った。




「要一くんやん。ひさしぶり~。勝ってる?」




と軽口を叩いてたが、要一も




「さつきさん、元気でやってる?出てる店教えてよ。よかったらその辺でコーヒーでも飲んでいく?」




そう言って要一は自身の分と純代の分、さつきは自身の分を支払って会社を出ていった。




店長も少々面食らってたが、2人が知り合いだったってのはビックリした。次なんかの時には括っとこうと思ったが、それをしたらちょっと困ることにもなるかなぁと店長と話し合った。




さつきはただパチンコ代が欲しいだけである。今のままなら長く付き合っていけるんだが、要一が絡んでくるとそうもいかなくなる。要一は多重債務者であり、その彼女も同様。つまり他の業者でも借りている。そこを連れまわされたら、ちょっとめんどいかな。とはいえ、要一や純代は今でもまぁまぁギリギリなんだけど、ちょっと歯車がかみ合わなければ、明日にでもトンでしまいそうなやつらである。それを見越して括るか、はたまたさつきの分はさつきの分で押し通すか。2人でメリットデメリットを考えた結果・・・結局括ることとなった。次チャンスがあれば持ち掛けてみようと思う。まぁウチがやるか、他所がやるかだけの違いだろうけど。




翌日、要一が書き換えを言ってきた。まぁこんなに早くチャンスがくると思わんかったけど、とりあえず保証人が必要と伝えた。保証人は彼女しかいないとボヤいてたが、




「ウチであったさつきさんに頼んでみたら?ウチでも融資してるし、まさか嫌とも言わんだろ。」




と持ち掛けてみた。わかったと電話を切ったんだが、さてどうなることやら。




しばらくして要一から電話があった。さつきは無事オッケーしてくれたそうだ。純代にもちゃんと説明しといてよと伝え、三人で出てくるように言った。この際、純代の分とも括っとこうという腹である。ワイも平気でこんなことを考え出したんだなぁとちょっと窓を開けて空を見上げた。




三人が出てきたのは要一からの電話から一時間ほど経ってからだった。三人の中で妙に純代は不機嫌であった。寝起きなのかなんなのか、とにかく不機嫌だった。まぁ気にしてもいかんので、とりあえず書類を仕上げた。要一、純代ともに20万、さつき10万だったんだけど、さつきに持ち掛けてみた。




自分だけ10万ってアレだから、額面揃えとくかね?」




さつきは別にいいと断ってきたが、要一が滅多にない機会だから上げといたらと言ってきた。こいつ上げた分借りるつもりやなと思ったけど、まぁその辺は俺の知ったことではない。




結局三人共々金額を揃えて20万となった。まぁ心配もあったが、とりあえず要一と純代の分を振れるように出来たのはよかったかな。あとはこの三人がどう動くかなんだけど、それは自分にもわからんしね。これからは少し注視しておこう・・・。




さつきと要一は案の定というか、予定通りというか、借りに走り出した。二人ともパチンコ代欲しさなんだろうけど、他にも何か別に使ってる節あるな。純代とさつきの絡みが少ないのがなんとなく答えのような気もしたが、まぁそれはそれだ。そもそも純代もウチに借りに来た当時は結婚してたからな。それを魔が差したのかどうなのかは知らんが、出会い系で要一と出会い、2人でワッショイしてるとこをダンナに踏み込まれてアウト。子供とも会えない距離になってしまい、慰謝料も二人してまぁまぁの金額をふんだくられたらしい。それから2人で暮らすようになり、借金も膨らんで行きだして現在にいたる(要一談)。要一はそこまでいい男とは思わんけどなぁ。借金もつれでパチンカスで腹の出たオッサンなんだけどね。それから要一は知らないかもしれないが、実は純代にはもう一つ裏の顔があることを俺は知っている。そのことについては後ほど・・・・。




さつきが支払いに来ると、必ず要一の分も持ってくる。たまに純代の分も持ってくる。要一が持ってくる時はさつきの分を必ず持ってくる。純代の分はたまに預かったと持ってくる。純代は自分の分だけのことが多かったが、たまにさつきと要一の分を預かったと持ってくる。最近要一がいつもさつきとつるんでるのが気になるなぁ。ウチの会社の下には車を1,2台停めるスペースがある。たまに窓を開けて眺めていると、要一のポンコツ軽四が停まる。要一が降りて来たかと思えば、助手席からさつきがおりてくる。そして車を置いて二人とも別々の方向に歩きだす。二人で手分けして払いに行ってるんだろな。支払いが全部終わると2人で車に乗ってどっかに走り去るんだが、まぁ普通に考えりゃ、この2人デキてんな。盛りのついたおっさんおばはんは始末が悪い。




2人がデキてるとして、純代の存在はどうなるんかねぇ。要一もおそらくバレなきゃいいだろ的な考えなんだろうけど、女のカンはするどいと言うからねぇ。まぁ何事もなく、穏便にいってくれたらいいんだけど。




サラリーマン時代、俺は何度か引っ越したんだけど、引っ越した先はなぜかラブホの隣ばかりだった。その当時も隣がラブホで、7階建ての7階に住んでた俺は、エレベーターが7階に来るまでラブホの駐車場を見下ろすことが日課になっていた。




ある土曜日の午後、パチンコでも行こうかと思い、部屋を出てエレベーターのボタンをポチった俺は、いつものようにラブホの駐車場を見下ろしてたんだけど、なぜか見慣れた軽四があった。あー要一のポンコツ軽四だわ。後ろが電柱にバックでぶつけたように凹んだ跡、屋根は少々塗装が落ちて妙な模様になっている。いつも会社の窓から見下ろしてるから間違うハズはない。ってことは、さつきとワッショイしてるのか。純代の可能性も残されてはいるが、純代となら自宅で終わらすわな。どっちでもいいんだが、さつきにしてもダンナいるだろうにいいんかねぇ。要一にも純代がいるが、怪しまれんのかねぇ。まぁ一緒にいても毎日パチンコ行ってりゃなかなかバレんのかもしれんね。




一方、純代はと言うと、要一から聞くに毎日朝方5時くらいまで働いてるという。要一は代行だから3時には仕事が終わる。帰って寝てパチンコ屋が開く9時になると目が覚めるが、純代は帰ってきてたら隣で寝てるし、帰ってきてなかったら店で酔いつぶれて寝てるという。まぁ気にもかけずに起きたらパチンコ行くらしいけど、この2人の関係はなんと表現したらいいのかわからん。同棲なのか同居人なのか、ルームシェアしてると表現した方がいいかもしれんけどね。まぁ要一も純代に対してそこまで関心が無くなってるみたいだけど、今はさつきとワッショイする方がたのしいのかもね。




それからなんやかやで数か月経ち、さつきは1万、要一は3万、純代は2万を毎日支払っていた。三人共日々の収入から支払える金額ではなくなっていた。さつきはまぁダンナが働いてる金から支払えるとしても、要一や純代はそうもいかない。なので、女の純代はともかく、男の要一がどうやってお金を構えてるのかを不思議でならなかったが、知り合いに同じ代行で働いてるやつがいたんで知ることが出来た。要一は自分の稼ぎがいい時は黙っていて、他がいい時はそこから借りるらしいと言ってた。いつ返してるの?と聞いたらハッキリ言うと返してない。代行の世界は出入りが激しくって、一週間持たずに辞めるやつもザラ。給料は基本日払いなんで、続かなそうなやつからちょいちょい借りてるみたい。それも1人から1万2万を借りるのではなく、1000円から3000円くらいを細かく借りていくって言ってたな。なかなか芸が細かいやつやな。辞めていくやつはそれくらいの金はもういいやって思うだろうし、手間の方が多くなってしまいそうだから、基本あきらめるみたいね。




さつきがダンナの一生懸命稼いだ金をパチンコへ、要一との情事へ使ってると思うと、さすがにダンナが可愛そうになってくるわ。子供も一男一女がいるが、知ってるんかねぇ。知ってるわけねぇか。




まぁ俺は粛々と仕事に邁進するだけだけど、毎日こんなの相手にするのも精神的に良くないなぁ・・・。


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