第44話 永井 2

整理をしてから一週間くらい経ったある日、永井からまた貸してくれと電話があった。さすがに早すぎんかと思ったが、事情を聞いてみた。自分が経営してる携帯ショップの売り上げが下火になったこともあるんだけど、そこに親戚から経理担当が送り込まれ、全てのお金を管理下に置かれるようになったらしく、遊ぶ金が無いとのこと。遊んでる場合じゃないだろと思ったが、店長に代わると案の定保証人をと言われたみたい。おそらく藤森連れてくるんだろうけど、今度はまぁ10万ずつだなとボソっと言ってたな。




永井は予想通り、藤森を保証人に付けるといってきた。そこで10万ずつねとこちらの条件を出したが、渋ってきた。




もうちょいなんとかならんすか?




自分の携帯ショップを掴まれてて自由になるお金がないのに、これ以上借りてどうやって支払っていくんだろ?と思ったが店長は、んじゃ別な保証人連れて来てくれたら考えるよと言った。永井は渋々10万ずつの計20万を借りて行った。




永井と藤森が帰った後、俺は店長から意見を求められた。




俺はおそらくもう末期だと思ってるし、次の整理はないと踏んでます。今まで親が出してきた金額もさることながら、親の名義で結構な額を農協で借りてるみたいですし。もう整理する力はないと思います。藤森の方ですが、直近の整理で迷惑はかからなかったとはいえ、本人に終わらす力はないはずだし、親の方も弁護士入れての整理なんかになるとややこしいですしね。次なにか言ってきた時に新たな保証人を括り、道筋立てておく方がいいかなと思います。




そういうと店長は、




俺も同意見やな。こいつはその方向で行こうかね。




と言った。




その後、藤森と一緒に借りまくってたみたいだけど、収入を押さえられてるのですぐに行き詰って泣きついてきた。誰か保証人いたら相談乗るよとしか言ってない。そのうち永井はどこで聞いたか知らんけど、俺が後輩にあたることを持ちだしてきた。先輩を助けてくれと。ちょっと先に生まれて、何もしてもらってないのに、先輩面されてもなんだかなーって感じ。もっとも、俺がそんなもんに動じることもなかったんだけどね。昔それで痛い目見てるし。




しばらくすると永井は切羽詰まったのか、自分の彼女を保証人にすると言って来た。審査をしてみたがあまりパッとしない。自身にも借り入れあるし、スーパーで勤めてるだけでそこまで収入があるわけでもない。身内も母親しかいないからなぁ。こいつもおそらく連れて走るだろうなと推察出来た。店長も同意見で、んじゃ彼女名義で10万だけって話になった。永井はどうして?と食い下がったが、審査の結果としか伝えなかった。当然藤森にも相保証してもらうようにもなるんだが、書類書き上げてからのことになるよと伝えると、永井は急いで藤森に電話をかけ始めた。なかなか出ない様子だが、藤森もそろそろ嫌気がさしてきたかな。自宅と職場に行って来ると言い残し、永井は彼女と慌てて出ていった。あー今日の支払い自体ないんだなと推察。末期も末期だねぇ・・・。まぁ今日貸せたらもう一ヶ月くらいは持つだろうけどね。もしもの為に一応臨戦態勢を整えた。




永井が出ていって30分ほど経った時、他所から問い合わせがあった。永井が彼女を連れてきたと。あー天秤かけてたんかと呆れてしまった。店長は正直に藤森きたら括って10万出す予定と伝えた。まぁそうするよねぇと向こうも言ってたみたいだし。さてどこが先に動くかなぁ。




結局、永井は藤森を職場で捕まえて、三人でウチに来た。藤森が超機嫌悪そうなんだけど、まぁそれは俺たちには関係ない。仕事してるとこに押し掛けてきて、金借りるからって連れてこられたら、まぁだいたいの人は不機嫌になるわな。まぁ兎にも角にも書類を仕上げ10万渡したが、その日の支払いを渡した金から出して、いそいで出ていった。それから10分後に、ちょっと前に問い合わせのあった業者からまた問い合わせ。三人でウチ来たけど貸した?と。貸しましたよーと言ったら、んじゃウチも乗っかっとくーと返事が来た。




永井の手持ちのコマはおそらく彼女が最後かな。携帯ショップを一応偵察しにいったけど、すでにやってる気配がない。親戚はもうダメだと閉めたんだろな。こりゃ詰んでますと店長に報告を上げた。




それから1ヶ月ほどは彼女を連れまわし、ウチ入れて10件ほどの支払いになったらしいけど、支払いは全盛期の半分の3万ほど。でも収入がないからゲームセットも近いな。方々に貸してくれと言ってるみたいだけど、もう貸す業者はいない。それとこいつはヤミ金にも手を付けている。ヤミ金の経営者から問い合わせがあった。店長にもそのことを伝えると、おそらくここ一週間くらいだなと言いだした。なんらかのリアクションがあるとは思うけど、法的なのか、暴力団使って来るか、はたまた逃亡か。どの手段を取るかで動き方が変わってくる。まぁまずは出方を伺おう・・・




永井はすでにリミットを越えていた。その頃はまぁ結構闇金が巷を騒がしてた頃で、トサン(十日で3割の利息)やトゴ(十日で5割の利息)などの、途方もない利息を取るやつが蔓延ってた。永井はそんなとこにも手を付けてるらしく、それも1件2件ではなかった。店長にもそのことは伝えたが、さすがにもう詰んでるなぁとつぶやいてた。




まぁ記憶にある方も多いかもしれませんが、ある業者が腎臓売れだの、角膜売れだの言って問題になったことがある。正直言って、大阪ミナミを舞台にトイチを営んでいる某マンガに影響され過ぎである。実際やろうとしたとこで国内では無理だろうし、海外でワンチャンかもしれないが、そこまで連れて行くやつと付いていくやつの旅費、着いた先で医者に頼むんだろうけど、その報酬。諸々の折衝。まぁ正直めんどくさいだけである。それするくらいなら、タコ部屋か遠洋漁業にでも放り込んだ方が合理的と思う。




そのことが原因で商工ローンだったかが問題になり、ひいては貸金業全部が悪いみたいなことになってしまい、利息制限法改正で利息が半減してしまったわけなんだけどね。当然それでは維持できないと廃業し、失業した人もいたわけだ。その方々の一部がヤミ金になったってのもあり、まぁ全盛期と言えるほどの盛況さを生むわけなんだけど。知り合いの会社に勤めてたやつも闇金になってたな。まぁそれはそいつの人生なんで、俺がとやかく言うつもりもない。




基本的には法規制云々よりは、借りた時の利息がいくらでも、わかってて借りたのなら、その条件で返しなさいというのが俺のスタンスである。利息が高いと思うのなら、借りなきゃいいだけである。ただ法規制がなく青天井になれば、昔の韓国みたいになってしまうのもわかってる。だからこそ法で守られてるんだろうけど、その法の上限を越えてる利息とわかっていながら借りるっていう思考が理解出来んのである。上限越えてますよって警察にチクったらえぇだけやん。それをせずに目先の金を借りる為に必死になるのもいかがなもんかなとも思う。しかも支払い出来なくなってから警察に言うぞと脅す輩もチラホラ。自分の現状が悪いのは人のせいにするっていうのはいい加減やめた方がいいかなぁと思う。パチンコで破産する人多いからパチンコに規制を課すというのもちょっと違うように思うけどなぁ。パチンコ台が悪いわけではなく、パチンコにのめり込む人の方が悪いと思ってはいけないんだろうかね。まぁそれも依存症という言葉だけで仕方ないになってしまうんだろうけど。まぁこれはあくまで俺個人の考えなんで、気に入らん人はスルーしてね。




話がそれました。元に戻します。




永井は借りた金を返済に回しながらも、遊ぶことをやめなかった。俺も飲みにはいくんだけど、ちょいちょい見かける。その時に彼女ではない女を連れて、ちょっとおしゃれなスーツきて闊歩してる。実情知ったら一緒にいる女は何を思うんだろうなぁ。彼女を保証人にして借りたお金で、他の女と遊ぶってどんな気分なんだろうねぇ。そんなことしたこともないし、したいとも思わんからわからんけどね。




ある日の金曜日、支払いにきた永井は妙に明るかった。普段なら不機嫌な感じでさっさと払って帰っていくんだけど、その日は違った。ウチの事務員相手に雑談をしていくのである。後ろから聞いてたけど、なんかいつもと違うよなぁと思い、帰った後に店長に言ったのだが、おもむろに何軒か電話をかけ始めた。うんうんと頷きながら話してたのだが、そのあと呼ばれた。




永井はおそらく月曜日に支払いこないと思う。それは月曜日にヤミ金の支払いが集中してるから。おそらくこの週末で何らかの結果を出して、動き出すやろな。それがどんな動きかはわからんけど。現状考えたら弁護士使っての債務整理が濃厚だけど、破産は出来んやろし、やらんやろ。もう一つの可能性としては、逃亡やな。暴力団介入も考えてみたけど、永井なら暴力団がどういうもんかもわかっとるやろ。実家もろとも食い散らかされて終わるからな。それに闇金ツマんでるってのがネックだろう。これを抑えるには、さらに上へ話せないかん。まぁ話が出来るかどうかは別にしても言えるのは、上の人間ほど使うと金がかかるってことだ。実家にしてもそこまでの余力があるとは思えんのやけどな。




なるほど。それでどうするんすか?と聞いたが、支払い来た以上どうしようもない。誰が取り残されるかだが、どうなるかねぇとちょっと他人事。まぁ取りに行けと言われれば、取りに行きますけどね。とりあえずこの週末になにかの奇跡がない限り、永井は月曜日に支払いこないってことだけはわかった。まぁ考えても仕方ない。この仕事、後手に回るのは仕方ないことだ。




その日は仕事が終わり、友達と飲む約束があったので飲みにいったのだが、居酒屋行っておねぃちゃんの店に向かう道中、永井がいた。スーツでなく、普段着でおねぃちゃんを連れてるわけでもなく、ボーっと歩いてた。俺は友達と一緒にいるとこを見られたくないので、声はかけなかったのだが、もう目が死んでるような感じがしてた。






そして、運命の月曜日を迎えるのである・・・・





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