第45話 永井 3

月曜日になり出社したんだけど、どうにもこうにも永井のことが頭から離れなかった。週末に永井を飲み屋街で見かけたことを店長に報告したんだけど、でっかい溜息を一つして、




確定だな。




そうつぶやくと藤森のファイルを出してと指示してきた。店長はファイルを手に取り、藤森に電話をかけ始めた。




ちょっと話あるんだけど。仕事何時まで?うんうん。じゃあ16時半くらいにちょっと寄ってくれるかな。そそ。よろしくー。




その後は作戦会議だ。電話の感じでは何も知らない感じだな。とりあえず藤森を押さえる段取りはつけたが、先に動く業者がいるかもしれないんだよなぁ。先に動かれるとめんどい。まぁこれで藤森は取り残されること確定。あとは彼女だが、これもどうなるかなぁ。俺の予想ではさすがに放っていくことはないと思うんだけど、こればっかりは蓋開けてみないとわからんのよね。




刻一刻と時間が迫る。17時越えたら問答無用である。その為に藤森を先に呼んだのである。そして藤森が来店した。店長が永井との付き合いを断りたいように見えたけど、どうなん?といろいろ聞いてみるが、やはり藤森は関係を切りたいようである。ココはともかく、他のところは保証人を外してくれと言ってるみたいだ。相談乗るふりをして、17時までは確保しとかないかん。




そして運命の17時になった。なった瞬間から藤森の携帯がけたたましく鳴り出した。それと同時に俺は彼女に電話をかけた。彼女が電話にでたんだけど、土曜日の夜から連絡が取れないと言ってる。店長とのアイコンタクトでそのことを伝え、彼女には電話を切らずに、そのままウチに来てくれるように誘導した。幸い近くにいるみたいなんで、業者に捕まらなければウチまではたどり着くだろう。なんやかやと電話で話しながら彼女も来店した。




彼女も置いてきぼりか・・・。藤森と彼女を前に店長がボソっと言った。さてどうしようかと話し合いになったんだが、彼女はどうでもいいんだけど、藤森はなんとか生き残らせたい。今後もいい付き合いが出来そうだからである。とりあえず、どこでナンボ借りて、ナンボの保証人になってるかを書きだしてもらった。その間に店長は他所からの問い合わせの対応をしていた。ウチが2人を押さえてるのを正直に話してるみたいなんだけど、終わったら次渡してくれというお願いが多かったそうな。




とりあえず藤森と彼女には保証人をつけてもらうことになったんだけど、2人一緒に連れていくのもちょっと変なんで、俺は彼女を連れて永井実家へ。店長は藤森を連れて保証人をつけてもらうこととなった。




いそいで社長を呼び出し会社の後始末をさせて、俺と店長は会社を出た。道中彼女はメソメソ泣いていたんだが、こうなることがわからんかったのかね?と聞くと、わかりませんでしたと返ってきた。どんだけ世間知らずやねんと思ったが、まぁ都合のいい女なんだろうな。そうこうするうちに永井の実家に着いた。家を訪ねるとまだ帰ってきてなさそうな雰囲気だった。地元でこんなことやるなんて思ってもなかったなぁ。親父のビニールハウスを探そうにもいっぱいあるからわからんしと思い、地元の知り合いに頼んで、人伝にどこにいるかを聞いてもらった。そのビニールハウスを訪ねると、泥だらけになりながら永井の両親は働いてた。その姿を見て、ちょっと悲しくなったな。両親は汗だく泥だらけになりながら働いてるのに、息子は他人様に迷惑をかけてトンだとか、やりきれんな。




俺は出来れば自分が地元というのを明かしたくないので、彼女を前面に押し出して話をすることにした。一応一通り話したんだけど、まぁやり切った挙句だからなぁ。頑なに本人が帰ってきてちゃんと説明を受けてからの一点張り。まーそりゃそーだわなー。彼女には自分が頼まんとアンタが返済せないかんでと言ったが、メソメソしてるだけで使えねぇ。そのうち父親がキレだして、警察呼ぶと言い出した。俺は呼んでもらっても全然かまわんけど。恥かくのは自分らだろうし。そう言うと父親は悔しそうな顔をして、どこかに電話をかけだした。20分くらいしたらショボくれたおっさんが来たが、誰だろ?と話してみると、我が地元の町会議員様だった。




まぁ町会議員が出てきたとこでどうにかなる話でもなかろうに、なんで呼んだんだろ?とちょっと笑えてきた。町会議員のおっさんは借金は両親には関係ないから帰りなさい。とちょっと上から目線。その態度にイラっとした俺は、




アンタは弁護士かなんかか?関係ないとなぜ言える?事情もわからんのに、町会議員ってだけで間に入ろうとするのもおかしいやろ。お前、名前なんて言うの?高橋?ちょっと待っとり。




腹立ったんで、地元の知り合いにその高橋なるもののことを聞いた。聞くに、




そのオッサン、元はタダの百姓で、出る人いなかったから出ただけで、しかも無投票だったし。町会議員になってからは、そのオッサンまぁまぁ嫌われてるぞ。しかもお前も知ってる、洋子の親父だわ。




それを聞き、ニヤリとしながら俺は電話を切った。高橋と名乗るオッサンは俺の顔を見て、少々分が悪いことを悟ったか、




まぁワシの顔を立てて、ここは退いてくれんかね。




と言ってきた。何の借りもないショボくれたオッサンの顔をなんで立てないかんねん。そう思い、




んじゃおっちゃんの顔立てるから、おっちゃん保証人になって。




そう言うと俺は書類を取り出した。オッサンはみるみる顔色が悪くなっていった。そんなことを言われるとは思ってなかったのだろう。はよ書いてやと迫る俺から逃げるように、ちょっと用事思い出した、っと急いでビニールハウスから出ていった。それを追いかけてビニールハウスの出口で捕まえると、




オッサン。アンタがどこの誰かはわかっとるから。議員さんを続けたいのなら、あまり頭突っ込まん方がえぇで。俺もココの人間やからな。




そう言ってオッサンを解放した。逃げるように走っていき、途中で転んだのは少々笑えたんだけどね。




その後、永井の両親のとこに戻ったが、彼女が何の話もしてないのが腹立った。自分のことやろがと思ったが、まぁキレてもしゃーないしな。仕方ないなぁと思い、とっておきの策を持ちだすことにした。俺がココ出身というのを明かすのである。正直、出来ることなら明かしたくなかったんだけど、この女役立たん。そして、俺は両親に話しかけた。




おんちゃんもおばちゃんもよう聞いてな。俺もココ出身やねん。永井くんから先輩を助けてくれと言われて、俺が社長に掛け合って貸したお金なんよ。知らぬ存ぜぬと言うなら、それはそれでいい。けど人の口に戸は立てれんのをよう覚えといてな。




両親はそれを聞くと、すぐに顔色が変わった。どこの人?と聞いてきたので、地元の人間しかわからん地名を出した。それから彼女にアンタも頼まないかんのやないかねと促すと、やっと両親は2人で相談を始めた。まぁ卑怯な手とは思うけど、このままじゃ埒あかんしね。10分ほど相談をして、やっと陥落。なんとか母親を保証人になってもらった。名刺を渡して、相談やったら乗るからいつでも電話かけてねと言い残し、彼女と一緒にそこを離れた。




店長に電話をすると、後ほど掛けなおしますと言われたんで、まだ話してるんだなぁと思い、車で帰路についた。




帰りに役に立たん彼女に少々腹立ててた俺は聞いてみた。永井が何にお金を使ってたか、知ってる?と。仕事の支払いと聞いてますけど、と言う彼女に俺は、




なかなかめでたい頭してるね。ひょっとして1月1日生まれか?永井はアンタを保証人にして借りた金で他の女と遊んでたんよ。それとアンタ、保証人になってるのはウチだけじゃないやろ。そっちの方は自分でカタつけてな。藤森君と一緒になってるとこは2人でなんとかなるかもしれんけど、1人でなってるとこは自分でなんとかせないかんで。おそらくスーパー勤めで払いきれるような金額じゃないとは思うけどね。




そう言い終わり、ニヤリを笑いながら彼女の顔を見ると、目にいっぱいの涙を浮かべてたものが、堰を切ったようにあふれ出し号泣しだした。いやぁ、僕って悪い子(キャハ)




会社の下まで帰ってきたけど、店長からの電話はまだない。手こずってるのかねぇと思いつつも、彼女を解放するわけにもいかんしなぁ。店長が次にどこへ渡すかを考えてると思うから、俺はその指示に従うだけだ。




しばらくして、藤森を引っ張って行った店長から電話があった。藤森の方でも妹が保証人になってくれたみたいだ。そっちはどうだ?と聞かれて成果を報告すると、そっちだけでも大丈夫そうやなと言ってくれた。一度合流しようということで、丁度中間地点にあるスーパーの駐車場へ向かった。




駐車場で落ち合うと、店長としばし作戦会議。店長からお前はどう思うと聞かれたので、考えてることを俺は話した。




永井の母親はコントロール可能なんで、出来る限りそっちから取りたいと思います。藤森は多少なりとも保証人を彼女と差し替えて外してもらってるみたいなので、3~4件程度、合計100万ほどってとこだと思います。永井サイドから貰うことによって、藤森には恩を売れますし、その後も客として飼えるなら、それでもいいと思います。妹がつくなら他の分をウチで出してあげることも可能なのでは?彼女は正直役に立ちません。両親トコ行っても全然話しないし、黙ってりゃなんとかなると思ってるんすかね。あと件数聞きましたけど少々悲惨です。藤森の入ってる分を藤森が払うと仮定しての話ですが、彼女単独で入ってるとこは彼女が始末せないかんので。件数としては7件ほどで金額は200万ってとこでしょうか。それだけならまだなんとかなりそうなんですけど、問題はヤミの方ですね。ヤミが5件ほど。金額は100万に満たない程度なんですけど、利息が法外なんでとてもじゃないですが、スーパー勤めの給料だけで払えるとは思えません。まぁ放っといても行く末は決まってますんで、そのまま放流しても問題ないかと思います。藤森には今後もいい付き合い出来るように、話しといた方がいいかもしれません。




俺は一気に自分の考えをしゃべった。店長はしばし考えながら、まぁえぇやろとGOサインがでた。店長に次渡すとこへの連絡をお願いして、俺は藤森と話をした




藤森くん、災難だったね。他のトコのはどうするかわからんけど、ウチの分に関してはなるべく永井の親から取るようにするからね。他のとこもそれとなく話しとくんで、うまくいけば他のも払ってくれるかもしれんけど、あまりアテにはしないでね。でもできうる限りの協力はするからね。とりあえず、妹さんのことは黙っとくようにしてね。そうしないと他所の業者も保証人に妹を付けろって話になりかねんから。嫁入り前の妹さんには酷な話でしょ。悪いようにはしないから、何かあったらすぐに連絡してね。もしうるさいこという業者がいるなら、ウチで出すことも検討してるって店長も言ってたから。それからもう一つ、悪いこと言わんから永井の彼女とは連絡取らん方がいいよ。おそらくこの後泣きついてくると思うから。少々怖いとこからもお金借りてて、その保証人になってるみたいだからね。




藤森は落ち込んでた顔に光りが差してきたような顔に戻った。とはいえ、ある程度の被害は被るであろうけど。その後彼女にも一応話した。




おそらく永井は逃げたんだろうと思う。置いてきぼり食らって可哀そうだとは思うけど、俺たちにはアンタを助ける術を持ち合わせてないのよ。業者さんだけならまだなんとかなるかもしれないけど、ちょっと怖いとこからも借りてるみたいだし、その保証人になってるやろ。そういうとこは法律も何もかも無視してくるからね。20歳越えたいい大人なんだから、自分で考えて自分で解決してね。とりあえずこの後業者さんに渡すけど、自分の口で説明してね。俺らが説明する義理もないんで。




さきほど永井の両親の前でダンマリしてたのが結構腹立ってた俺は、何度も自分で解決するように言った。あの時、もうちょっと両親に話して、助けてくれという言葉でも言ってりゃ、俺の心証も違ったもんになってただろうし、俺が地元民というのを明かさなくてもよかったかもしれん。いろいろ話した結果、彼女の顔はこの世の終わりみたいな顔をしてた。でも自分のやったことだから仕方ないよね。おそらく永井の両親のとこにいくんだろうけど、あの両親はなかなか固いからなぁ。あまりワチャワチャされても困るなぁ。




話が終わるころに店長が呼んだ二台の軽四が駐車場に入ってきた。両方ともウチの協力業者なんだけど、藤森が入ってるとこと彼女しか入ってないとこと。まぁこれで運命変わってくるだろうなぁ。




保証人である藤森と彼女は各々車に乗って、駐車場を出ていった。残った俺と店長はちょっとだけ話をし、社長がちゃんと後始末をしたかどうかの確認をするために会社に帰った。集金あるならそれもいかなきゃならんしね。




会社帰ると社長はTVを見てた。俺と店長はお疲れ様ですと声を掛け、延滞リストを見てみたが、半分しか片付いていねええええええええ。話を聞くと、来ると言ったのにまだ来ないねん・・・と。慌てて俺と店長は延滞者の始末に取り掛かった。来ると言ってたやつに催促の電話をかけ、まだ自宅にいるやつには集金にいく段取りをつけた。そして俺は集金に出発したんだけど、まぁ今回の説明は店長がしといてくれるだろう。




集金が全部終わり、店長に終了したことを報告して帰路についたのは時計が22時を回った頃だった。さて、藤森と彼女はどうなったかなぁ。まぁ今日云々出来るわけでもないから、とりま帰ろう・・・


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