第56話 さつき 7

目が覚めいつものように出社をすると、事務員さんが掃除をしていた。最近彼氏が出来てウキウキしてるという話は聞いているんだが、昨日会えたんだろう。鼻歌なんか歌っちゃったりしてるからなぁ。事務員さんが機嫌よさそうなんで、銀行行った帰りに缶コーヒーを頼んだ。




そうこうしてると店長も来たんで、昨日の報告も兼ねて作戦会議。店長曰く、




「なんとなくだが雰囲気が悪い。この件は一抜けしといた方がいいだろう。」




業者もそうだが、警察が要一とさつきを探してるってのが大きいかな。さつきの方はダンナ次第なんだろうけど、どうなるんかねぇ。




昼になり昼飯を食っていると、純代の元カレから電話があった。TVCMしてるとこから25万借りてきましたと。じゃあ仕事終わったら家で待っててくださいねと伝え、こちらはほぼ完了した。純代のことに関しては話さんでえぇやろ。真実を知ったら絶望するかもしれんしな。知らんでいいこともあるだろうしね。




17時を回り、一応の業務は終了した。が、俺にとってはこれからが本番かな。とりあえずさつきのダンナに電話をかけてみた。5万は借りれたんだけど、残りを貸してくれそうな人のとこに向かってるとのこと。




「娘さんのとこに行かれたくないんだろうけど、この際だから娘さんにも少しお金だしてもらったら?」




と言うと、それは全く考えていなかったらしく、へっ?っと面食らったような声がした。目から鱗というか、なんというか。すぐに電話かけてみると言っていた。




「まぁあまりアテにしないで、借りれるとこも回っときよ。今日どうにもならんなら娘さんとこ行くしかなくなるからね。」




そう伝えて俺は電話を切った。




次は純代の元カレだ。電話をすると、今日は仕事する気にならなかったみたいで早退したそうだ。まぁ気持ちはわかる。とりあえず元カレの自宅へ向かった。着いて話をしたが、なかなかの憔悴っぷりだな。お金を預かり、とりあえず領収を渡した。それから今後のことをもう一度説明した。まだこの件は終わってないこと。もう1人が支払い不能とウチが判断した場合は、元カレさんに全部支払ってもらわなければいけないこと。全て終われば書類等は全部お渡ししますんで、あとは請求するなりなんなりしてくださいと伝えた。返答する気力もないのか、頷くだけに終始してたが、ホントに知り合った女が悪かったとしか言えんもんなぁ。兎にも角にも俺も一段落。あとはさつきのダンナがお金を構えるだけだな。




さつきに電話をすると、




「娘がこっちに来てくれてるみたいだから、アナタもこちらに来てください。」




と言ってきた。娘が来るってことはおそらく金が出来たんだろ。店長に電話をして、そろそろ渡す準備しといてくださいと伝えた。俺はさつきのとこへ向かってる最中はダンナと息子娘に要一とのことをどう話そうかだけを考えていた。なるべくダメージ与える感じで話したいなぁ。いやー、ワイってイケナイ子だねぇ(テヘペロ)。まぁおかげで曲がるとこを通り過ぎちゃったんだけどね。




さつき共が隠れてるビニールハウスの近くに車を停め、さつき達の元に歩いて行った。普段はバレないように自宅周辺に停めるんだけど、今日は身柄を渡す段どりもあるんで、あえて近場に停めたのである。




入って行くと4人揃ってはいたけど、その時初めて娘を見た。店長から容姿を聞いてなかったのは失敗だったな。ありゃあクッ〇ングパパだ・・・。まぁ人の好みや見た目にケチをつけるつもりもないし、そこまで俺自身の容姿に自信があるわけでもない。婚約者の性癖にも何か言うつもりもない・・・。が、あえてもう一度言おう・・・ありゃあクッキ〇グパパだ・・・。




まぁとりあえず話して、残金15万円を払ってもらった。娘が婚約者から借りたという話だが、そっちの方が話早かったな。あとは書類のことや領収書を渡す作業をしてたんだけど、その最中に電話がなった。外に出てから取ってみると、渡す業者が現地についたとのこと。僕が見えますか?と確認すると見えると言われ、




「このあとボクが入って行くビニールハウスに、さつき共の家族が全員集合してますので。」




と伝えた。ちなみにこの業者さん、息子が保証人に入ってますんで、この家族がまた苦悩するのは間違いないね。それと少々武闘派なんで、息子やダンナがイキったとしても屁でもないだろうな。まぁあとのことは知らん。




ビニールハウスに戻り、書類等の処理も済んで、最後に爆弾を投下した。




「おつかれさまでした。いろいろありましたが、これでウチの分は全部終わりました。ちょっとキツイことも言ったとは思いますが、お許しください。私共も仕事ですので。それからみなさんにお話しがあります。これはどうしても話しておかなければいけない話なので、最後まで聞いていただけると幸いです。」




俺はゆっくりした口調で語りだした。




「まずさつきさんに関してですが、ご存じだとは思いますが、純代さん、要一さんと一緒に借りていました。そもそも純代さんと要一さんは同棲をしてまして、まぁお付き合いの段階だったと思います。まぁそれはよしとして。そしてある日さつきさんと要一さんがウチへの支払いに来た時に、以前どこで知り合ったかはわかりませんが、久しぶりと再会しました。まぁこれもどこにでもある話ですんで。それからさつきさんは要一さんと何かありましたか?」




さつきはパチンコ屋で会うだけだったよと言ったので、あーこの期に及んでもまだこんなことを言うのかと呆れてしまった。




「四六時中一緒に居て、何もないってことはないと思いますけど。何度か某ホテルの駐車場で要一の車を見かけました。面白そうだから外で張っていると、2人でスッキリした顔して出てきましたよね(嘘)。ダンナさんに仕事させといて、自分は盛りのついた猫のように要一とイチャイチャしてるって、ワケわからんですね。こうなったのも純代のせいと言ってるのも腹立つし。まさに自分で蒔いた種ってことでしょう。純代から寝とっといて、どの口が言うとんねん。それから純代は要一と別れたやろ?別れるキッカケ作ったのもお前じゃん。純代の部屋で2人して何やっとんねん。純代が全部話してくれたわ。2人でワッショイしてるとこに踏み込まれたんだっけな。えぇ歳して恥ずかしくないんか?」




ここまでくるとさつきを除く3人は、口々にさつきを罵りだした。それを遮って俺は話を続けた。




「まだ話は続きますので、ちょっと黙っててくださいね。要一が追い出された後、要一が借りた部屋に通ってたのもまぁ想像つくわね。ダンナさんが一番わかってると思うけど、まともに仕事してなかったやろ。ダンナさんが甘やかしたのも要因の一つと思ってくださいね。まぁあれだけされて気付かんってのにも問題あると思いますよ。」




さていよいよ特大の爆弾をいくつか落とすかねぇ。ここまでくると4人共処理が追いついてない感じだな。




「ダンナさんに言っときますけど、さつきさんのお腹には子供いますよ。誰の子供かは想像つくとは思いますけど・・・。」




ここでさつきは気が狂ったように奇声をあげて暴れ出した。俺に飛び掛かろうとしたとこを、息子と娘が押さえつけた。それを見て俺は話を続けた。




「それとねさつきさん、そのお腹の子の処理にかかる費用、ウチで貸してくれるように店長に頼んでみたけど、やっぱ無理やったわ。人間的に信用できないから、お客さんとしての付き合いしたくないんだってさ。自分が蒔いた種なのに、最後は純代のせいにするって、ワケわからんわ。ダンナさんがここまで頑張ってくれたのに、そんなことに加担することは出来んからな。店長もアイツは頭おかしいと言ってたわ。まぁ俺もおかしいと思うし。」




さつきは息子と娘が押さえつけてるにもかかわらず、また暴れ出した。気が狂ったように暴れて、それを息子と娘がなんとか抑えてるって感じかな。さて、そろそろさつきに引導渡すかね。さつきの目の前に俺は顔を突き出して・・・、




「さつきさんも知ってると思うけど、純代が元カレとの間に出来た子供いたやろ?結局別れた時に堕ろしたんだけど。あれな、お前の信じてた要一との子やねん。お前に黙って純代ともいろいろやってたみたいね。ようあんな男と付き合えたな。まぁ何かいいものを持ってたんかもしれんけど、俺にしてみたら人間的な魅力を感じんわ。」




そこまで言うとさつきは急におとなしくなり、茫然自失って感じでペタリと地面に座り込んだ。その後、泣き叫び出した。まぁ俺の話はまだ終わってないんだけどね。




「それから最後にもう一つ。純代が捕まった件なんだけど、純代が妙なことを言うかもしれんからね。さつきと要一に入れ知恵されたってね。まぁそれが何を意味するかはわかってると思うけど。警察もおそらくアンタと要一を探してると思うで。まぁ後のことはウチらには関係ないんで、頑張ってくださいね。ではありがとうございました。」




そう言って俺は頭を下げビニールハウスを出た。そこにはさつきを渡すようにしてる業者さんが待ち構えてる。すれ違いざまに中の様子をチョコっと話した。




「さつきはちょっと狂ったみたいになってるんで、話にならんかもしれません。他の家族も全員いるんで、そっちの方向へ話していったらいいかもしれませんね。特に娘は婚約者いますんで。」




そういうとすれ違った業者さんは




「ありがとう。今度なんかでお礼するね。」




と言われたが、




「いやいや、こちらもお世話になってるんで気にしないでください。ではこれで失礼します。頑張ってくださいね。」




そう言って俺は車に戻った。まぁ渡した業者さんは結構怖いとこ。本職さんに一歩も引かん連中の集まりだからなぁ。まぁ協力関係はあるけど、そこまでベッタリはしたくない人達かな。




さつきが泣き叫び、3人の怒号が飛び交う中、この業者さんがビニールハウスへ入って行くと、さつきの恐怖にかられた叫び声が聞こえてきた。




車の中から純代の元カレに電話をし、




「全て終わりましたので、今後そちらに連絡が行くことはありません。借用書は最後に払ってもらった方にお渡ししましたので、渡すことは出来ませんが、書いてもらった保証書は、後日ポストに入れときますのでご確認ください。」




そう伝え電話を切った。。その後、店長に全て終わりましたと報告すると、




「おつかれさん。社長がメシ食いにいこうぜって言ってるから行こうや。いつもの店で。」




わかりましたと返答し、俺は車で現場を離れた。




道中、いろんなことがあったなぁと感慨深くなったが、まぁ終わり良ければすべて良し。今晩は社長に美味しいものを奢ってもらおう。まぁ次の日、社長も店長も俺も二日酔いになったのは言うまでもない・・・。




しばらくして別な現場で待ってる時に、さつきを渡した業者さんと話す機会があって、さつき達のその後を聞いたんだけど、




さつきは全く話にならんかったらしく、息子をその場でイジメ抜いたらしい。まぁ武闘派なんで、あえて何をしたかまでは聞いてないんだけどね。腹立つと平気で張り手食らわすような連中だからなぁ。捕まらんのが不思議なくらいだわ。息子はビビって漏らしたと聞いたが。見た目だけなら結構イキってたんだけどねぇ。シャバいのぉ。そこまでの根性は持ち合わせてなかったか。その場で話をして、ダンナが保証人になるって申し出たらしいんだけど、娘じゃないとダメってなって、娘が断る度に息子をシバいたらしい。結局息子が娘に土下座して頼む形となり、保証人になったというわけだ。ここからがこの方たちのエグいとこ。一応すぐに取り立ていくことはないからねという感じにして書いてもらったらしいんだけど、翌日の朝一で婚約者と娘が暮らしてる部屋を襲撃して、そのまま婚約者を保証人にし、ATMへ引っ張っていき、貯金を下ろさせて完済させたとのこと。こえぇわ、この人達。朝襲撃した時、娘もすぐには来ないって言ってたじゃないかとゴネたらしいけど、昨日は待ったじゃん。そう言って取り合わなかったらしい。まぁすぐにってのは人それぞれ感じ方があるからなぁ(笑)。




んで、さらにこの業者は娘がいるとこを、他所の業者にもリークしたらしくって、しばらく娘の仕事場や婚約者の所は祭りになってたらしい。その後結婚したかどうかはわからない。




その後は一家離散して、自宅も田畑も最終的には取り上げられたらしい。何年か先なんだけど近くを通った時、懐かしいなと思って自宅や田畑を通りすがりにみたんだけど、自宅には人の気配もなく、【売】と看板立ってたし、田畑の方はダンナじゃない人が世話してたから、取り上げられて売られたんだろう。




他の2人はというと・・・。




純代は警察に捕まり、その後起訴された。また苗字を変えて借りに走ったことが詐欺にあたるとして、業者側からも訴えられる。新聞等では報じられてないけど、裁判の結果はやったことが悪質ということで実刑食らったそうです。その後はわかりませぬ。噂では出てきた後、関西に流れて場末の風俗にいるとかなんとか・・・・。




要一は破産の申し立てをした後、純代の件で警察が参考人として探してるみたいだったんだけど。おそらく教唆の疑いがあったんだろうな。これも噂なんだけど、最終的には警察に押さえられたらしいが、立件まではいかなかったらしい。その後は破産免責の手続きを経て、関東にいったらしい。嘘かホンマかはわかりません。




自分でケツ拭けんなら、やっていいことと悪いことくらいはいい大人なんだから、区別つけんとね。パチンコするのが悪いとも思わんし、金借りるのも悪いとは思わん。不倫に関しても絶対悪と言い切れるほどの人生送ってきたわけでもないし、それを否定するほどの聖人君主でもない。要は自分の身の丈に合った生活をしろってことかな。何かあっても自分の手で始末つけれる範囲でやってれば、こうはならなかったのかもね。まぁ今回のことに関しては、要一が一番ダメなんだろうけどね。それを見抜けんかったさつきや純代にも責任がなかったとは言い難い。まして犯罪行為に走るなんぞ、言語道断。本人以外のさつきのダンナや息子、結婚間近の娘、純代の元カレや婚姻届けまで偽造された彼氏、とまぁいろいろ巻き込んで、こいつらは何を思うんだろね。まぁ今回も人との付き合い方、お金の使い方、っとまぁいろいろなことで考えさせられたな。俺的にはいろんな人間模様がありすぎて、少々疲れてしまう案件ではあったな・・・ 。






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