第57話 中川 1

今回の話では部落のことに触れます。それは決して、一部の方を差別しようとか陥れようとかの意図がないことを先に言っておきます。あくまで自分の経験したこと、見聞きしたことですので、その辺はご理解ください。気分悪いわーって言う方はスルーしといてください。




そこの地区にはあまり近寄ってはいけない、そこの地区の人とは付き合ってはいけない。そこの地区の人と結婚する時揉める。等の話はみなさん聞いたことあるかと思うし、みなさんの周辺にもそういった場所があるかもしれない。小学生の時に学校の授業、道徳の時間にそのことを勉強させられたこともある。俺は基本的にはそういったことは気にしないタチなんだけど、気にする世代、人も少なからず存在する。まぁ今回はそういった話だ。




そういった地区の方々にも融資はしてる。もちろんそれ以外の地区の人にも。面倒なんでそういった地区のことを部落と呼ぶ。まぁこれが差別に当たるかどうかは自分たちで考えてくれ。何度も言うが、こちらに差別などをする意図はない。




中川は部落出身だ。見た目はチンピラで仕事は牛乳の代理店をしてる。どんな顔して牛乳配達してるかを見てみたいもんだが、一応仕事はしてるみたいだ。付き合い自体は2年ほどあるんだが、支払いがお世辞にもいいとは言えん人。まぁこんなやつだろと割り切って付き合えば、そこまで腹は立たないかな。




仕事場へ集金に行くのだが、集金のおねぃちゃんは結構嫌がる。車を停めて狭い路地を縫うように歩いていかなければならないからだ。また置き場所に指定してるとこも薄暗い。ある日おねぃちゃんが集金に行った時、集金場所を探っていると、後ろに中川の弟が何も言わずに立っていて、身の危険を感じたことがあった。その時は金を取ってニコニコしながらこんにちわーと言ってそこを離れ、一目散に逃げたみたいなんだけど。次の日からおばさんに代わってもらったのは言うまでもない。あたしも一応女なんだけどゴネていたが、その辺は華麗にスルーした。もちろん機嫌を取る為、ちょいちょい甘いものを差し入れするようにはしてるんだけどね。




さて、みなさんは部落なるものに対して、どういった印象を持ってますか?ワイ自身はそこまで悪い印象を持っていないが、中には嫌悪感を持ってる方もいるかもしれない。真偽のほどはわからないが、ワイが聞いた話ではまぁまぁぶっ飛んでる話がいくつかある。




①猫は50万、犬100万、人をハネれば一生もん。




これはその場所で事故ると、これだけのものを請求されるという。




②自治体のそういったとこを担当する役人は電話帳に名前を載せない。




昔は個人名の載った電話帳があり、だいたいの家は載せていた。なにかトラブルがあった時に自治体の対応などが遅れると、24時間ひっきりなしに自宅へ電話がかかってくるから。




③ある人がハンドルを切り損ねて家の塀を擦った。もちろん保険を使っての修復をしようと保険屋さんが話し合いに出ていったのだが、家を建て直せと迫られた。




まぁこれに関しては笑うしかないな。




っとまぁ、いろいろエピソードがある。もちろんこういった言動を取っているのは一部の人だと思うんだけどね。その一部の人が目立つおかげで、全体がそう見られるのはとても悲しいことだ。ちなみに俺は何度もいうが、そういった目で見たことはない。結局は場所ではなく、人だと思っているからだ。部落出身の友達もいるし、知り合いも多い。仕事もそういった人とすることもある。なんら気にしたこともない。




ちょっと話が逸れてしまったから戻そう。




中川に対しては、お金がないと言ってくれば、一日くらいは待つってことはしてたんだけど、人間ってやっぱ甘やかすと図に乗ってくるのよね。一日が二日になり、最終的には払わなくていいやと思う輩まで出てくるからね。中川には待っても一日までとよく言い聞かしてある。中川もその辺は心得てるのか、一日待って次の日も待ってくれと言って来ることはなかった。




ある日、中川から自分が責任持つから弟にも貸してやってくれと電話があった。一緒に牛乳配達の仕事をしているらしいが、どうなんかねぇ。貸す貸さないは店長の判断によるんだけど、いつも以上に店長は考え込んでた。どうしました?と聞いてみると・・・、




「正直気が進まん。最初は物は試しと思って10万投げたが、それがたまたま2年くらいの付き合いになっただけで、これ以上の付き合いをするつもりはないのよね。おそらく名義貸しなんだろうけど、家族はそこから出たことない母親、中川、弟の三人。まぁこれは俺の経験から言わせてもらうんだが、あの辺のやつらに貸して良かった思い出がないのよね。だから悩んでる・・・。」




俺自身もその周辺へ取り立てに行ったことも何度かあるが、たしかにいい思い出はないな。総じて痛い目に会うことが多い。店長の言ってることはよくわかる。まぁどうするかこうするかは店長が決めることなんだが。ちなみに俺は悩んだらやめとこう派である。




店長の出した結論は弟名義で5万だけ融資するという、まぁ妥協案というか、とりあえず何かあった時に言っていける先を作っただけって感じになった・・・・。



一応中川の弟にも貸す段取りにはなったが、まぁ俺も店長と同じで気は進まない。まぁビジネスだからと割り切るしかないんだけどねぇ。




中川は弟を伴って出てきた。まぁ集金のおねぃちゃんの言う通り、辛気臭い冴えない男に見えたが、なんとなく狂気が見え隠れしてるようにも感じる。まぁこれは単なる俺の思い込みなんだけどね。座らしてとりあえず聞かないかんことを聞いて、書き込んでいったんだけどなんかパッとしない。覇気もないし、そもそも仕事してるのかどうかですら怪しい。おまけにゴーストと来たもんだ。まぁすんごい大昔になんかやらかしてるんだろなとは思うけど。店長もギリギリまで悩んでたみたいだけど、結局5万投げてみた。お金は集金場所へ一緒に置くようになったが、100%中川が使うことは間違いないだろう。とりあえず、貸してしまったから様子見ていくしかないのよねぇ。




中川は仕事場の他に自宅を持っている。とはいえ、仕事場も自宅も借家なんだけど。その自宅に歳いったオカンと弟と三人で住んでる。一応自宅も集金のおばちゃんに見てもらうように行ってもらったが、洗濯ものを干してるから生活はしてると思うとしか言ってこなかった。まぁ生活してたら大丈夫だろと安易に考えていたんだけど、後にそれが大変なことになるのだがね・・・。




まぁ貸した金はほぼほぼパチンコ代に消えていくんだろうけど、まぁ使い道はどうでもいいかな。とりあえずちゃんと支払ってくれさえしてくれれば。しかし中川は今まで通りの支払いしかしなかった。まぁこんな男だろう。その辺は割り切ってるつもりなんだけど、やはり腹が立つ。




弟が保証人になれるってことで、中川に貸す業者が増えてきた。最初はウチ含めて2件だったんだけど、ジワジワと増えつつある。これはちょっとマズイなぁと思いつつも、どうにか出来るわけでもないし、何かを理由に全額返済や保証人付けろと迫っても開き直る率100%だしなぁ。店長も中川の問い合わせの電話がかかってくる度、あーしまったって顔してたし、まぁこの借りにいくスピードみたら終わるまで持ちそうもないってのが正直な感想。終わるのが先か、潰れるのが先かのスピード勝負になってきたな。




それから2ヶ月ほど経って、中川は支払いに窮してきたのか、自分の分の書き換え、弟の分の増額、オカンにも貸してやってくれとワケわからんことを言いだしてきた。どう考えてもムリやろと思い、絶対保証人が必要です。それも第三者の。そう店長に進言した。店長も同じ考えだったらしく、中川には第三者の保証人が必要と伝えると、今まで普通に貸してくれたやんとゴネだした。ゴネられてもアカンもんはアカン。これからはちゃんと払うから、これからは待ってって言わないから、今回だけと懇願してきたが、ダメなもんはダメ。中川は店長相手に10分ほど粘ったが、諦めて電話を切った。その後は中川の問い合わせが方々から来たが、ウチはまだ減ってないから断ったと店長は言ってたが、他所にも行ってるってことは余程切羽詰まってるんだろう。どっかシビれ切らして貸してやってくれんかなぁと天にも祈る気持ちだったんだが・・・・。その日は当然待ってくれと電話があった。こういうことしてると余計貸せなくなるよと諭したけど、わかってないやろなぁ。




次の日、集金に行かしてみると、なんとお金が置いてあった。たぶんどこかが貸したんだろう。他が貸したってことはそこと付き合いのある業者は貸す可能性があるなぁと考え、店長と話し合い、中川は締め付けて最終的に終わらそうという方向に決まった。まぁどんなに考えても間に合わんのやけどね。オカンがどうするかってとこなんだけど、まぁ歳いった年金も貰ってるかどうかもあやしいオカンに払えと言っても払えんだろなぁ。ネガティブ素材しかないってのもまぁまぁ珍しい案件だわw




そうこうしてると中川は一日待った挙句、次の日も待ってくれと言いだした。ついにこちらの許せるラインを越えたのである。二日待ったことにより、店長も詰んだかなぁと言ってはいたが、それは三日目になってみないとわからない。集金場所に置いているかどうかが焦点になるんだけど、三日分置かなくてもいいから一日分でも置いてくれてたら、まだ待つ理由は出来る。正直俺も店長も取れる気がしないのである。とにかく残高を抑えて、あわよくば終わってほしいという懇願にも似た感じかな。中川に追い金したとこで焼け石に水だろうし、まぁ貸せば2~3週間くらいは持つだろう。しかしそこから先が見えてこない。




なんとか三日目は一日分を支払ってくれた。まぁ中川が店長に泣きついて、一日分でもいいから置いといてと言ったからそうなっただけで、明るい材料とは言えないしなぁ




弟の分と合わせてあと7万、なんとか持ってくれないかなぁという俺の願いはある日打ち砕かれた。普段なら集金を置いとくか、待って欲しいなら必ず連絡あるんだけど、その日は何も連絡がないまま17時を過ぎた・・・。


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