第52話 さつき 3

いつものようにさつきが要一の分を持って払いに来るんだが、顔がテカテカしてると妙に腹立つな。まぁいいんだけど。純代は相変わらずって感じだが、服装が小綺麗になってきたように思う。要一と一緒に居る時は、首の伸びたトレーナーやヨレヨレのTシャツなんかを着てたんで、色気も何もあったもんじゃなかったが、今はそこまで高いものという感じはしないが、清潔感を持った感じの恰好をしだしたな。男でも出来たか?と思ったが、まぁ出来たら出来たで、チャンスあれば括っとこうくらいにしか思わんけどね。




半年ほどして純代から電話があり、今日は体調が悪いので集金に来てくれとのことだった。まぁヒマだし、そこまで離れてないからいいんだけど。自転車をかっ飛ばして純代の住むマンションに行った。そうや!ワイは風になるんや!





着いて呼び鈴を鳴らすと、純代が出てきてくれた。玄関のドアが開いた瞬間に中を見回したんだけど、玄関先に男の靴があった。おそらく彼氏の物なんだろう。純代にお金をもらい領収書を渡したが、なんか浮かない顔をしている。どうしたん?と聞いたら、中に入れてくれてボソボソと話し始めた。




「要一を追い出してから1ヶ月ほどして、自分が勤めてるお客さんといい仲になり、付き合うこととなった。しばらく付き合っててウチによく来るようになり、そのうち彼氏が部屋を引き払い、同棲することになったんだけど。なかなか今の生活を抜け出すことは出来ないのよね。要一にもさつきさんにも書き換えの度に連絡とらなきゃいけないし。それである日書き換えしたいと思って要一に電話かけたら、メシでも食わんかと誘われてね。まぁ感情もないし、どうにかなるもんでもないしと思って、仕事が休みの時に誘いへ乗ったのよね。お酒飲んでいい感じになって・・・・。まぁそれはそれで彼氏に罪悪感もあって、これっきりにしようと思ったんだけど、それから何回かズルズルと。それで妊娠しちゃったのよ。」




「ナ、ナンダッテー!ちなみに誰の子?」




「たぶん要一の子。彼氏にはまだ黙ってるんだけど、どうしたらいいんですかね?」




「要一は知ってるの?」




「言ってない。言ったとこでどうにもならないし、どうにかしてくれるような人でもない。」




「どうするつもり?」




「彼氏には言うつもりだけど、どんな返答が来るかはわかりません。」




「話はわかったけど、俺に言われてもどうにかなるもんでもはないけどね。まぁ産むにせよ堕ろすにせよ、早めに動いた方がいいとは思うけどね。けど、自分自身の借金をなんとかせな、遅かれ早かれ彼氏にはバレるよ。」




そう言うと俺は仕事もあるんで純代宅をでた。まぁ仕事だけでは足らんから売春もどきのことをやってるんだろうけど、どうするつもりなんだろ?俺は会社に帰り、さっき純代と話したことを店長に報告をした。店長は、




「詰むのが早まるかもなぁ。とはいえ、一回は持ちこたえそうかな。」




と言っていたが、なんとなくその意味は理解できた。まぁいつまで持つかもそうだけど、純代がいつから動き出すかってのにもよるかなぁ。要一にしても純代が抜けようとするのを嫌がるはずだし、さつきにしても同様。さつきは要一がやったことを知ってるのかねぇ。まぁ知ってたら烈火のごとく怒りそうだけど。しばらく様子を見ておくしかないな。




しばらくしてると要一の支払いが時間ギリギリになりだした。おそらく純代が書き換えストップしてるんやろなと推察できるんだけどね。書き換えしてくれ、増額してくれという電話の頻度があがってきた。そろそろかなぁと思いつつも、伏してそのチャンスを俺と店長は待った。




そしてそのチャンスがきたのである。ある日要一が18時には支払い行けると電話をしてきたのだが、5分ほど過ぎてきたのである。このチャンスを逃すまいと、要一が全部支払いをしてきたことを確認すると、すぐに保証人を付けるように迫った。しかし当然のように要一自身にそういった付き合いの出来る友人なんぞいるわけもなく、ターゲットはさつきと純代に移った。車に乗ってたさつきを呼び、全額返済か保証人つけるか、どっちがいい?と聞いたが、




「どっちも嫌!」




「子供のお使いじゃないんで、それなら全額回収に動くけどいい?」




と言ったんだけど、さつきは開き直ってきた。




「そんなこと言われても出来んもんは出来ん!」




と喚きだした。そんなさつきを前にして、俺は懇々と説いた。




「開き直るのは別にいいけど、それならそれでこっちはやれることを粛々とやるだけだよ。考えてみてもわからんか?ウチが信用情報上に事故扱いで出してみたらどうなる?明日から業者がわんさかとお前の家に行くよ。それでも突っぱねれるなら、それはそれでいいんだけどね。これから俺らはお前の自宅にいかなきゃならんし。別にダンナさんに返済求めることはしない。住所がそこだから行くだけ。ダンナさんに事情聴かれたら、嘘つくのも嫌だから正直に話すつもりだけど。お前たちが18時まで待ってくれと言ったから待ったのであって、その約束を5分とはいえ破ったのはお前らだろ?これくらい待てなかったウチが悪いのか、5分とはいえ約束破ったお前らが悪いのか、考えたらわかるやろ。どっちがいいか、今決めろ。」




そう言うとさつきは黙った。要一はオロオロするばかり。役立たねぇな、この男。妙なとこだけ立ておってからに(下ネタスマン)。




裏から店長がひょっこり顔を出し、




「あんまり駄々こねよったらアカンよ。」




そう言うと、さつきは一気に顔色が悪くなった。まぁ俺より店長の方が怖いもんなぁ。しばらくして、さつきは絞り出すように声を発した。




「子供でもいい?」




俺と店長は裏で話し合った。息子か娘なら娘がいい。しかし純代の方も動いておいた方がいいのではないかなど。結果、さつきの子供の方には店長が、純代の方には俺が行くこととなった。




各々が車に乗り込み、要一は店長の車についていくこととなった。俺は俺で純代に連絡を取り、マンション下の駐車場で落ち合うこととなった。純代と落ち合うと、さきほどあったことを話した。携帯を取り出し要一と話したが、この5分遅れただけというのを強調して、自分は悪くないという立場を取っていたのは聞かなくてもわかるけどね。純代はため息を大きくつき、考え始めた。まぁいくら考えても言っていく先は彼氏しかいないんだろうけど。踏ん切りつかない純代に俺はちょっとだけ後押しするつもりで言った。




「今全額返すってのは現実的でないことはわかる。けどね、なぁなぁで済ませれんこともあるのよ。要一が最近支払いキツいのはなんとなくわかってるやろけど、その原因は自分にあるんやない?責めてるわけやないで。これは俺の推察やけど、ちょっとずつ保証人を抜けていこうと思って、書き換えの時の保証人を断ってるやろ。もちろん俺は事情も聞かされてるから、そうしたい気持ちもわかる。むしろそうしていくべきだと思うわ。けど、それをしたら要一の支払い回らんなることも認識しとくべき。自分が保証人ならんってことなら要一にも保証人頼めんやろ?自分も相当キツいと思うけど?ここは彼氏に一回頼んでみたらどう?彼氏が嫌がるならお腹の子供のことを彼氏の子供ってことで話してみたらいいだろし。」




俺もだんだん悪くなってきたのぉ。これは駆け引きなのだよ・・・。彼氏がどう動くかわからんけど、とりま妊娠のことを出したら観念するやろ。




純代はわかったといい、俺と2人で彼氏が仕事から帰ってくるのを待った・・・。




純代は自分の立場を理解できてるとは思うが、さすがにここで彼氏に捨てられると詰んでしまうのである。まぁ最後の奥の手もあるから、普通の男なら大丈夫と思うんだけどね。問題は要一とさつきの分をどうするかってことなんだけど。純代と相談した結果、一度純代に全部まとめた借用書と作り、それに署名してもらうこととなった。あとは何に使ったとかの理由付けだけど、まぁ純代はそういうの得意そうだから大丈夫だろ。




彼氏の車が駐車場に入ってきて、そのまま彼氏は部屋に上がった。それを見届けて純代と俺は部屋に上がって行った。




部屋に入るなり、おかえりと彼氏の声が聞こえた。まぁこれからどう話を持って行くかなんだけど、純代もギリギリだからなぁ。とりあえず俺も促されて部屋に入ったが、一瞬で彼氏の顔がこわばった。俺はとりあえず自己紹介して、事の顛末(仮)を話していった。




「私は純代さんにお金を貸している金融業者の者です。実は純代さんが今日の支払いを忘れてたみたいで、それで伺わせてもらった次第なんですけど。本人はうっかり忘れてたと言っておりますから大ごとにはしたくなかったんですけど、社長が一度全額返してもらいなさいと言いまして。まぁ彼氏さんもお判りいただけると思いますけど、どう言い繕いましてもワタシはサラリーマンなんですよ。上からの業務命令は絶対なんで。しかし、この時間から全額、しかも60万もの金額を用意しろってのがなかなか難しいのはわかっています。それでご相談なんですけど、全額用意出来ないとなると、社長を納得させるだけの材料が必要となってきます。彼氏さんに一時的にでも中に入っていただけますと、社長にも納得してもらえると思うのですけど、いかがでしょうか?もちろん書き物したからと言って、彼氏さんに手の平返しをして、全額返せなどと言う気は毛頭ありません。あくまで純代さんが今後払いやすくしていくための措置と考えていただければと思います。それからこれには他にもメリットがありまして。もし今後純代さんが今日のようにポッカリ支払いを忘れてたとしても、彼氏さんが中に入ってることによって、待つことが可能になってきます。もちろん待つにも限度がありますが。まぁだいたい純代さんが何か用事をしてて、一時的に連絡とれない時だと思いますけど。今日もそうだったので。連絡取れないってのが一番イカンことですよね。しかし彼氏さんに中へ入ってもらってると、純代さん本人に連絡取れなくても、彼氏さんに連絡取れればオッケーなんで。あとで本人さんに支払い忘れてますよと伝えておいてもらえますかで済みます。何度もいいますが、彼氏さんに中へ入ってもらうことで、今後純代さんが払いやすくしていく処置とお考えください。協力してもらえませんか?」




俺は一気に捲し立てると彼氏の反応を待った。見た感じ協力はしなきゃいけないんだろうけど、やはり保証人というのは荷が重いって感じかな。純代も必死に迷惑はかけないからとお願いはしている。これは奥の手を出すしかないかもなぁ。しばらく彼氏は考え込んでたが、おもむろに口を開いていろいろ聞いてきた。




「他に借りてるとこはないの?これは何に使ったの?一日くらい待つことは出来なかったのでしょうか?仮に協力したとして、職場や両親に知られることはないのでしょうか?」




彼氏の反応が至極まともだったので安心した。俺は彼氏の不安を一つずつ取り除くように答えていった。まぁここまで来たら9割方大丈夫だな。あとは彼氏の望む答えを用意してあげるだけでいいからね。人間というものは自分が取りたい行動に対して、理由をつけてあげれば結構動くものである。まぁ簡単にいえば、自分を納得させる理由が欲しいだけなのである。




「他に借りてる所というのは私共では確認が取れていません。本人が隠してるなら話は別ですけど、もしあるなら今日、他の業者が来てても不思議ではないかなと思いますけど。来てないってのが答えにはなりませんかね。また何に使ったのか?という問いにワタシでは答えることが出来ません。まぁ銀行で借りるなら使う目的をしっかり提示しなければならないかもしれませんが。ワタシ共のところでは使う目的ってあってないようなものなので。もっともらしいことを理由にして借りていく方もいらっしゃいますけど、実はパチンコに使ってるって人も多いです。一日くらい待ってあげてもと思うかもしれませんが、当事者としてはそうもいかないと思います。彼氏さんもお勤めだと思いますけど、取引先からの入金が一日延びるだけでも結構困ることも多いかと思います。それとあくまで社長のお金を貸しておりますので。自分のお金なら別に一日くらいいいだろって考えることもあるかもしれませんが、命の次に大事なお金を預かっておりますので、こればっかりは要望に応えることは出来ません。あと協力したとして、仕事場やご実家に知られるのではないかという懸念ですが、知られることがないとは言い切れません。その時は彼氏さんが一切連絡取れなくなる時です。逆に言いますと、仮に純代さんに何かがありましても、彼氏さんと連絡取れてる間はそういった心配はないってことですので。ご理解いただけましたでしょうか?」




そう言うと彼氏はまた考え込んだ。あとちょっと背中押してあげるだけで落ちるなと思い、純代に目配せをしてダメ押しをさせた。




「もう少し安定してから言おうと思ったけど、赤ちゃんできちゃったのよ。借金もあるし、迷惑かけたらダメだと思って必死で返済してたんだけどね。黙っててごめんね。今回だけ協力してくれないかな?迷惑かけないようにするから・・・。」




と純代は少し泣きだした。この女狐、ようやるわと思ったけど、ここは乗っかっておこう。これがダメ押しとなり、彼氏陥落。書類を書きあげ、免許証を見て間違いないことを確認。実家に住民票移してたのはGJだったな。いいねボタンを押したくなったわ。まぁあまり根掘り葉掘り聞くのもアレなんで、必要最小限のことを聞いて俺は引き上げた。あとは純代の仕事だ。話し合いの結果を後日聞いて、口裏合わせしとかないとね。純代には明日一回ヒマみて出てきてとは言っといたが、要一の行動次第では祭りの可能性も出てくるからなぁ。




店長はどうなったかと思い電話を掛けたんだけど、電話に出るなり、




「後ほど掛け直します。」




と言われてすぐ切られた。まだやってんのかというよりは、たぶんさつきがゴネてるんだろなぁと推察は出来た。




一応援軍に行かなきゃと思い、おぼろげに覚えてるさつきの家の方向に車を走らせてる最中に店長から折り返しの電話があった・・・。



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