第53話 さつき 4

店長から電話があり、俺は道端に車を停めた。まぁみなさんにも経験はあるかとは思うけど、俺は電話をしながら、また深く考え事をしながら運転すると、事故はしないものの、なんで俺こんなとこ走ってるんだ?ってことがある。曲がるとこで曲がらず、そのまま直進してドえらいとこで気付く時があるんで、なるべく運転しながらの電話は避けるようにしている。




「すまん。手こずった。息子の方が出て来てな。書かす前にいろいろ聞いたんだけど、コイツがまたなかなかのボンクラでな。ちゃんと調べたわけではないんだが、自己申告だけでもまぁまぁアカンやつやったわ。それでこいつじゃダメって言うことで、娘の方にしてくれって言ったんだけど、さつきがゴネてな。娘は彼氏もいて、そろそろ結婚とかの話も出てきてるみたいなんで、自分のことで迷惑かけたくないんだろうな。まぁなんとか話して娘呼び出して、やっと保証人になってもらったわけなんだけど。各々のやつに書いてもらうのは気がひけたから、一度さつきの分にまとめたやつに書いてもらったけど。まぁこの娘ならどうとでもなるわ。お前どうやった?」




俺は純代のことについて話した。まぁ要は一緒のことしたんだけど、娘と純代の彼氏との二枚看板なら楽勝っすねって感じになり、店長一行はとりま会社の駐車場まで帰ってくることとなった。俺もその場で落ち合うように向かった。ちなみにさつきの家の方向に向かってた俺だが、まったく見当違いの方向に行ってたのは内緒だ。方向音痴ってやーねー。




駐車場で落ち合い、他の業者の支払いはちゃんとしてると確認した上で、店長と俺は話し合った。




「とりあえず今のままだと明日祭りになる可能性は少ないが、金は回さんと近日中に潰れるかもな。とはいえ、娘も入ってるからさつきのダンナが一回は始末すると見てるんだけど、そこまでの地力があるかどうかだな。純代の方もこれで身動き取れんなるだろうから、そんなに長続きせんかもね。何かの時に彼氏がウチの分はともかく、他のトコの分までやってくれるかは怪しいしな。」




店長もどことなく、こいつらダメだろなーって感じを出してる。そこで俺は。




「とりあえず、明日全員の書き換えしたらどうでしょう?娘にしても純代の彼氏にしても次保証人になってくれと言っても、あの様子じゃならんでしょうし。なったらなったで、問答無用で取りにいくのもいいと思いますし。総額で60万なら、どっちからでも行けるでしょう。ベッタリ走られると面倒ですが、2人同時にベッタリってことはないと思います。一応言い聞かして、他につけたら取りに行くよと言っとけば、今日の事もありますんで、そこまでムチャして走ることはないと考えます。その上で全員のやつを書き換えしてあげれば、少しは持つかと。」




ってことでその日は言い聞かして、翌日会社を開けたら書き換えしてあげるってことにした。俺もだんだん先まで考えれる子になってきたなぁ。当たりはずれはあるんだけどね。




翌日、朝一で純代から電話があった。要一たちを放した後、純代に電話したらしい。書き換えしてくれるってことで一度三人で出てこいと言われたと。まぁ昨日のあれからの話も聞きたいし、一度三人で出てきてってことにした。ついでに彼氏が保証人に付いてるってことは伏せとけと念を押した。付いてるとわかったら、要一は支払わんなるかもしれんからな。




時計が10時を過ぎた頃に三人は出てきた。さつきにしても純代にしても、なんとなくあの後大変だったんだろなと推察できるくらい憔悴してた。要一だけがどこ吹く風みたいに飄々としてて、早く書き換えして金掴んでパチンコ行きたいって感じだったな。まぁしばらく純代が断っていた関係で十分な手取りはあるから、支払い自体も何日かは大丈夫と考えているからだろう。さつきと要一はちょっと純代から離して座らした。お互いが付けてる保証人のことを伏せておくためである。




さつきと要一には、




「今回書き換えするにあたって、昨晩付けた保証人はこの分に入ります。それから昨日も話したけど、この保証人はウチだけの保証人にしてもらいます。もし他に付けた場合、娘さんとこに真っすぐ取りに行きます。それから純代さんにはこのことを伏せといた方がいいと思うよ、もしバレるとアテにされるだろうし、払わなくなる可能性もあるからね。まぁ今回は特例でってことにしといた方がいいと思う。」




本人たちもわかったと了承した。まぁウチらだけの秘密ってことにしといた方がいい部分もあるし、よしんば知られても言った本人たちの問題だから俺らは知らん。




とりあえず、さつきと要一は金を掴まして帰した。まぁどうせ二人してパチンコいくんだろうけどな。これほどのことがあってもなかなか人間の性根は変わらんね。




さて、お次は純代の番だ。昨日俺が帰ってからの話を聞いてみた。




「昨日彼氏といろいろ話したんだけど、彼氏はすごく複雑だったみたいで、子供を出来たのはうれしいとしても、借金を黙ってたってことは引っかかったみたい。迷惑かけたくなかったからってことでなんとか押し通して、とりあえずわかってもらえた。近いうち彼氏の両親に挨拶いくとこまでは決まったけど、日時はタイミング見てからってとこになった。」




純代にもさつき達に言ったことと同様に念を押した。まぁこれで一段落ってとこだが、すでに三人ともリミッター越えてるからなぁ。今後誰がどう動くか、不確定要素が多いって不安はあるかな。




あの騒動から2週間経った。まぁ要一とさつきは相も変わらず、パチンコ三昧。よくそれだけ座れるなと感心すらしてしまう。その根気をなぜ仕事に生かせないのかねぇと、ワイ自身にも問いかけてみた。まぁ仕事と遊びはちゃうわなー。




一方純代はというと、この2週間に何があったか知らないが、金回りがすごく良くなった。毎日の支払いがやっとだったのに、一週間分とか入金しだした。彼氏が入ってるからお金出してくれたんかな?とも思ったけど、他所も同様らしくって、バシバシ入金になってるみたいだ。彼氏がお金を出してくれてるのはどうも間違いなさそうだが、他所もバリバリってのはちょっと気になるな。




更に2週間ほど経った。ついに要一が待ってくれと言いだした。あーついに詰んだか。店長と相談した結果、待つことになったんだけど、他所はそうもいかんですわねぇ。祭りが始まるんかのぉ・・・。




要一とさつきはツルんで借りに行ってるので、まず2人だけで借りてるとこが動いた。要一とさつきは確保され、さつきの自宅に連れて行かれたそうだ。他業者さんからの連絡にも店長は動じず、まぁウチは待つことにしたんで、明日の話ですねと言っていた。娘がいるからどうとでもなるだろうと、楽観的に考えてるだけだけどね。5社くらい連合で自宅に向かったらしくて、ダンナは激怒したらしいが、まぁ一回だけならということで保証人になってもらったそうだ。要一とさつきの関係はただのパチンコ仲間ってことにしてたみたいだけど、ダンナはさつきの言い分を全部信じたみたいだ。結構ボンクラなのねん。まぁ娘まで話いかんでよかったわ。




次に動いたのはさつき、要一、純代の3人で借りてるとこだ。動いたと言っても、その日の支払い分を純代のとこに取りに来ただけなんだけど。そもそも純代が次は保証人にならないと言ってたから、ある程度残高は減ってたらしい。だから集金だけで留めたってとこか。純代もまぁまぁ怒ってたみたいね。とはいえ、彼氏にバレなきゃいいんだけどね。祭りというほどのことはなかったな。




翌日、朝一で要一とさつきに連絡をとり、昨日どうなったかの話を聞くために2人で出てきてと伝えた。支払いもあるから17時までにねと言うと、わかったとは言ってたがホンマに来るんかねぇ。




要一とさつきは来た。懸念に過ぎなかったことにホッとした。一応昨日どうだったと聞いたが、これがまた嘘八百を並べ立ててきたんで、だいぶ呆れた。本人達の言い分はこうだった。




「他の業者さんはココと違って物分かりがいいんで、お金が今日は無いから明日まで待ってって言ったら待ってくれたよ。1日くらいなら他所は待ってくれるのに、なんでココは保証人保証人とがなり立てるんやろね。こんなうるさいとことは付き合いたくないから、早めに済ますようにするね。」




よう言うわ。このおっさんもおばはんも。ウチが何も知らんとでも思ってんのかね。まぁ俺も店長もキレそうになったが、努めて冷静に振舞った。




「わかった。まぁ終わらすとかの話は好きにしたらいいし、物分かりのいい業者さんとだけ付き合うのも好きにしたらいいよ。ウチはキレイに終わらしてくれたらいいだけなんで。お客様で終わってくれたら、それ以上に望むことはないよ。それと終わらす方向で行くなら、純代さんにも一言断っといた方がいいよ。もう終わらすんで保証人になれませんって。早めに言っといたら純代さんもそのつもりで動くやろ。」




そう言って、さっさと帰らした。この類のやり取りは何百回としてきてるんで、意地になって付き合う労力が勿体ない。店長とも話し合ったが、おそらくダンナが保証人入ったことでお金出してくれることになったのだろう。それをアテにして少々強気にでたんだろうなと推察。結果ウチ終わっても全然いいけど、昨日さつきのダンナを保証人付けたとこしか借りてないとか言ってるんじゃないかなぁ。整理する時に全部何もかもさらけ出す人間の方が珍しいからね。なんで全部言わずに隠してるのかが俺にとっては意味不明なんだが。ダンナがある程度終わらしてくれるのを見越して、あとはダラダラ払っていけるという変なソロバンを弾いたんだろね。考えが甘いのぉ。そんな簡単に抜け出せれるもんではないんだけどねぇ。




純代は昨日の余韻をそのまま引きずりながら、プンスカ怒り心頭で出てきた。昨日立て替えた分は後で返してくれると言ってはいるものの、あの男はどこまで行っても信用できんと。だったらなんで妙な仲になるんや・・・。今に始まった話ではなかろうに。彼氏の方はどう?と聞いてみたんだが、




「順調に行ってるよ。毎日夕方に支払いに行ったか?という電話がめんどくさいだけかな。」




そう言うと純代は帰って行った。まぁこの後、要一とさつきに会うらしいんだけど。俺は店長と話してみたんだけど、どうもある種の違和感があった。それは何?と言われてもわからん違和感。店長もなんかおかしいよなぁと言ってたんだけど、何がどうおかしいかと言われたら、自分でもわからんという。なんか隠してそうだなぁ。




それから1週間後、さつきの分はダンナが保証人入ったとこだけ終わった。ダンナが金出したんだろうけど、要一の分は終わらしてくれなかった。まぁそりゃそうだわな。自分の分は自分で払えってことなんだろうけど、要一にしてみたらアテが外れたことだろう。さつきにしても自分の分以上に金出してくれとも言えんわな。あまり要一の分を出してあげてと言ってると、自分たちの仲に気づかれるかもしれんしな。




さつきの分にしても全部終わってないからね。おそらく要一が支払い詰むだろうから、さつきはまた借り始めるんじゃないかな。あれだけの啖呵を切ったさつきと要一が後々で何を言って来るのか楽しみでたまらん。そんな二人の支払いを半笑いで見つめるワイであった・・・。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る