第10話 飯田 2 

父親が整理をして一ヶ月もしないうちに、飯田はこちらの予想通り、いいように使われだした。まぁ本人が了承してるのなら仕方がないと思うのだが、父親のことを思い返すとなんだかなーって感じに思えてしまう。




同僚に連れてこられた時、貸すことにはしたのだが、とりあえずその同僚を先に帰し、飯田と少し話をしてみた。どうしていいなりなのかを。しかし本人もなかなか口が堅く、本当のことはのらりくらりとかわして言ってくれなかった。ほんとのことを話してくれれば、それなりの対策も打てようというものなんだが、言いたくないとなるともう自業自得としか言えんな。店長も本当のことを聞きたくて貸したようなものだったし。まぁ俺が頼んだんだけどね。




ちょっと気になることというのは、スナックのママさんである。飯田が客というだけなら、そこまで気にもならんのだが、借るのは自分で支払いを飯田がするってのがどうしても気になる。こういう場合、なんらかの利害関係があるもんなんだけどな。身体の関係とかかな?なんてことを考えてしまうが、正直そんないい女でもない。まぁあくまで俺目線だから、何とも言えんけど。あとは名義貸しで、飯田に借りらした方が手っ取り早いと思うんだけどなぁ。その辺をしないってのが少々謎である。




そしてすぐに上司の坂本を含めの同僚たち、スナックのママさんと、まぁ結局元通りの戻った。書き換えもしながら支払っていってもらってたのだが、そんなある日、飯田にちょっと書類の書き直しと称して、会社に来てもらった。お前、どこで誰の保証人になってる?と。まぁ借りてるとこの会社名と、そこで誰のナンボの保証人になってるかをきいたのだが、その借りてるとこの一つに




サファイアファイナンス




というものがあった。これを見た瞬間、嫌だなぁっと思い店長に報告した。店長も少々しかめっ面。まぁこいつらは表立っては普通の会社。しかし取りに来る時は本職も本職、ガチでくるのである。何度かバッティングしたことがあったが、まぁいい思い出はない。見た目もそのまんまだし、やり散らかしていくこともしばしば。出来ることなら会いたくねぇってとこだ。まぁ普通に終わる分には全然いいんだけど、このケースだとだいたい飯田が取り残されることとなる。なんというか、借りるとこはもうちょい考えてくれよな。




そして数ヶ月後、同僚の1人が破産したことを皮切りに、飯田を除く全員が一斉に破産した。俺は早速飯田のガラを押さえたのだが、これからどうなるのかを考えてしまったのか、飯田は怯えていた。そこで再度どこで保証人になってるのかを聞いたが、やはり例のトコはある。まぁどっちにしても親のトコしか連れて行くとこないもんな。そして、俺と飯田は父親と母親が住む山奥まで、2時間ちょっとのドライブに行くこととなった。




道中、事ここに至っては黙ってても仕方ないので、全部話してくれんかと言ったら、ボツボツと話し出してくれた。




ある日、上司である坂本に飲みに誘われた飯田は、居酒屋に飲みにいった。まぁそれはそれでいいんだけど、次に連れて行かれたとこが、俺が引っかかっていたスナックのママさんのとこだった。




この辺からなんとなく話が見えだした。




そこでそれなりに飲んだ坂本と飯田は、会計時に坂本がツケといてと言って支払わなかったらしい。まぁこれはどこにでもある話なんだが、その時、飯田とそのスナックのママさんは連絡先を交換した。それから毎日ママさんからのお誘いがあり、飲みに行くのは毎日ではなかったが、週に2度3度と通ってたらしい。飯田は自分みたいな人間に興味を持ってくれたことがうれしかったのだろう。話をしてくれるのがうれしかったのだろう。そんな中、一度だけ体の関係を持ったらしく、ますますハマっていったという。




しかし、お前の給料でよくそこまで飲みに行けたな。そんなに安い店なのか?と聞いたら、全部ツケとくと言うだけで、どれくらいの金額があるのかさえ、想像も出来なかったと。しかも自分と体の関係を持ったことで、ひょっとしたらツケ払わなくてもいいんじゃないかと思って、輪をかけて通ってたらしい。話聞いてて力が抜けて、あやうくハンドル切り損ねそうになったわ。アホか・・・。こいつの頭の中は、蝶々がヒラヒラ舞ってるお花畑なんだな。こりゃ親も苦労するわ。




そして2カ月ほど経ったある日、店に来てと言われて行くと、そこにはママさんと上司である坂本の姿があった。ママさんから相談を受けて来てみたが、お前とんでもないことをしたな!と、坂本に怒られた。なんだろ?と思ったが、座った先に封筒が一通。中をみると請求書が入っており、確認すると飯田が飲んでツケにしてた分、総額380万にも及ぶ請求書だった。こんなもの払えるわけがないと言うが、飲んだものは払わなければいけない。そして三者協議の結果、保証人として使われだしたというわけだ。坂本も上司としての責任があるから、俺も協力すると言われて、借りてるとこがあるんで、そこからまた借りて店にいくらか払っとくから、お前保証人になれと言われ、言われるがままに保証人になった。俺が思うに払ってないだろうけど。同僚もこの店によく来てたから、快く協力を申し出てくれたらしい。そして同じ手口でやられたっぽいな。




しかし、なんで飯田にお金を借りに走らせなかったんだろうな?そっちの方が手っ取り早かろうに。どっかに連れて行ってダメって言われたんかな?





ここまで聞くと、少々気分が悪くなった。まぁおそらく・・・・、おそらくではないな。確定的に全員グルだろう。坂本とママさんはおそらくいい仲だろうし、それにハメられたんやろな。店の立地と、ママさん1人でやってるような場末のスナックは、そこまで高くない。2カ月でその金額となると、毎日店のボトル飲み干すくらいでないとまず届かん。まぁボッタくられたもんだな。それをなんの疑いもなしに信じるとは、アホか・・・。




呆れてものも言えんとはこのことだな。だいたいの話はわかったが、ここまでとは思わんかった。この天然バカに紫綬褒章でも贈りたいくらい貴重だな。そう思いながら、俺は飯田の実家に車を走らせた。まぁやる気が無くなってるのはいうまでもない。これも飯田のなせる技だろう。




2時間かかって、やっと飯田の実家に着いた。だが、俺らより先に他所が来てたんだよな。まぁ本人居ない状態で話しても無駄だろうけど。どこが来てるのかな?と遠目で見てみたら、ウチと協力関係にあるところではないな。んじゃ遠慮する必要はねぇか。とりあえず先に父親と話してる業者の話が終わらんと何も出来んから、待ってる間に店長へ報告の電話をした。飯田の話を一部始終話したんだけど、店長も溜息つきながらアホだなとしか言わなかった。




先に話をしてた業者が終わらんので、しびれを切らして俺と飯田は家を訪ねた。業者は息子である飯田の姿を見て、ここに息子さんもいるからと便乗してきた。話はまだかかりそうですか?と聞いたら、父親がアンタら、一緒のとこかね?と言われたので、全然違うとこですよと返しといた。これを聞いて先に話してた業者は車に撤退。ウチが話した後の方が話しやすいと踏んだのだろう。俺と飯田は父親と母親が座る縁側に向かって話をしだした。車の中で自分がちゃんと話さないかんよと言い聞かしたんだが、いざとなるとボソボソとしか話さん。こりゃダメだと思い、俺が話をしだした。




息子さんは保証人になっています。さっき来てた業者さんからおそらく話は聞いてもらえてると思いますが、だいたいそんな感じです。一括で支払ってもらわなければいけないのが現状です。お父さんはどう考えてますか?




父親は苦々しい顔をしながら話をしだした。




前回お支払いに行った時に、もう老後のお金も出し切って、この歳だというのに旗振り(交通整理員)をしなきゃならん状態になりました。母親も持病がありながらも、パートをしております。もう愛想が尽きたと言った方がいいでしょうか。親としてやれることはやってきたつもりです。それにお宅にも、次は保証人にしないでくれと頼んだはずですけど、これを聞き届けてもらえてないのに、私共が支払う道理はあるでしょうか?




この話をしてる間、ブンブン蚊が飛んでくる。少々イラついたが、何より話をせないかんしな。父親の近くには蚊取り線香があるが、その煙はここまで届かん。俺はなんとか近づきながら、蚊取り線香の効果範囲までたどり着こうと話しながら動いた。




お父さんの言い分としてはわかります。では息子さんはどうなってもいいと言うのでしょうか?こちらも商売としてお金を貸してます。お父さんの言い分はもっともなれど、それをいちいち聞いていけると思います?商売をするということはこちらも生活を抱えてるということです。ウチで働いてる全員の生活があるんですよ。それを息子さんがしでかしたことで、俺の言うこと聞かんからどうなっても知らんよというのはちょっとおかしくないですか?それに息子さんが保証人になってもらいたくなければ、あの時仕事を辞めらして、さっさと田舎に縛り付けておけばよろしかったのでは?それを結果だけみて、お前らが悪いというのは、いささか乱暴ではないですか?それこそ、親の責任でやれることはやってきたと言いながらも、自分の世間体だけ考えてるのではないのですか?息子さんがどうなってもいいと言うのなら、ここで見ておきますので、ご自分の手で始末してください。それを見届けたら、そちらの誠意をみせてもらったと社長に報告します。俺は知らんから、お前ら煮るなり焼くなりしたらいい。けど、実際そういうことはされないとわかってますよね?俺らはもちろんそういったことはしないし、できません。しかし、されないとタカをくくってたら、そのうち痛い目見ますよ。




俺は屁理屈を並べ立てた。こんな理屈が通るとは思っていない。まぁ一種の賭けだな。これで動かなきゃ、何時間粘っても動かんやろな。そう思い父親の返答を待った。




同じことをすでに3回やってきた息子ですよ。今回始末してもまた同じことを繰り返すと思いますけど・・・・




父親は絞り出すように声を発した。俺はそれを聞きながら、蚊取り線香の効果範囲に辿り着くことに成功した。まさに防御バフ。が、まだ寄ってくる。デブの血は美味しいんかのぉ。飯田くんよ、お前自分のことなんだから、ちっとは頭下げて頼めよ。そういうと俺は飯田を睨みつけた。こういったタイプはイラつくのである。




・・・とぉ・・・・・かぁ・・・・




か細い声で言ってるが、全然聞こえん。蚊と飯田にイラつきの限界を迎えた俺は、飯田に大声で怒鳴った。




聞こえんわ!お前自分が何をやったかわかってんのか?お父さんお母さんにもどれだけ迷惑かけてきてるのか、わかってんのか?自分でやったことがわかってるなら、ちゃんと誠意をもって頭をさげて頼め!




そう言うと飯田は・・・




おっとぉ!おっかぁ!もう一回だけ頼む!




エッ?ヘッ?俺の聞き間違いか?俺は目が点になり、石化の呪いを受けたが如く、固まってしまった。




おっとぉ!おっかぁ!ごめん!あと一回だけ!




どうやら俺の聞き間違いではなさそうだ。力が抜けながら思った。今平成だよな・・・?。




そして俺は賭けに勝った・・・・。


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