第18話 裕子 5
帰社し、店長に報告を済ませ業務に戻った。まぁ俺の頭の中はこの数時間で心変わりだけはしないでくれていう願望で一杯だった。段取りもすべてした後でやっぱやーめたってのが一番困る。兎にも角にもにも夜を待つしかない。業務中に裕子が保証人になってる会社の名前と電話番号のリストを作った。俺が親戚になりすまして、金額と振込先を聞きだし、お金を振り込むためだ。借用書の返還の交渉もしなくちゃいけないしね。
そうこうしてるうちに17時になった。いつものように来てないやつに電話をかけて、はよ持ってくるように催促した。いつもより口調が強い気がしたが、俺はこれからが本番だから、少々苛立っていたんだろう。この日はめんどくさい取り立ても無かったので安堵した。まぁあったとこで店長に行ってもらうんだけど。もうすぐ19時になる。持ってくる人間もだいたい来たし、集金は店長にお任せ。麻雀する貴重な時間を割いていただきまして、サーセン。
車に乗り込み、裕子の彼氏宅へ向かった、着いて呼び鈴を鳴らすと、すぐにドアは開いた。そこには裕子がいて、とりあえず中へと促された。中に入ると明日のジョーのごとく、抜け殻となった彼氏がボヤーっと座ってた。準備出来てるなら行くけどどうします?と聞くと、すぐ行きますんで車で待っててくださいと。車で待ってると荷物を抱えた裕子がアパートから出てきた。彼氏の見送りはナシか・・・まぁそりゃそうだろな。荷物を後部座席に積んで、裕子を助手席に乗せ、俺は車をスタートさせた。道中、裕子に今日の昼、あの後なんか彼氏と何か話した?と聞くと、言いづらそうに裕子は話しだした。
一緒に逃げよう。
と彼氏は持ちだしたみたいだけど、逃げてどうにかなるものでもないし、裕子はここまでやってくれた俺に恩を仇で返すわけにはいかないと突っぱねたそうだ。俺はその話を聞いて、背中に変な汗をかいた。おいおい、あぶねぇなぁ。
途中コンビニに寄り、コーヒーを買ってあげた。コーヒーを飲みながら、女性には聞きにくいことをどうしても聞かなければならなかった。すごく聞きにくいこと聞くけど、経験人数何人?と。裕子はちょっと顔を赤くしながら答えた・・・・2人。
俺は盛大にコーヒーを噴き出した。あぶねぇ・・・・事故りそうになった。マジかー。そこまでは考えてなかったわー。もうここまで来たらやめるわけにもいかないんで、裕子の根性に賭けよう。
店に着き、ボーイさんにお店の駐車場へ案内され車を停めた。一緒にお店に入り応接室らしきとこに行くと、お風呂屋店長が待っていた。初めて入ったが、すげぇ豪華な造りだな。まだ心細いやろから一緒にいていい?と聞くとOKを貰い、ソファーに腰をかけた。お風呂屋店長が仕事面、給料面、待遇面をいろいろ話しているが、おおむね俺が話した内容だ。明日病院にいくことまで説明された。
さてバンスの話だが、経営者に掛け合ってくれると言ってたのだが、お風呂屋店長に経験人数を伝えると、ちょっと難しい顔をしたので、とりあえず150でってことに落ち着いた。その場で借用書を書き、目の前に置かれた現金を裕子に数えさした。あと差し当たっての問題は監視がどんなやつかってのと寮の場所かなと話すと、監視の男は今来てるから会っていく?と言われ会ったら愕然とした。そいつは元々ウチの客で、どうしようもないヨゴレ中のヨゴレだ。お前かよと言うと、そいつはお久しぶりです。よろしくお願いします。とニヤっと笑ってきた。シレっとした態度だったので、妙に腹立つ。いらんことすんなよと念を押した。なんか存在自体がイラつくのである。裕子が数え終わり、その150万の中から10万だけ取って、当座の生活資金として自分のサイフに仕舞った。残りの140万を俺が振り分けるのだが、それは明日会社でやるか。
全ての用事が済んで、監視の男に促されて寮へ向かった。お店から徒歩1分のとこにあるコンクリートむき出しの1LDKマンション。まぁこういうお仕事専用マンションと言っても過言ではないって感じだな。3階が寮なんで一応見せてもらう。裕子はしばらくこことお店が自分の過ごせる空間となる。まぁ本人の根性次第だが、ホンマに大丈夫かね。逃げることもないやろと思うが、仮にそうなっても彼氏いるしな。部屋に荷物を上げて、一度お風呂屋店長のとこに裕子と戻った。エレベーターくらい付けけとけや。遭難するやんけ。
お風呂屋店長のとこに行って、今晩の晩飯くらい連れてってもかまわんやろ?と言うと、そうしてあげてくれという言葉を貰い、近くのファミレスに連れて行った。何をしゃべるわけでもないけど、とにかく励まし続けた。裕子は覚悟と不安の狭間で揺れ動いてるようにも見えるが、一度決めた道。がんばれとしか言いようがない。
晩御飯を済まして、お店にいるお風呂屋店長に挨拶をし、寮となるマンションまで送って行った。中にはすでに監視の男がいる。階段を上がって部屋の前に着くと、裕子が後ろから抱きついてきた。半年頑張れ。そしたらあとは自由だから。諭すように俺は言い、呼び鈴を鳴らした。中からガチャっと鍵を開ける音が聞こえて、監視の男が出てきた。裕子を中に入れると、俺はその監視の男と連絡先の交換をした。そして注意点をいくつか伝えて、最後に裕子へ声を掛けた。ただ一言だけ、頑張れ!・・・・と。
翌日、いつものように出社し、とりあえず昨日預かった140万の振り分けを考えた。店長から協力して待ってくれるという会社が5社ほどあると聞いた。そこは後回しにして、うるさそうなとこをさっさと終わらして行こうということになった。店長がとりあえず4~5社くらいを目標にやってみようというので、静かなところから電話をかけてみた。
親父の親戚と名乗り、裕子が保証人になってるかどうかの確認と残高を聞く。中には怒ってくる業者もいたが、全額返す気はあるんで残高を教えてくださいと言うと、急に猫なで声になったのはおもしろかった。もちろん裕子が保証人になってるとこ以外は払いませんけどね。
一通り業者さんに電話をかけて、次は弁護士さんに電話。どこに借り入れあって、誰が保証人になってるかを確認したい旨を伝えると、リストにしてあとでFAX送ると言われた。守秘義務どこいった?個人情報保護はどこいった?と思ったが、まだそういうものに対しておおらかな時代だったな。お互いが特に問題にもしなかったし。
弁護士のリストがFAXで届き、業者側の返答と照らし合わせていくと、嘘をついてた業者発見。裕子が保証人なってないのになっていると嘘をついた。小賢しいマネをするのぉ。ココは一旦書類を見せてもらうようにするかな。やはり振りこみは危険だな。協力業者を除いた残り7社のうち、140万で終わらせれるのはなんとか4社か。ここは付き合いもないから、俺の面も割れてないだろうし、直接会って書類を確認した上で返済した方がよさそうだなということになった。振り込みしました。実は保証人なってませんでしたってのが一番避けたいとこだ。協力業者としてもお金入らんよりウチに協力して完済してもらった方がいいし、こっちも恩を売れるから一石二鳥だね。
ある程度メドがついたので、その後はいつものように業務をこなして、いつものように昼飯を食ってるとポケットに入れてあった俺の携帯が震えた。普段会社にいる時は携帯をもたないのだが、今回の件が収拾するまでは持たされることを許された。もちろんお客さんの前では取らないけど。誰だろ?と取ってみるとお風呂屋店長だった。
メディカルチェックでは問題ナシ。この後ウチに勤めてる女の子が研修するから。あとデビュー戦が20時に決まった。デビュー戦のお客さんはこちらから声をかけさせてもらった。初物好きだが、女の子に優しくムチャなことをしないし、和ますこともうまいお客さんだから。これから3~4日くらいこういったお客さんをウチがピックアップして声かけてきてもらうようにする。とりあえず仕事に慣れてもらうようにするから。一応1週間後をメドに写真を出すようにするね。そこから先は自分次第になる。
わかったと電話を切り、店長に報告。店長もそうかとしか言わないけど、やはりあまりおもしろくない顔をしてた。こんな女衒師みたいなことは望むとこではないし、ましてやそこまで経験のない20歳ソコソコの娘をこういった状況に陥らせたのは、やはりおもしろくないんだろうな。こちらの責任ではないものの、やはり引っかかるものがある。
午後からは140万で返済できる業者に連絡をとり、借用書と裕子が保証人になってるという書類の返還と今日の時点での領収書、そしてウチが急遽作った、裕子には債務(保証債務も含む)が一切存在しないことの確認書に一筆入れることを条件に全額払うようにした。とりあえずスーツじゃアレなんで、一旦家に帰って着替えて会社からちょっと離れた喫茶店で待ち合わせた。1社ごとに会う場所は変えるつもりだけど、めんどくせぇ。
業者さんの対応は様々。ありがとうございますと下手に出てきて、何の問題も無く済む業者。偉そうにふんぞり返ってくる業者。一筆書くことをゴネたとこもあったが、んじゃ帰りますと言うとさっさと署名した。これはこれでおもろいな。ってことで4社完済、残り3社に対しては右から左へという金額じゃないんでということで待ってもらうしかないかな。業者も待つしかないんだけどね。
帰社してスーツに着替えて業務に戻ると、どうやった?と店長に聞かれたけど、まぁ少々ゴネたとこがあっただけなんで、滞りなく書類を回収できましたと伝えた。お金貰えんよりは貰いたいから、こちらの思惑通りいったのはよかったなと思う。ちなみに値切ることは一切しておりませんので、弁護士法違反にはならないというお墨付きを例の弁護士から貰ってる。お金を預かって払いに行ってただけなんで。
そうこうしてるうちに業務終了。普段通り来てないやつに電話で催促をして、来る奴来たらあとは集金。いつもの日常に戻った感じはしたけど、俺の心中は穏やかではない。裕子のデビュー戦の結果をお風呂屋店長が22時くらいに電話してきてくれる。
集金も終わり帰宅すると今日は彼女がいない。実家にお父さんの誕生日とやらで帰ってくるって言ってたな。風呂に入り、TVを見てると22時になり、時間通りお風呂屋店長からの電話が鳴った。おもむろに電話を取りどうやった?と聞くと、
お客さんからの話では緊張をしてたものの、泣かずに最後までやり遂げたらしい。つたないながらも一生懸命やって、雑談も楽しかったし、俺ファンになったわと言ってた。だから2日後にまた予約入れていくねと言ってくれた。この後もう1人予約入ってるけどどうします?と聞いたら、やらしてくださいと言ったので今入ってる。今時あんな子は貴重だね。大事にするよ。
そう言って電話が切れた。なんともやり切れん気持ちにはなったが、裕子が自分の足で歩みだしたわけだから、それはそれで応援しよう。そう思い、そっと目を閉じたが、最近の激務がたたったのか、俺はソファーで電話を握りしめながら眠りについた・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます