第15話 裕子 2

昨晩、抜魂なく打ち捨てられたじょにーのジョニーくんは、朝起きるとひゃっほいしてた。まぁトイレいって用足せば落ち着くんだろうけど。これがまた的に当てるのが一苦労。男性諸君ならわかっていただけると思う。無言で朝ごはんをお互いに食べて、あーまだ機嫌悪いなぁと思いつつも、帰ってきてから話するかと、会社の車に乗って出社した。


会社に着き、いつもの開店準備をしていると、まだ営業時間前なのに電話が鳴った。こんな時間に誰だろうと電話を取ると、裕子の父親だった。


娘も了承してくれたんで、これから行くけどいい?


店長に確認したが、少々呆れてたな。OK出たことを伝えると・・・・5分後に嫁と裕子を伴って来た。待ち構えとったんかい。


まぁ考えても始まらんので、とりあえず書類を書かせて仕上げた。親父は早く現金が欲しくて、仕方がないって感じで落ち着きがない。店長は窓から外をみて、どこかの業者が付いてきてないかの確認。書類が仕上がったと報告をしたら、お前が気になることを娘に聞いてみろと言われた。


ちょっと娘さんに聞きたいことあるからと、一度両親を会社の外に出した。アルバイトのことや彼氏の有無など。まぁアルバイトを聞くのは当然として、なぜ彼氏の有無まで聞くというプライバシーに踏み込んんだことをするのか?と思われる方もいるとは思うが。これは仮に何かあった場合、保証人になってくれそうな人間ピックアップしとくという意味合いもある。こういった細かい情報が先々で生きてくることもあるが、99.%は役に立たずに終わる。が、我々みたいな仕事に限らず、情報は渡世の命綱だと思ってるんで、出来うる限り、考え付く限りのことを聞きだす。まぁ彼氏いるみたいなんで、一つ道筋が出来たのはよかったな。


最後に貯金の有無を聞きましたが、最初書いたように服飾の専門学校にいくのが夢と聞いたことがあり、アルバイトで地道に貯めた70万円があったそうな。でも前回整理前に支払いが一件遅れて全額返せと言われた際に放出したそうだ。そこは50万だったらしいんだけど、残りの20万はどこ行ったの?と聞くと、何も言わずに両親が全部取っていったと半泣きになって言った。うーん、この親、なかなかのクズだな。


店長に聞いたことを報告すると、店長も天井を仰ぎながら悩んでる素振りを見せた。しかしもう賽は投げられた。店長の予想では娘を連れまわすだろうから、おそらくリミットは2か月くらいかなと。その間にいい材料が出なかったら、なんでも理由つけて彼氏を括ろう(保証人にする)って話になった。


なんでも理由付けてというのは、ちょっと横暴ではないかという人もいるかもしれんけど、借用書にはどこの業者でも、果ては銀行とかでも業者側に都合のいいことしか書いてない。我々だけがそうしてるわけではない。期限の利益を喪失(全額返済)するってとこが重要なんだが、必ず虚偽の申告をした場合とある。これはどのような場合にも当てはまる。虚偽の申告の定義はこちらのいいように解釈できるから、こっちが気に入らんと思ったらいつでも全額返済を求めれるのである。では今回の場合、何が虚偽の申告にあたるのか?この親父、現時点での借り入れを聞いた時に虚偽の申告があったよね。これは顧客情報を書き込むカードにいつそれを聞いたか、それと同時に信用情報機関に問い合わせた結果も一緒に張り付けてあるから、どんな言い訳もできませぬ。まぁいざって時はこれを盾にいこうということで、店長との話はまとまった。


裕子にはアルバイトだけ聞かれたと親に言うようにして、両親を招き入れた。親父と嫁は裕子の顔を見ることもなく、早くパチンコに行きたいって感じでソワソワしてる。俺は淡々と貸付にあたっての注意点を言っていく。


1,支払いは一日1万円。必ず集金でいつものところに、いつもの時間までに置くこと。


2,借り入れが増えたり減ったりした時、また現状が変わる、住所や携帯の番号が変わった時は遅滞なくこれを報告すること(誰も言ってきたことはないけど)。


3,娘が保証人になるのはウチだけ。他になってることが分かった時点で全額返済していただきます。


親父はわかったわかったと言ってるが、目の前の現金しか見えてないな。手続き入って目の前で現金を数えて渡すと、確認もせずに金をつかんで嫁と出ていった・・・・裕子を残して・・・


取り残された裕子は、深々と頭を下げて出ていこうとしてたが、店長が送って行ってやれと言うので、家まで送ろうかと言ったら、お店に自転車を置いてるというので、お店まで送って行くことにした。道中、重苦しい空気が車内を支配した。俺も何を話せばいいのかわからんかったけど、仕事もせないかんので、ウチだけの保証人でいなきゃダメだよと念を押した。まぁ裕子の性格ではおそらく連れまわされるとは思うんだけど、そこは四六時中監視してるわけでもないんで、どうにもならんかな。


店まで送って車を降りると、裕子はまた深々と頭を下げた。裕子のチャームポイントである大きな目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。親で苦労するのはわかってるつもりだが、二十歳ソコソコでこの仕打ちはたまらんなぁ。娘を金借りる道具くらいにしか思ってない節もあるもんなぁ。


店長に送って行ったと報告すると、帰ってくる時、前に見かけたパチンコ屋に行ってみてと言われて寄ってみた。まだ朝早いので駐車場にはまばらに車があったが、すぐに裕子の親父が乗ってる車を見つけた。もう来てんのかーい!っと車の中で盛大にツッコんだ。店長に電話をして来てますねと伝えると、電話口でも聞こえるような大きなため息を一つついた。


それから2ヶ月経たぬ間に、予想に反することもなく、裕子は親父に連れまわされた。こちらが把握してるだけでも12社、総額600万円にも及ぶ連帯保証人の出来上がりである。


順調(?)に借り入れ額を増やしていった裕子の親父は、ボチボチ限界を迎えてた。まぁそりゃ仕事放って夫婦でパチンコしてりゃ、すぐに限界はくるわな。もう裕子の保証人としての価値が無くなりつつあるのは俺も店長もわかってた。むしろよくここまで貸してくれたもんだと感心すらしてた。(これはウチも一緒か)


段々と集金にならずに会社へ持ってくる回数が増えてきた。たまに集金になる日は前日パチンコで勝ったんだろな。俺もパチンコはガッツリやってきた人間だが、往々にして生活費や借りた金を博打に使うと負けるものである。せっかく自分でやってる店があるのにもったいない。ちゃんと店やってりゃ、ここまでにはならんかったやろにな。


裕子からも電話がかかってくる頻度が多くなってきた。話を聞くに二人とも営業時間になっても仕込みもしてないし、仕入れも支払いが滞って取引も止められてるみたいだ。毎朝、裕子にメモを渡してこれを買っといてと言うらしい。裕子は外のバイトで稼いだ微々たる金を使って、スーパーへ買いに行き、自分で仕込みを出来る範囲でやってる。聞いててちょっと泣きそうになった。営業時間は18時からだが、親父共が店に出てくるのは21時くらいらしくって、そうなるといつも来てくれてた常連もいつ開いてるかわからん店なんぞに来るわけもなく、そうなると当然のように売り上げもなくなる。まぁ不憫としか言えんけど、とりあえず裕子から聞いた情報は、翌日店長に全部話してる。店長も計画通りに行きたいので、タイミングを見計らってる感じだし。


そんなある日の夜、いつものように集金に回ってると、裕子が泣きながら電話をかけてきた。ちょっと普通の親では考えられない、おぞましいことを親父とオカンから提案されたらしい。


風俗で働いてくれないか


風俗というものはどんなものか、二十歳の小娘にもだいたいのことは想像ついてるだろうけど、さすがに親に言われるのはキツい。とにかく家を出てちょっと喫茶店で待っててと言い、すぐに店長に連絡を入れた。かくかくしかじかでと話したら店長も末期も末期だなとボヤき、すぐに括れ(保証人をつけろ)と指示された。


店長が会社に戻って書類をまとめてる間に、俺は裕子を迎えに行った。待ち合わせの喫茶店に着き、中に入ると俺の顔を見るなり号泣しだした。他にお客さんもいるのにと、俺は少々オロオロしたが、裕子が落ち着くまで待った。周辺に座ってるお客さんにはすいませんすいませんと頭を下げながらも、裕子が落ち着くのを待った。こんなかわいい女の子を泣かせやがってというお客さんの視線が少々痛い。そうこうしてるうちに店長も喫茶店に来たのだが、書類の入ったカバンを俺にわたすと大丈夫?イケる?と俺に耳打ちをした。俺はゆっくり頷くと集金の途中だったんで、残りの集金を店長に託した。


しばらくして落ち着きを取り戻した裕子は、ボソボソと話し始めた。その話を聞いてるうちに、激しい怒りの感情が湧き上がってきた。


おそらくパチンコに負けたのだろう。店に出てくるなり2人で喚き始めた。最初は親父もオカンも金ない金ないと喚くだけだったが、そのうち裕子に金ないかと言いだした。裕子が外のアルバイトで稼いできたお金は全部仕入れに使ってたので、小銭程度しか持ってない。全部仕入れに使ったというと、親が困ってたら娘が助けるもんだろうと引っぱたかれた。オカンもそれをしれーっとした冷たい目で眺めてて、そこから両親に長い時間罵倒された。しばらくすると疲れたのか、オカンと一緒に店の二階に上がり、引き籠ってボソボソと何かしら相談を始めた。裕子は何が何やら訳もわからぬままに頭がボーっとして、そのままへたり込んでしまった。しばらくすると両親揃ってニヤニヤしながら二階から降りてきて、猫なで声で


裕子ちゃん、さっきはごめんね。お父さんたち困ってるからさぁ。助けてくれないかなぁ。これから仕事頑張るからさ、しばらく風俗で働いてくれないかな?


と言ってきた。その言葉と二人の表情に戦慄し、裕子は店を飛び出し、俺に助けを求めて電話してきた。


っと、まぁ以上が裕子の口から出た話。


これからどうする?どうしたい?と聞いたが、どうしたらいい?と逆に聞かれてしまった。そこで連帯保証人の怖さを懇々と説明したのだが、だんだんと顔が青ざめていくのがわかる。気持ちはわからんでもないけど、こちらも仕事なんでどうしようもない。店長が調べた限りでは12社600万の保証人になっていて、残金はおそらく500万を超える。これをこれから自分は返していかなければならないことも説明した。おそらく明日には他の業者も動き出すと思うから、もう待ったなしで全額返済してもらわないといけない。他の業者の話はどうでもいいけど、ウチの分は事ここに至っては何とかしてもらわないとダメだ。保証人でも入れてくれるならなんとか分割って話も乗れるんだけどね。


そう言うと、しばらく沈黙が続いた。とはいえ、たかが数分程度だったが、恐ろしく長く感じる数分間だった。世間知らずで二十歳ソコソコの小娘には重すぎる現実だ。


ここで悩んでても仕方ないので、俺が口火を切った。とりあえず保証人になってくれる人いないかな?誰もいないと言うけど、頼んでみなければわからない。とりあえず彼氏に頼んでみたら?と言うと、迷惑かかるから嫌だと言っていたが、裕子がちゃんと連絡とれて支払いしている限り、その彼氏のとこに何か言って行くことはないと伝えると渋々ながら同意してくれた。とりあえず、ここまでは計画通りと俺は安堵した。なんとか道筋つけれてよかった。喫茶店を出て車に乗り込み、彼氏が一人暮らしをしてるアパートに向かった。彼氏の元に向かってる間も裕子は泣き通しであった。

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