第25話 山本 2

ある週末、会社終わりに友人と待ち合わせて飲みにいった。この友人は真面目なやつで、今度結婚することになった。それの前祝いってことで飲みに行ったんだけど。二人で居酒屋に入り、馴れ初めから根掘り葉掘り聞いてやった。まぁ話したそうな感じだったので聞いてやったんだが、その頃彼女に逃げられてまだ日の浅い俺には少々キツい。それでもまぁ友人の門出を祝うべく、ノロケ話に聞き入ったのであった。


その後河岸を変えて飲もうかということになり、自分の行きつけのおねぃちゃんの店に連れていった。まぁお互いカラオケ好きだし、ギャラリーいないとテンションあがらんしね。店に着き、乾杯も済ませ、おねぃちゃんとの会話も楽しみつつ、カラオケもちょいちょい唄いながら過ごしていると、ボックス席を挟んだとこに3人組が座った。よく見ると山本と取り巻きらしきやつだった。なんでこんなトコで会うねんと思ったが、まぁ気付かんやろとタカをくくっていたが、向こうは気付いたみたいでコッチをチラチラと見るようになった。その視線に気づかぬふりをしつつ退散の機会を探っていたのだが、山本は確信を得たかのようにボトルを1本持ってこっちに来た。


俺の隣にドッカリ座ると、お前、〇〇社長のとこの若い衆やろ。久しぶりやなと言ってきたんだが、俺はともかく友人がビビってるからやめてくれよと思ったのは言うまでもない。ご無沙汰しておりますと応じたが、どこぞの金貸しの下っ端が自分と同じ店で飲むのがお気に召さないらしい。


こんなとこで飲むってなかなかえぇ身分やな。まぁお前ら、あくどい商売してるもんな。


と言うが、お前が言うかよとちょっと笑ってしまった。そんなことないですよと応じたが、ネチネチと絡んでくる。こういうやつって好かれんよなぁと思いつつも、友人を巻き込むわけにもいかず、ヘラヘラしながら相手をしていた。ひとしきりマウントを取った山本は


まぁゆっくり飲んでいけや。コレやるから


と、ボトルを一本置いていった。俺が飲んでるボトルよりランクの低いボトルを。そのまま自分の席に戻っていったが、こんなの飲んだら後で何を言われるかわからんしな。こんなとこで飲んでてもツマらんなと思い、ママさんにお会計を告げ、友人にはお金払っとくから、ちょっと先に出て下で待っといてと伝え、まず友人を送り出した。お会計を済ませ、山本の持ってきたボトルを手に持ち、て山本の座るテーブルに行って


すいません。せっかくの機会なんですが、仕事で関わった方から金品を貰うなと厳しく言われてますんで、コレはお返しします。


そう言ってボトルをテーブルに置くと、1人の取り巻きが騒ぎ出した。山本さんの好意を断るって失礼やないか。鼻息荒く言ってはいるものの、揉めるつもりでもないので、


仕事上で関わったことなければありがたく頂戴しますけど、会社での決まりですので申し訳ありません。


山本もおもしろくない顔をしながら、


俺の気遣いを突っ返すとはえぇ度胸してるのぉ。まぁえぇわ。さっさと帰れ。気分悪い。


失礼しますとその場を立ち去り、エレベーターを待つ間にママさんから、


最近店に来るようになって羽振りよく飲んでるけど、仕事聞いてもはぐらかされてちゃんと話してくれんのよね。いったい何してる人なの?


と聞かれたが、


簡単に言えば、ヤ〇ザの手先やね。アレ出入りするようなら、ちょっと店に来にくいかな。あの人たちは揉めるのが仕事みたいなもんだからね。俺ももめたくもないし、店に迷惑もかけたくないからね。ママさんも気を付けといた方がいいよ。


そう言ってエレベーターに乗り込み下に降りた。友人が心配そうな顔をして、いったい何があったと聞いてきたが、さすがに事細かに話してもわからんだろから、歩きながら要約して説明した。友人も俺もテンションが下がったのでその日は帰るとなったが、どうにもこうにも気分が悪い。せっかくの前祝いが変なことになって、友人には申し訳なく思う。今度の機会に埋め合わせをすることにしよう。


週開けて月曜日、出社して週末にあったことを店長に話した。そりゃ災難だったなと言われて、社長の耳にも入れとくとのこと。まぁ俺はかまわんのだが、友人に迷惑はかけたくないからね。社長もその日の昼間、たまたま会社に来て店長からの報告を受けたその後、俺は社長に呼び出された。まぁお前のやった行動は正解だから、何も気に病むことはない。友人との件は申し訳なかったな。まぁまた機会あれば会社で持ってやるから飲みに行ってお祝いしてやれ。っとありがたい言葉を頂戴した。


こんなことを根に持ってくるってこともないんやろけど、めんどくせぇやつってドコにでもいるもんやね。


それから月1ペースで山本がウチの客のことでくるようになり、うんざりしだした。またかよって感じでくるんだが、相も変わらず俺が誰かわかってるやろ。さっさと減額しろ。っとまぁ上から目線でモノいうアホだ。ただ単に使いっ走りしてるだけなのに、人間とはこうも傲慢になれるもんかねぇと感心すらしてしまった。何か反論しようものならすぐに看板持ちだしてくるんだが、それも周辺業者の中では問題になってて、いっそ叩き潰すかとイキりたつ業者もいたほどである。まぁそんなことしても自分が損するだけだからなぁと思うけど、それほどイラつくやつなのである。ウチに来た時もネチネチと飲み屋の件を持ちだしてくるしな。


そんな中、ある日を境に山本の姿が見えなくなったのである。


その時は気にもかけてなかったんだけど、そのきっかけというのがうちにも借り入れの木村という客のことだった。この木村ってのは板前をしてるんだけど、飲む打つ買うが大好きなどうしようもないやつだった。おまけにヤ〇ザとつるみだして、街を肩で風切るように闊歩してる姿を見ると、あーこいつもうダメだわと思いだした。ヤ〇ザと一緒にいるようになって仕事もそこまでしてないみたいだし、恰好も変わった。ヤ〇ザにアニキアニキとおだてられて、何百万も金を引っ張られてもいるらしいし。女も紹介されてドップリハマってるらしいしなぁ。ちなみにこの女、ヤ〇ザの情婦であり、お風呂屋にいくと3万円で抱ける女だ。何百万もかけて抱く女はさぞ気分よかろう。


ある日、その木村の件で山本が来た。まぁいずれ来ることは予想できたが、案外早かったな。山本は相変わらずふんぞり返っているが、いつか痛い目見ればいいとワイは思ってる。いつものように話が始まったが、社長が別ルートで話出来ることがわかってからは3掛けというような無茶を言わなくなったが、それでも7掛けだった。もちろん社長に相談しなければ決められないと店長は言ったが、さっさとしろやと山本は偉そうに凄んできた。こういった場合、社長に必ず相談するってのがウチのルール。ホーレンソーはサラリーマンの基本です。


店長が社長に電話をして、しばし相談。電話が終わるとなんと店長は9掛けを主張してきた。マジかー!。俺も少々面食らったが、山本はもっと驚いてた。そこから激高し、ヒステリックに喚いてきた。


コラァ!俺を誰と思っとんのや!他所は3掛けでやってるのに、お前のとこだけ7掛けにしとんのやぞ!これだけでも目をかけてやってんのに9掛けとはどういうことや!看板に泥塗られてこっちも黙っておるわけにはいかんぞ!お前じゃ話ならんから社長呼べや!


っとまぁ喚く喚く。看板に泥ってアンタが看板を盾にしとるから被るだけだろと思ったのは内緒だ。店長は冷静にわかりました。では社長と話してくださいと電話をかけだした。社長につながり、受話器を山本に差し出すとそこからまた喚きだした。


おぅ!山本いうもんやが、どういうことや!7掛けでもこっちはだいぶ泣いとるのに、9掛けとはだいぶ虫のえぇ話やな!ここまで言われたら俺も引っ込みつかんからな!俺が誰かわかっとるやろ!だったらさっさと言うこと聞けや!・・・・えっ・・・・いや・・・・でも・・・・そういうわけではない・・・・いや・・・・それはちょっと・・・・ハイ・・・・ハイ・・・・わかりました。


電話を店長に代わり、しばし社長と話したが、電話を切って山本の前に座るとそこには静寂が訪れた。時間にして数分ほどだったと思うが、後ろでみてる俺からしたら恐ろしく長い数分間だった。その静寂を破ったのは、何故かうなだれている山本のか細い一言だった。



9掛けってナンボや・・・・。




振り絞るように出た言葉に店長は、あらかじめ用意しといた正規の領収書を見て、テーブル上に置いてある電卓で計算して山本に見せた。山本は無言で鞄からお金を出し、数えてテーブルの上に出した。店長は確認の為に数えて、その分の領収書と借用書を渡した。そして山本は無言のままにそれを鞄に仕舞いこみ出ていったのであった。


いったい何があったのだろ?いったい何を話したんだろ?頭の中に湧いてくる疑問を店長に聞いてみた。店長曰く、俺もわからん。なんじゃ、そりゃーw店長も山本と社長の話は聞いてなくて、後で代わってから指示を受けただけらしい。ってことはウチの社長は怖い人?聞いてみたけどそれは絶対ないという。社長自身もヤ〇ザ嫌いだからな。まぁ中学の時の同級が結構本職になったってのは聞いたことあるみたいで、そっちからの話かなぁと想像したりしてる。機会あれば聞いてみよう。


それから数ヶ月経ったある日、たまたま社長が会社に来てて、昼ご飯を食べながら談笑してた時に社長の電話が鳴った。


ウン、俺・・・・ほぉ・・・・なるほど・・・へぇ、そうなんだ・・・ふむふむ・・・わかった。


っとひとしきり話した後電話を切ったんだが、最近山本見かける?っと聞かれた。そういえばここ数ヶ月は見てないですね。夜の街でも見かけることないですけど、一度バッティングした店に聞いてみましょか?と言ったが、別にいいと言われた。気になったので、夜になってその店のママさんに電話で聞いてみたが、店にもここ数ヶ月来てないと言ってた。それから一週間ほどして社長と店長と飲む機会があったが、社長がおもむろに事の顛末を話し出した・・・


木村の親戚からの依頼で山本は整理に動いた。まずはいくらあるかだが当時1300万ほどあったみたいだ。親戚は少しでも減額してくれるようにと山本の上に掛け合ったみたいで、その整理する金は親戚たちが出すみたいだった。山本は親戚に1200万になりましたと伝え、そこから金を引っ張った。もっとも実際かかったお金は500万ほどだったらしいんだけどね。1200万から使った500万を引くと、差し引きの700万が上に渡されるお金だったんだが、どうも山本は上に1300万を1000万に減額させましたと伝えたらしい。これで上に渡すお金は500万となり、200万をフトコロに入れちゃった。それから数週間して、ちょっとおかしくないか?と整理を依頼した親戚から上にクレームが入り、調査した結果、バレたってことらしい。


どこの会社、組織でも所属してる以上それを利用して私腹を肥やすのはご法度である。それだけの権限を与えられた人は別としても、下っ端風情がやっちゃいかんすわな。俺もよく客に個人的にお金を貸してくれ。トイチでいいからと言われることがある。ちょっと心は揺らいだが、これがバレるととんでもないことになる。社長からの信用は無くすし、クビにもなるだろう。あと客を信用してはいけない。これをネタに強請ってくる時もある。目先の金よりは信用第一だからね。他の業者さんの中にはそういうことをしてる人もいるが、だいたいそのうちいなくなる。まぁそりゃそうだな。山本は越えてはいかん一線を越えちゃったんだねぇ。


山本は借金の返済もあったんだろうけど、若い衆連れて飲みに行けるくらいだから、それなりに貰ってたんだとは思うけど、なんでだろ?っと素朴な疑問がわいてきた。社長曰く、その原因が飲み屋の女だそうな。この女、俺も知ってるんだがまぁまぁのクズである。枕営業はお手の物、客から金は引っ張るし、同僚の客を寝取ることもしばしば。寝た後、大概の客はその店にいかなくなるんだけど、店に来ない、もしくは金を渡してくれなくなると、会社や自宅まで行って喚き散らすんだそうだ。ママさんも手を焼いてると言ってたし、気に入らん同僚は平気で貶めるし。さらには同僚の彼氏を寝取って、彼氏経由で同僚から金を巻き上げて、さらにはその同僚を風俗に落とし、さらにお金を巻き上げるという結構悪いヤツである。山本からもそこそこ金を引っ張ってたみたいだけど、その金はどこにいったんだろう?と思ったが、その女も男に狂ってたのである。その男も女癖悪く、ギャンブル狂だったので、キレイさっぱり使っちゃったという話だ。結局その女も男もヤ〇ザを怒らした原因になったってことでさらわれたらしいが、社長の話では女はドップリ風俗、男は行方知れずらしい。肝心の山本だが、どうなったんですか?と聞いたが、社長が聞きたい?とニヤリっと笑ったのでやめといた。あと社長と山本とのあの電話の内容は何を話したのですか?と聞いてみたが、企業秘密と言われて煙に巻かれた。まぁ知らぬが仏って言葉もあるしな。


後日、山本とバッティングした店に、これまた一緒にいた友人と行ってたのだが、楽しく会社のお金で痛飲した。友人はすでに籍を入れてたんだが、真面目ゆえに連れて行くのもホドホドにしとこうと思うくらい、おねぃちゃんと盛り上がってた。俺のせいで離婚とか嫌だしなぁ。


それからしばらくして山本の行き先をまったく別の人間から聞くこととなる。保険をかけられて乗せられた船からフィリピン沖で海にダイブしたそうな・・・。


嘘か本当かはわかりかねますが・・・・

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