第24話 山本 1
普段何でもない日常に突然訪れる非日常。良いことなら大歓迎なんだが、我々の仕事ではだいたい悪いことの方が圧倒的に多い。身内から金借りての整理もその一つ。悪いことではないやろと思うかもしれないが、金貸す方からしたら全部返されるのも困りものである。その金が手元にある以上、利息を生まないからだ。だからそれを他の誰かに振らなければならない。まぁ最悪のことが起こるよりはマシか。破産しました、弁護士介入の上での債務整理、個人再生手続き開始、調停、逃亡、っとまぁいろいろある。これだけのリスクを抱えているが、利息は高いと非難される。ウチは日掛けなんで当然リスクはバリ高である。利息の低いとこを借りつくしたやつがくるからだ。その中にはトバしてるやつもいるし、何年も前に破産したやつもいる。そんな海千山千のやつを相手に金貸してるのに、ボロ儲けしてるだの、あくどいだのとまぁいろいろ言われる世界である。俺も当初はこんな高い利息でと思ったが、実際働いてみると利息が高いのが納得できる。
まぁ他にも災厄じみたことはいろいろあるが、今回はその災厄の話だ
基礎知識としてだが、俺はヤ〇ザが大嫌いである。それは自分がえらいわけでもなんでもないのに、暴力を背景に無茶を押し通そうとすることが多いからである。この仕事してるとどうしても避けては通れないものなのだが、出来ることなら関わり合いたくないね。
山本は某指定暴力団の企業舎弟(?)みたいなことをしてるヤツである。企業舎弟の定義がわからんけど。まぁ俺らからしたら、体のいい使いっ走りとしか見てない。昔は多重債務者として名を馳せたらしいが、我々の業界では忌み嫌われる者だ。以前は自分で喫茶店か何かをやってたらしくって、借金もつれとなり借りまくってたらしい。んでタチの悪いとこから借りてどうしようもなくなり、自分の店を潰してそのまま暴力団傘下になったらしい。まぁ聞いた話では結構あるあるルートみたいだ。暴力団の中にはそういうのを束ねてる人がいる。その人は俺も知ってるのだが、見た目は中小企業の社長さんである。まぁ見た目だけね。昨今は暴対法の影響かシノギがキツいって話だが、暴力団の中にも企業のように色がある。女性関係が得意なとこ、金融関係が得意なとこ。建設土木が得意なとこ、博打系が得意なとこ、っとまぁ多種多様である。もっとも構成員が各々のシノギをやって上納するんだけど、シノギの出来ないやつは自分の彼女や女房をお風呂屋さんに沈めて、その金で上納するって話も普通に聞く。まぁそうまでして在籍する意味があるのかどうかはわからんけどね。
ある客がいた。その名を梅田という。梅田はまぁコテコテの多重債務者。一日に4万ほど払ってる。まぁ普通なら無理ゲーな感じになるが、このランクになると異様に金の回し方がうまくなる。それでも詰んでいく将来しかない。まぁどうしてもアカンって時にこういった人間が取るべき道はいくつかあるんだけど、大体が法的整理を選ぶ。中には死を選ぶ人もいるし、逃亡を選ぶ人もいる。まぁそれをイカンと言ってるわけではないが、残された人間にはたまらんと思うぞ。前述のいずれの道も取らないやつが極少数いる。暴力団に泣きつくのだ。まぁ毒を以て毒を制そうと思ってるんだろうけど、一時の楽を選んだやつがいる。梅田もその1人だ。
ある日、梅田の代理として山本がいかつい二人を連れて来た。山本自身はスーツを着ていたが、ついてきた二人はいかにもチンピラ風情って感じだった。俺は初対面だが、店長は何度かあったことがあるらしくって、久しぶりやねとか軽口を叩いてた。梅田の債権をこちらに譲ってもらいたいって話だが、残金25万の3掛け、まぁちょっとオマケして8万で譲れと言うのである。25万を8万のまけろってちょっと横暴な気はするが、俺は二人の会話を後ろから聞いていた。店長は
25万を8万ってちょっとやりすぎと違いますか?
山本はフフンと鼻で笑いながら
まぁこっちも仕事やからな。俺が誰か知ってるやろ?知ってるならさっさと譲ってや。
店長も社長に聞かんとわからんよ。俺の一存では決めれんと返し、とりあえず一旦帰ってもらった。あんなのがいたら客が怖がるからねぇ。山本は俺にまた足を運べと言うのか?とイキるが、社長に聞かないと絶対ダメという店長の言い分に折れて、明日また來るわと言い残し、帰って行った。
ここで一度、ヤ〇ザ介入によるヤ〇ザ側のメリットについて話しておこう
1000万の債務があるやつがいるとしよう。相談を持ち掛けられたヤ〇ザは、この債務者に俺がちょっとでも減額してくれるように話してあげると請け負う。んで払う分に関してはウチで面倒みてあげると。一つにまとめた方が支払いも楽になるやろ。この債務者は藁をもつかむ気持ちでお願いするが、藁は所詮藁である。この話をもらったヤ〇ザは各業者に赴いて減額してくれと交渉にいくのである。相場では3~7掛けと幅広いが、山本は基本3掛けからである。まぁ仮に3掛けで話がまとまるとヤ〇ザの持ちだしは300万である。債務者には1000万を900万に減額してもらったと伝える。この差額が取り分である。また親戚等がお金を出してくれる場合、この方法で濡れ手で泡のお金が転がり込んでくる。お金を出してくれる親戚等がいない場合、この債務者は管理下に置かれる。またこの900万に対しては法外な利息がかけられる。つまり一生終わることのない飼い殺しである。たしかに業者の取り立ては無くなるが、厳しいヤ〇ザの管理下にいる限り、ずっと搾り取られるのである。毒を以て毒を制すつもりが、自分の手に握られてるのも毒というのを忘れてしまうのが債務者である。最後は保険かけられてチーンかな。
では断ればえぇやんと思う方もいるかと思いますが、これを断ると徹底的に債務者をガードされ、こちらが会って話することも出来なくなります。本人、身内、親戚に手を出すとまぁ怖いお兄さん方が出てきます。差し押さえ等の裁判をしても、怖いお兄さん方が出てきます。
その管理下に置かれると自分の仕事の他にヤ〇ザの手伝いをすることになる。まぁヤ〇ザからしてみれば、体のいいコマである。ヤ〇ザのシノギを手伝ってるうちに、債務者本人も自分がヤ〇ザになった錯覚に陥っていくのであるが、山本なんかもその典型である。俺が誰かわかるやろと凄んでみても、実際はただの使いっ走りである。何かあった時には真っ先に切られる立場の人間だ。まぁ風俗店の店長と立場が似てるかもな。山本自身、何年も前の借金を払い続けてるらしいし、この仕事をやめると後ろ盾がなくなり、凄まじい追い込みが始まるのである。まぁ俺らからしたら迷惑以外の何物でもないんだけどねw
話を元に戻そう
山本からの提案を社長に伝えると、別でちょっと話してみるという。社長がそういったらしいが、どうなることやら。社長からの電話を待つ間に、山本に対する基礎知識を店長から教えてもらった。概ね上に書いてるようなことだが、本構成員ではないのに、暴力団の看板越しにしかふんぞり返れんやつだからな。その看板無くなったら、あいつたぶん殺されると思うよと、物騒なことを店長は言った。
話をしながら業務を捌いていると、電話が鳴った。店長が取り話をしているが、話しぶりから社長かな。ハイ・・・ハイ・・・と言ってはいるものの、あまりパッとした話じゃないみたいだな。まぁ何掛けでもまけろと言われるのは気分のいいもんじゃないしね。社長が別ルートで交渉した結果、7掛けとなった。翌日山本が持ってくることになったらしい。なんかおもしろくねぇな。とはいえ、暴力団に対抗する術も持ち合わせてないから仕方ないか・・・。警察に言ったとこで、何かしてくれるわけでもないしな。店長はそう言うと天井を仰いだ・・・
翌日、業務の合間に窓から外をチラっとみると、黒い高級車が会社の下に来てた。誰が乗ってるんだ?と思って見てたら、運転席から降りて来たのが昨日山本と一緒に来てたいかつい男であった。あー来たんかと店長に報告すると、大きなため息しながら表に出てきた。山本が入ってきて、ホレって感じで封筒を店長に渡した。店長は中身を確認すると、あらかじめ用意しておいた領収書と借用書をテーブル向こうに座っている山本に渡した。そうすると、おもむろに山本が口をひらいた。
今回は他から話あったからこれで許したるが、あんま調子に乗ったらイカンぞ。オノレんとこの社長がどれほどのもんか知らんけど、俺に盾突いたとこで得はないからな。お前も俺がどこの誰かも知っとるやろ?それなら今度からいらんことすんなや。今度俺らのシノギ邪魔したら承知せんからな。
そう言い残し山本は去っていった。うーむ、意味わからん。そもそもヤ〇ザの看板無けりゃ、山本なんぞ屁のツッパリにもならん。社長が別ルートから話したことによって、3掛けが7掛けになったという事実。つまり、力関係から言えばウチの社長の方が上ってことになる。まぁ弱い犬ほど吠えると言うが、その典型だな。まぁ兎にも角にもめんどいやつだ。
どこの世界にも裏と表があるんだろうけど、これに似た話はどこにでもあるだろう。普通の会社でもあると思う。看板に胡坐をかいて、俺の顔を立てろだのなんだのと言って来るやつはどこにでもいるものである。自分が世話になったことがあるならいざ知らず、初対面でも俺がどこの誰か知ってるだろうとか、俺の顔を立てろとイキってくるやつは嫌いである。まぁ本当に怖いのはヤ〇ザより一般の方かもしれないけどね。やって悪いことを悪い事と認識してるかどうかの差かな。ヤ〇ザは悪い事を悪いと認識してやってるけど、一般の方は自分が悪いと認識してない場合が多い。自分がギャンブル等で借金が膨れてるのに、利息が高いから、お前らが貸すからと責任転嫁することが多いのである。まぁそんな言い訳聞いたとこで、俺の心にはさざ波一つ立たんけど。
俺と山本の初対面はこうして終わった。
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