第3話 過去

少し俺自身のことを話しておこう。興味ないかもしれないが、お付き合い願おう。


俺の家は祖母、父、母、兄、俺の5人で暮らしてた。裕福ではないが、人並かなって程度の暮らしぶりだった。俺が9歳の時に親父が事故で亡くなり、保険もかけてなかったので、そこからの生活は困窮していた。歳のいった義母と小学生の子供2人抱えて、オカンは途方にくれてたと思う。っとまぁこの辺まではどこにでもある話なんだがね。働かざる者食うべからずと地でいくような教育方針で、実際お小遣いと呼ばれるお金は中学生になってから一切貰えなくなった。当時は祖母が寝た切りになり、それをオカンが自宅で介護してた状態。祖母の息子、俺から言えば叔父にあたる人が介護の費用は出してくれてたんだが、介護をしてる分オカンは仕事が出来なくなり、更に追い打ちをかけるように嫁に行った娘達(叔母連中)からは、金は出さんけど口は出すって感じで、俺の家はますます困窮していった。そんな中、オカンは徐々に宗教へのめり込むようになっていった。


中学生になってからはほとんど小遣いを貰えなかった俺は、どうやったらお金を稼げるか、そんなことばかり考えてた。偏差値2しかない頭で知恵を絞り切った結果、一つやってみようと思い、それを実行に移した。それは学校で個人的に雀荘を開くこと。ファミコンが普及してた当時、麻雀を覚えたてのやつが結構多かったので、自分は参加せず麻雀カードと場所を提供し、お金のやりとりの計算をすることでいくばくかの手間賃をいただいておりました。手間賃とは言ってもお客さん(?)は全校で50人を越えてたので、月にだいたい3~4万くらいにはなったかな。学生の小遣いとしては十分かな。あとはまぁ学校サボってパチンコ行ったりと・・・まぁそこそこの稼ぎはあったな。当時の集中力が欲しいものである。そのお金でデート代、外食代、服代などを捻出してた。その間に寝た切りの祖母が亡くなり、そのおかげと言ってはいけないかもしれないが、オカンが仕事を出来るようになり、生活は幾分マシになった感じはした。


時は過ぎ俺も18になり、卒業と同時にとある会社に就職した。が、すぐに辞めてしまった。先輩どもがサボりまくって、新入社員である俺に仕事も責任も全部押し付けてくるので、頭きて2ヶ月ほどですぐに見限った。


そんな時、兄が事故で亡くなった。俺は兄が嫌いだった。兄は家では俺にすぐ暴力を振るった。オカンは庇ってはくれなかった。どうせ俺が悪い事をしたんだろと決めつけてるからだ。中学生だったある日、ゲームのセーブデータがトンだだけで、後ろに手を縛られ階段から突き落とされた。俺がやったわけではないが、俺の部屋にある以上、俺の責任だというワケわからん理論だった。よく死ななかったものだ。今でもその跡は身体に残っている。その時のことが原因で、俺のあばら骨は左右形が違う。またある時はいきなりぶん殴られて、手を後ろに縛られ、濡れタオルで気を失うほど顔をシバかれたな。次の日鏡を見ると、これが人間の顔か?っていうくらい腫れてたわ。他にも半殺しにされたことは数知れず。実際何度か殺してやろうと包丁持ち出して、突き付けたこともあったしな。どこまで行ってもオカンは俺の味方はしてくれなかった。まだ社会に出てない状態で、近くに味方がいないって本当に死にたくなるぞ。兄が死んだと聞いた時は心底ホッとした。まぁこの時点ですでにひねくれてたんだろうな。


周辺が落ち着き、次に就職した先は夜の世界。まぁ憧れみたいなものもあったし、何事も一回は経験しないと気が済まない性質。働きだしたとこは俗にいうメンズスナック。遊び倒したな。お客さんはほぼ女の子なんでよりどりみどり。取っ替え引っ替えしてたな。マスターと一ヶ月の間に何人口説いてエッチできるかとか、バカなことしてた。結果はマスター23人、俺16人で負けたけど。


ヒモも体験した。勤めてた飲み屋さんのお客さんで保険の外交員してる方(30代)。俺とは一回り以上離れてたけど、仕事を辞めて同棲して、毎日お金をもらってはパチンコ、麻雀、競輪へと足繁く通ってた。いつものように競輪行くからお金ちょーだいと言うと、彼女は大きなため息をついて、アンタ、私と結婚する気ある?っと迫ってきた。お金欲しさに、お、おぅと答えたんだが、それを聞いた彼女はちょっと待ってて言い、部屋を出て行った。レース始まっちゃうじゃんとやきもきしながら待ってると、封筒を抱えた彼女が帰宅。お金は?と聞くと、コレが最後だからねと、手に持っていたちょっと厚めの封筒を渡された。なんだろと渡された封筒の中身を見ると、そこにはなんと!帯3つ!彼女の覚悟を垣間みた感じがしたので、さすがに使えねぇと思いお金を返し、これではダメだと次の仕事を探しだした。次の仕事と言っても、何のコネもなかったので、またまた夜の世界へライドオン。仕事も見つかり部屋を借りて、彼女とはそこでお別れしました。そして勤めだした店で俺の人生を狂わす出会いがあった。


俺の勤めてる店にある男が来た。一回りほど年上の男だったのだが、同郷であり同じ学校の先輩であったので、俺も心を許してたんだ。ある日、ちょっと相談があると言われ、外で会ってみるとなかなか神妙な顔つき。どうしました?と聞くとどうしても事業をしたいが、お金が足らない。お金を借りようにも保証人が必要と言われて途方に暮れてる。じょにー保証人になってくれないか?迷惑かけないからと頼まれた。俺自身、連帯保証人がどういうもんかわかっていなかった。それ以上に人が人を裏切ることなんて考えたこともなかったんで、軽くいいすよと返事すると、その日のうちに10件のサラ金に連れて行かれた。そこで連帯保証人にされ、その日の帰りに先輩からありがとうと言われ5万円小遣いに貰った。あの時に帰れるなら、俺自身をぶん殴ってやりたいわ。


それから1ヶ月ほどして先輩は逃亡。自宅に電話しても繋がらず、当時はポケベルなるものがあったが、それを鳴らしても電話をかけてきてくれるわけもなく、実家の両親も知らぬ存ぜぬを押し通した。自宅アパートや仕事場には当然のようにサラ金の取り立てが来るのであって、その頃は今ほど法律も厳しくなく、鬼のように取り立てが来てたな。自分の持ってた端した金すら持って行かれる始末で、生活自体にも影響が出てきだしてた。誰にも相談出来ずに1週間ほどが経った。その間、仕事をしながらも俺がこの先取れる手段を模索していた。


①逃げる

②親に助けてもらう

③破産等の手続きをする

④腹決めて払う


偏差値2の頭で考え付いた方法はこの4つ。①と③は論外。悪いことしてないのに、なんで俺が逃げなあかんねん。悪いことしてないのに、なんで俺が破産せないかんねん。②はさすがに今まで苦労もかけてきたし、そこまでのお金もないだろうと断念。ってことで④という結論をだし、各店舗に向かうことを腹に決めた。怖いとこだったららどーしようとかさらわれたらどーしようとかいろいろ考えたが、これも自分の無知が招いた結果であり、ちゃんと出て行って話すれば命までは取られんやろ。よしんば命取られるようなことがあれば、それはそれで仕方ない。そう腹に決めて行動に移した。


ある日全ての店舗に電話をかけ、一軒一軒回っていくようにした。店頭に出向き、そこの店長さんに直談判した。逃げも隠れもしないし、必ず払うつもりですが、現実的に利息をつけられるとムリなので、利息を止めていただきたい。月々いくらか払っていくようにしたいと。仕事も増やすから、なんとか協力していただけないかと、机に頭を擦りつけて懇願した。結果的に話し合いが功を奏し、こちらの条件を丸呑みしていただだいた。二十歳そこそこの若造が言ってることを聞いてもらい、感謝しかなかった。


それからはその期待を裏切ることのないよう、必死で働いた。3つの仕事を掛け持ちし、睡眠時間は平均2時間。何の資格もなく、給料は安かった。家賃や光熱費など必要最低限のものを除き、食費などは極限まで削った。勤めてた店で付きだしが余れば、それを持って帰ったり、お店でお客さんが忘れていったタバコを、自分の吸ってたタバコの空箱に入れたりしてた。そして誰にも頼らずに3年が経ち、見事完済した。最後支払いにいったとこでは、店長さんがよう頑張ったなと涙ぐんで握手してくれました。また別なとこでは根性あるな、ウチに働きにこんか?とありがたい言葉を頂戴した。


次の日は全ての仕事を休み、どうしても食べたかったオムライスとから揚げ定食を食べて、心行くまで寝た。自分で蒔いた種とはいえ、二度とこんな目には会いたくないな。俺はこんな経験をして、お金というものに執着心を持つようになっていった。そして金融、金貸しという仕事に興味を持っていったのであった。


それから数年が経ち、金貸しとして仕事をしてたのだが、いろんなツテを使って俺を騙した先輩をずっと探してた。そんな矢先、先輩が大阪にいるという情報を掴んだ。仕事が休みの土日を利用して大阪に行ってみた。もちろんお金を返してもらう為である。それだけの知識と手段を持ち合わせてるので、キッチリ取り立ててやろうと意気込んでいた。


新大阪に着くと教えてもらってた住所に、電車とタクシーを乗り継いで向かった。着いたが妙にゴチャゴチャした街だった。お世辞にもお金持ってる人が住んでる街並みではないことがすぐにわかった。教えてもらった住所にあるアパートに辿り着き、呼び鈴を鳴らすと女性が出てきた。先輩の名前を出し在宅中かと聞くと、居るとのことなので家に上げてもらった。が、そこで見たのはボーっとした顔で、何も考えてないであろう先輩の姿だった。俺の顔を見るなり怯えた顔に変わり、部屋の隅っこで震え出した。とりあえず女性に話を聞いてみることにした。先輩とは籍は入れてなくて内縁関係。4年ほど前に勤めてた工場で知り合い一緒に住みだしたが、2年ほど前、機械に手を巻き込まれて、左手の指を親指除いて全部失ったそうだ。工場を経営してる会社からは幾ばくかのお金を貰い、そのまま解雇。それからは生活が荒れて貰ったお金も底を尽き、今は自分がスナックに勤めて養ってる状態だという。部屋を見る限り嘘をついてるようにも見えなかったが、その話を聞き気が抜けた。なんかこんなやつを相手にしても仕方ないかなって。アホらしくなって帰ることにした。最後に最大限の脅しをかけて。まぁこれくらいは神様も許してくれるやろ。


アパートを出て今日泊まるホテルへ向かった。ホテルにチェックインして部屋でくつろぎながら、いろいろ考えた。俺を騙したやつが今は金も無く、指まで失ってる。因果応報ってあるんだな。だからといって許せるものではないのだが、これはこれでいい経験になったと割り切った。まぁまぁ高い勉強代だったわな。それを乗り越えて今があるんだしね。


お金なんか無くても幸せになれるって、あれは嘘だぞ。そんなことを言ってるやつは本当の貧乏を味わったことない奴だな。本当の貧乏を味わうと、そんなことは絶対言わない。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。


翌日には帰り、またその翌日からはいつもの日常が始まる。人生を頑張ろう!

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