第8話 2月14日は……
恋と友情って、どちらが大切?
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2月14日は、私こと高根沢ハルの誕生日だ。
そして同時に、セント・バレンタインズデーでもある。
乙女にとってクリスマスに次いで特別なこの日に生まれるというのは、言うまでもなく大変珍しいことであり、これを知った者は誰もが驚きと羨望の眼差しで私を見、意味もなく称賛の言葉を口にする。
そして毎年の誕生日には、多くの友人達が祝福と共にプレゼントをくれたりもする。とても有難いことだ。
ただし。
そのプレゼントって、全員が全員チョコレートだったりするの。
お祝いしてくれるのは嬉しいよ、嬉しいんだけどね。
正直言ってビミョー。ちょービミョー。だって、なんだかバレンタインのついでみたいなんだもん。
しかもプレゼントをくれるのは女の子ばかりで、男の子は誰もそんなことしてくれないし。その女の子でさえ、中には私にくれたのと同じものを義理チョコとして配ってる奴までいる始末。
いくら気の置けない仲良しとはいえ、目の前でそんなことをされると『あんたね、お願いだからそこんとこは気を使ってよ』と、文句の一つも言いたくなってしまう。
あーあ。誰か一人くらい、黒くも甘くもないプレゼントをくれないかなあ。
それも出来れば、かっこいい男の子からとか。
そして今年もやってきた、2月14日。15歳の誕生日。
朝。学校へ着くと、予想通り教室に入ると同時に、クラスの子達が私の周りに群がって来た。
「ハルちゃん、誕生日おめでとう。はい、これ」「ハル、おめでとう」「おめでとう」
「ありがとう、うれしい」「ありがとう」「ありがとう」
にこやかに微笑みながら、次々と手渡される可愛らしい小箱を受け取り、自分の席へと向かう。
そして抱えきれないほどの数の小箱を、よっこらしょと机の上に積み、席に着く。
目の前にそびえ立つのは、校内のどんなモテ男も敵わない、チョコの山だ。うーん、黒板が見えない。
でもこれをすぐに片付けてしまうのは、友人達に対してとても失礼なことだ。
先生が教室にやってくる直前までこうして積んでおくのが、私なりの感謝のしるし。
「ハルちゃんおはよう、今年もすごいね」
「あ、ミサキちゃんおはよう」
クスクスと笑いながら声をかけてきたのは、幼稚園時代からの大親友、大沢ミサキちゃんだ。
「相変わらず、モテモテだね」
「モテモテゆうな。でもさあ、いっつも不思議なんだけど、どうしてみんな朝イチで一斉に私のとこに来るのかな。昼休みとか放課後でもいいじゃない、ねえ?」
「えー、わからないの?」
「えっ、ミサキちゃん理由を知ってるの?」
「だって、ほら……今日はアレでしょ? 最初にハルちゃんに一つ渡しておけば、本番に備えて度胸がつくじゃない?」
「練習台かよ」
まさか、そんな身も蓋もない理由だったとは。
「どおりで、放課後になると誰もいなくなると思った」
「まあまあ。はい、ハルちゃん誕生日おめでとう。私からのプレゼントだよ」
ミサキちゃんがそう言って差し出してきたのは、小振りの紙袋。
「うん、ありがとー」
この子がくれるのも、毎年決まってチョコレートだ。
でも、ミサキちゃんのは特別。彼女は義理チョコなんか配ったりせず、かと言って本命を渡す相手もいない。いつも私一人だけのために、手作りしてくれるのだ。
ああ、これぞ真の友情の証。
でも、あれ? 今年のはいつもと違うぞ。袋の手触りが箱っぽくなくて、何やらフワッとしている。
「ん?」
貰ってすぐに開けるなんてちょっとはしたないけど、つい袋の中を覗き込んでしまう。
するとそこには、毛糸の塊らしきものが……。
「えっ、何これ何これ?」
取り出してみると、それは真っ赤な手袋だった。
「うわーっ、すごーい! もしかしてこれ、手編み?!」
「ちょ、大きな声出さないでよ。恥ずかしいから」
「ごめんごめん。でもすごいよー、ミサキちゃん編み物なんて出来たんだー」
「は、初めてやってみたから。あまり上手にできなくて、ごめんね」
そう言われてよく見ると確かに、所々で編み目が荒かったり乱れていたりはするけれど。
でもそれがかえって、一生懸命な手作り感があって。
「とっても愛情を感じる」
「そんな、恥ずかしいよ」
俯いてモジモジするミサキちゃんって、可愛い。
「えー、でも急にどうしちゃったの? ミサキちゃんがこんなことまでしてくれるなんて。どういう心境の変化?」
「ん……、ちょっとね。だって、中学最後のバレンタインだし」
ミサキちゃんが、頬を染め潤んだ目で私を見つめ……。て、まさか。
「あっ、あのっ。ミサキちゃん」
「ハルちゃん……」
ヤバい、なんかドキドキしてきた。
女の子同士でそういうのって、私にはちょっとハードル高いっていうか。でも、ミサキちゃんが相手なら……。
かつてない胸の高鳴りに、私の中に友情を超えた何かが芽生えようとするのを感じて、思わずコクリと息を飲み込む。
ミサキちゃんはそんな私に熱い視線を向けながら、ブレザーの下に隠していたもう一つの紙袋を取り出した。
「実はね……、これ」
「え?」
そう言いながら、その中身を私に出してみせる。
それは、青色の手編みの手袋。私にくれたのと色違いみたいだけど、でも明らかにこちらの方が出来がいい。
「隣のクラスの高城君にあげようと思って。でも、こんな事一度もしたことないから」
「えっ、じゃあ……」
私じゃなくて、高城くん?
ということは、ミサキちゃんにとうとう本命の相手が?
そうか、そうだったのか。
私は椅子から立ち上がり、ミサキちゃんの手をぎゅっと掴んだ。
そして恥ずかしそうに俯く彼女に、ニコッと微笑んで……。
「練習台かよ」
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