第13話

 気がつくと、病室だった。


「これは、奇跡だ」


 医者が、興奮していた。


 部屋を見回すと、両親がいた。


「僕は、もう死んだのでは…、なさそうだね」


「助かったのよ。奇跡が起きて、身体中のガンが全て消えたのよ」


 母親が、泣きながら、笑顔を見せて喜んでいる。父親も涙をこらえられないようだ。


 どうやら、少しだけだが、親孝行出来たらしい。


 しかし、どうしてだろう?


 あの時の輝石は、死神のために使った。いちど消えかけた、死神の身体が再び形をとるのをこの目で、見ている。


 輝石とは、関係ない奇跡だろうか?しかし、すでに全身転移のガンがいちどに消えるなんて、奇跡というには、都合良すぎる。


 しばらく検査を続けるために、入院は続く事になった。


 その夜、ウトウトし始めたとき、眠っているのか、起きているのか、何とも言えない心地よい時間帯だ。


 病室が、急にボウッと光だし、死神が現れた。


「あっ!死神さん。僕の病気が、治ったらしいです。おかしいな、確か輝石の奇跡は、1回ずつでしたよね」


 死神は、いきなり頭を下げた。


「まずは、君にお礼を言おう。私を救ってくれて、ありがとう。本当に感謝している」


 死神は、嬉しそうだった。死神孝行も出来たかもしれない。


「輝石ひとつにつき、奇跡がひとつというのは、事実だ。君が助かったのは、別に理由がある」


 死神の表情が、少し曇った。


「我々の世界でも龍の強さは、特別だ。神の力を押し返し、悪魔の侵略を蹴散らす。まさに無敵状態なのだが、彼らの肉体は、強力過ぎる力に対応するため、千年にいちど、転生する必要がある。火の鳥が、自らの身体を焼くみたいなものだ。ただ、龍が火の鳥と違うのは、転生するとき、別の生き物に侵入する事が出来るということだ」


 死神が、話してくれた内容は、こうだ。


 転生時に侵入した場合、侵入された者の意識は、龍に取って代わられる。龍は、侵入した相手の肉体を乗っとり、その能力を自分の物とする。


 侵入された側の意識が残る事は、ほとんど無い。龍の強靱な意志の力にさからえないからだ。


「しかし、例外はある。それを龍は自殺と呼んでいる。意識を乗っ取られた龍は千年間眠ったままになる。そして乗っ取った相手は龍の力を我が物とする」


 もちろん龍が、目覚め拒否すれば、力は使えない。


 過去いちどだけ、龍の自殺の例があるらしい。


「その時は、巨神族と神との戦争中、仲の良かった神に自らの力を与えるつもりだったようだ」


 それを機に神は戦いに勝利して、現在がある。


「まさかとは思いますが、あの龍が、僕の中に?」


「あの時点で、輝石を探す時間は、無かった

。君の残る命が秒読みだったからね。確かにあれしかなかったのだが…、龍は相変わらず思い切った事をする」


 そうか。あの龍が。


 いつか龍にも孝行をしたいものだ。






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