第8話

「君の望みを叶えるなら、本物の奇跡がいる」


 死神の口調から、関西弁が消えた。


「大きな奇跡を望むなら、方法が無いことも無い。しかし、その世界は、現実世界と同じ時間の進み方をする」


 死神は、いったん言葉を切った。龍と目を合わすと、ため息をついた。


「君の現実世界での残り時間は、あと1週間だ。その間に奇跡の世界へ行き、君の病を完治させるほどの奇跡を見つけなければいけない」


 龍は、鉄路を飛び上がった。


 星々の間を抜けて、降りていく新たな世界は、エメラルドグリーンの海と、青い空。心地よい風に、気ままに流れる雲。


 真っ白な砂の中の鉄路降りた龍は、列車から離れた。


「え!離れても大丈夫なんですか?」


「時間が、無い。始めよう」


 龍は、白い砂を見下ろした。


「この白い砂の中に奇跡がある」


 死神が、話してくれた。

 

「白い砂の中に、ごく少数ではあるが、白い石がある。輝石と呼ばれるその輝く石が、君に、文字通り奇跡をくれる。君の場合は、かなり大きな輝石がいるな」


 探し始めて一時間もすると、どんなにたいへんな事か分かり始めた。


「全く見つからないけど」


「だから、奇跡なんだ」


 僕の愚痴に、死神が応えた。


 龍は、探しながら移動したその巨体が小さく見える。死神も必死で探してくれている。


 僕も再び探し始める。

 真っ白な砂が、目を射る。


 黙って、砂をかき分けて、三日目、ようやく小さな光る石を見つけた。


「駄目だな。そんなちっぽけな奇跡では、君の病は、治らない」


 輝石は、色を持たない石だった。白い砂の中では、砂と同化して、なかなか見つけられなかった。


「これは、どうして僕たちに、奇跡をくれるの?」


死神に尋ねてみた。


「強く握り込んで、強く願えばよい。まあ普通だね」


「じゃあ、この石を握り込んで、最も大きな輝石を見つける奇跡を願えば良いじゃないなかな」


 僕は、輝石を握り込んだ。


「いけない。その願いは、この世界では、危険だ」


 近くにいた龍と死神が慌てて止めてくれたが、間に合わなかった。





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