第7話

「そうでっか。この世界もオモロウございませんでしたか」


 死神が、その端整な顔立ちを曇らせた。


「仕方おまへん。あんさんが、それだけ成長したということですな」


「ゴメンね、龍さん」


 いろいろな場所へ、僕達を運んでくれる龍に謝った。


「かまわないよ。これが私の仕事だ」


 見かけと違って、龍は優しい。


 金色のウロコが、日の光を反射して、まぶしい。


 死神は、黒い縁取りのあるファイルを熱心に覗き込んでいた。


「次は、こんな世界で、どうです?」


 僕は、死神が指し示したページを見ないで、思った事を口にした。


「親孝行をしたい」


 死神がギョッとした。


 龍のスピードも一瞬遅くなった。


 僕は、現実世界での母親の涙や父親が、窓の外を見るふりで、涙をこらえていたことを話した。


「考えてみたけど、僕は親孝行というものをしたことがなかった。特に、この病気をしてから母さんも父さんも泣かせてばかりだったから、死ぬ前にひとつくらい親孝行したいなと思って」


 死神は、黙り込んでしまった。


「やはり、最悪パターンになったな」


 龍が、ため息混じりに言った。


「考えてみてくれまへんか?」


 死神は、空を仰いだ。


「まだまだ成人には、ほど遠いあんさんが死にますねん。こないに親不孝は、おませんやろ。そのあんさんが親孝行とは、矛盾もいいとこでっせ」


 空を仰いだり、頭を抱え込んで、うずくまったり、なかなか忙しい様子だ。


「いいですか、今あんさんが出来る親孝行は、死なない。つまりこの病気が治るしかありまへん。あんさんの状態から完治するというのは、奇跡以外ありまへん」


 死神の言う通りだろううな。


 現実世界のほとんど死にかけている僕の姿を思いだすと、奇跡と言う言葉でも力不足ではないかと思える。


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