第5話

「お気に召しませんでしたか?まあそうでっしゃろな。何もかも思い通りって、少しも面白味が、おまへん。」


 死神の上品な顔が、下品に笑うところは、あまり見られた物ではなかった。


「せやけど、あんさんが、こちらにいてる間に、私も勉強してきました。2年前にあんさんが、夢見ていたことを次の世界では実現しましょう」


 なんだろう?と思いながら、列車に揺られて睡魔に襲われた僕は、寝てしまった。


 次に目を開いた時、僕はベッドの上で、いろいろなチューブと共に寝ていた。


 そうか、現実世界に戻ってきたか。


 そう言えば死神が、言ってたな。


「現実世界に、こちらの世界の記憶が持ち込めるようになると、いよいよですな。急いで魂の休息世界を探さなあきまへん。そうなったら、この死神にも教えてもらえまっか」


 関西弁には、そぐわない端整な顔立ちを思いだすと何故かムカつく。


 口を開いてみる。


「心配しないで」


 まだ、話せるようだ。


「僕が死んでも、楽しい世界を一生懸命用意してくれている死神がいるから、心配しないで」


 しかし、この言葉は伝わらなかった。


 向こう側の世界の事は、伝わらないのだろう。


 涙をためた目で、母さんは、僕を覗き込んでいる。


 父さんは、窓の外を見上げている。


 それだけの事で、とても疲れた僕は、目を開けていられなくなった。


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