世界はわれわれ次第である。われわれが落ち込む時、世界もうなだれているように見える。
そうしてピクシーさんの呼びかけをきっかけにこの場に居る全員でお話し合いが行われました。
そこではモンスターさん達から沢山の意見が出されました。
・御伽噺の言い伝えはやっぱり恐い。
・本当に未来を変えられる根拠が何処にもない。
・何かあってからじゃもう遅い。
それは当然の意見でした。
ですが、その一方で、こんな声も上がりました。
・例えば、御伽噺の言い伝えにある『よくない事』が起きなければ、どう思う?
・それは考えるまでもなく、この子を救いたい!!
──それは、そこに生まれた小さな光明です。
モンスターさん達は自らの手でその小さな光を見つけ出すと、次から御伽噺の何が具体的に恐いのかという事について話し合っていきます。
・恐いのは人間達が森を襲って来たからだよね。
・別に魔女と妖精が絡んでいた事は悪い事とは関係ないよね。
・じゃあ、よくない事って人間達が原因で起きる『何か』の事でしかないよね。
そうやってどんどん御伽噺と真剣に向き合って掘り下げて考えていく内にモンスターさん達は一つの結論へと辿り着来ます。
・じゃあ、人間という脅威に負けないくらい自分達が強くなれば何も恐くないよね。
・その為の方法、変わる為に必要な言葉なら、変える能力を持ったしろうさぎさんが知っているよね。
・そしたら全部まとめて、解決じゃん!!
──カンカン。
高らかな小槌の音が森の中へ響くと、その結果をリリパットちゃんが伝えます。
「それでは、満場一致ということで、私達は今からもっともっと強くなるので、ここに森の新しいお仲間さん『魔女子さん』を迎え入れる事を決定致します!!」
──カンカン、カンカン!!
───おぉおおーー。パチパチパチパチ。
その宣言に沸き起こる盛大な歓声と拍手。
最初の時とは違い今はモンスターさん達の顔はやる気と笑顔で満ち溢れています。
それはお互いの気持ちを素直に話して、ちゃんと聞いて、考えた先で。
新しい解釈が生まれた、そんな瞬間でした。
その光景を目の当たりにして、しろうさぎさんはピクシーさんにだけ聞こえる小さな声で言います。
「……ありがとう」
その言葉にピクシーさんは返します。
「ん? 何が?」
その言葉にまたしろうさぎさんは答えます。
「私の想いも、これから先の未来も、この森のみんなの笑顔も、その全部をピクシーさんが繋いでくれたから……だから、ありがとう」
「ふん。まぁ、あれね、私はこの森の案内人さんですから? そんなのあたりまえに当然な事で? ……って、でも、そうは言っても、うさぎ。嘘をついて、隠し事をしていたのは本当に悪い事をしたって思ってる。ごめん」
「……うん。でも、そのお陰で色々な事を考えさせられたし、色々な事にも気づけたから……だから、今回だけは特別。今度からは隠さなくて良いから、私もちゃんとお話聞くから、だからちゃんと言って欲しい」
「……ええ、そうね。わかったわ、次からはそうするようにするわ。やっぱり正直が一番楽ね。嘘つくと後々になって本当面倒くさいったらありゃしないんだから」
「うん。本当、そうだね」
「それに──」
「ん? それに?」
「それに。繋いだっていうなら、私じゃないわ。繋いでくれたのは、あの娘よ──」
そう言ってピクシーさんが視線を向けた先に居たのは、みるみるたくましさを増していくリリパットちゃん。そんな彼女の姿を見てしろうさぎさんも静かに頷きます。
「うん、そうだね。リリパットちゃんはホント……凄いや」
何か一つをきっかけで何かが大きく変わっていくように。
それは何もその物事一つだけの事ではない。
今のリリパットちゃんがそうであるように。
当時、弓を上手く引けなくて自分に自信を持てなかった小さなリリパットの女の子は。
あの日、ひとたび弓の引き方を覚えただけで。
今ではその弓だけではなく性格までも大きく変えるまでに成長してみせたのでした。
「──ピクシーさん……だからきっと、私達が選んだのはこういう事なんだよね」
「は? なにが? またあんたも唐突ね」
「うん。だからね、きっとあそこに居るリリパットちゃんみたいに、ピクシーさんの言葉をきっかけに私達が変わる事を選んだ先で、その未来は大きく形を変えていくんだろうなぁって……」
「まぁね……で、それをあんたの得意な言葉で言うなら?」
「え? えっと、それは、だから……」
慌ててペラペラと本を捲ると開かれたページ。
しろうさぎさんはそこに書かれていた言葉を読み上げます。
「世界はわれわれ次第である。われわれが落ち込む時、世界もうなだれているように見える。かな」
「ふーん。ま、確かにね。世界は私達次第で如何様にも変わる……か。良いわね、気に入ったわ、その言葉」
「うん。ありがとう……って、あっ?」
「ん?」
しろうさぎさんとピクシーさんが見つめる先、そこにはリリパットちゃんに連れられ小さな切り株の上にスライムさんを抱えたまま立ち登る一人の女の子、魔女子さんの姿。彼女は緊張と恥ずかしさに押しつぶされそうになりながらも、温かなモンスターさん達の姿を見るとにっこりと可愛いらしい笑顔を浮かべて言ったのでした。
「み、み、み、みんな。どうも、ありがとう。きょ、今日から宜しくお願いします!!」
そうして一際大きな祝福が少女を包み込むと魔女子さんは満面の笑顔でそれに答えます。そしてそんな中、悩めるゴブリンさんがある事に気づくと驚きの声を上げたのでした。
「って、今、何気にボク達みんな、魔女子さんと言葉通じてますよね!? ま、魔女子さん、すげぇ……」
「──確かにっ!!!!」
触れて来たもの。
触れて来なかったもの。
これから触れていくもの。
そこには向き合って手を伸ばして触れてみて初めてわかることがあるように。
これからどんな沢山の不思議がそこに待っているのか。
今、この森は文字通り希望の中にあったのでした。
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