【第七話】 今ここにある、『ずっと』。
──この森に新しいお仲間さんの魔女子さんを迎え入れてから一つの季節が過ぎた頃。
この頃にもなると、魔女子さんはもうすっかり森のみんなと仲良しになっていました。辺りの木々もすっかり真っ赤に染まった森の中、風に吹かれ目の前を舞ったのは一枚の綺麗ないろは紅葉です。
「──っと、えいっ、と」
──ぱしっ。
小さな体でジャンプ一番、空を舞ういろは紅葉を掴んだのはリリパットちゃん。
「よしっ!! 掴んだぁ」
「すごいすごい!! リリパットちゃん、すごぉーーい!!」
「──えへへ。しょいと……はい、魔女子ちゃん。これ」
目の前に差し出されたいろは紅葉を魔女子さんは興味津々で受け取ります。
「……わぁ、ホントに綺麗だなぁ……いろは紅葉……あっ、それに、一、二、三、四……五。なんだかこれ私の手のひらみたい……」
「あ、本当だ。不思議だねぇ。魔女子ちゃんの手のひらと同じ葉っぱの形、なんだか可笑しいね」
「うん!! 可笑しい!!」
そんな何でもない会話に溢れる笑い声。その場にはゆっくりと柔らかな時間が流れて行きます。するとそこへぴょんぴょんと跳ねながらやって来たのはスライムの皆さん達です。
「魔女子さん、魔女子さ〜ん!!」
「え? あ、スライムくん達だ!! な〜にぃ!?」
魔女子さんの近くまでやって来たスライムさん達が近くにあった切り株の上に拾って来たものを置くとそれを見た魔女子さんは再びその目を大きく見開き輝かせます。
「……わぁ……スライムくん、何これ、可愛い……」
「でしょう。これはね、どんぐりって言うんだよ」
「どん、ぐり……?」
「そう、どんぐり。魔女子さん、ちょっとそれを両手で包んで振ってみてよ」
「う、うん……」
──カラ、カラ、カラン。
「うわぁ……音だ、音が鳴ってる!!」
「うん、そうなんだ。どんぐりを振るとね、たちまちみんな演奏家になれるんだ。それに、どんぐりの大きさや、数を変えたりするとまた違う音が聞こえてくるんだよ。なんだか魔女子さんの使う魔法みたいで楽しいでしょ」
──ジャラ、ジャラ、ジャラン。
──ガラ、ガラ、ガラン。
「うん!! すっごい楽しい!! どんぐりさんって、すごいなぁ。私は今、音の魔女子です!! あ、ねぇねぇ、スライムくん。そこにあるのは──」
魔女子さんにとってこれほどまでに季節に包まれた時間は今までありませんでした。
もちろん、春の桜の花と香り、夏の緑と蒸し暑さ。
秋の紅葉と夕焼けに、冬の雪とその寒さは知っていましたが。
街の中では触れられなかったものが沢山この森にはありました。
「すぅーーっ……はぁーー……」
魔女子さんは両手を広げ全身で季節を感じると笑顔を浮かべます。
「なんか胸がソワソワってする感じがして、でも嫌じゃない、秋の空気!! 私は秋が一番好き!!」
そんな魔女子さんの姿を見て同じように笑顔を浮かべるモンスターさん達。そこへゴブリンさん達を引き連れて森の案内人さんのピクシーさんがやって来ました。
──ゔぁ、ゔぁ……ゔぁ!! (全体……止まれ!!)
「……まぁた、あんた達か……リリパット、スライム。そうやって魔女子と仲良くしてくれるのは嬉しいんだけどさ、自分達の修行の方は大丈夫なわけ? いざっていう時に役に立たないとか言わないでよねぇ、お願いだから」
そんなピクシーさんの言葉を聞いて先ず反応をしたのはリリパットちゃん。
彼女はサッと弓を構えると背中の矢筒から三本の矢を取ると弓に掛けます。
そして……
──シュッ。トトトン。
彼女の手から射られた矢は正面の木に見事に三本とも
それから次にスライムさん達はお互いに顔を見合わせると。
一箇所に集まって……
──ドーン。ボヨヨヨ〜ン。
「ど〜ですか〜。ピクシーさ〜ん」
一まとまりになったスライムさん達は合体して大きなスライムさんになります。
「──うわ、何それ、デカッ、キモッ。……でも、まぁ、わかったわよ……要はあんた達、修行の方は大丈夫だって私に言いたいのね……」
「えっへんへん、そのとおりで〜す」
大きくなって低くゆっくりになった声で答えるスライムさん。
その光景を見て言葉を失う一匹と一人、リリパットちゃんと魔女子さん。
彼女達は抑え切れない衝動に駆られると、勢いよくその体に向かって飛び込んで行ったのでした。
──タタタタタ、ドーン!! ボヨーン、ボヨーン……
「きゃーーっ、気持ち良い!!」
「スライムくんが、ボヨヨンだーー!!」
「……はぁ。もう、まったく、あんた達は……」
そうしてそれから暫くの間、そこには弾む音と歓喜の悲鳴だけが響き渡っていたのでした──
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