第15話 デート

「それでは、帰りのホームルームを終了する。皆、気をつけて帰るように。」


中牟田先生の言葉が終わると、生徒達は一斉に、各々の動き出した。


「幸信君、それじゃあ行こうか。」


「うん。」


本郷と幸信は、約束通り、今度のコンテスト用のドレスを新調するために、日本橋のデパートに行くことにした。


「わー広いね。見てみて、エレベータがレトロ仕様だよ。大正デモクラシーだよ。エレベータガールもまだいるよ」


日本橋のデパートの内装は、建設当時を維持しており、大正時代のきらびやかな雰囲気を保っていた。それに触発されて、本郷のテンションも急上昇していた。


「本郷さん、落ち着いて、ドレスのお店は5階だね、さあ行こう。」


ドレス店に到着すると、様々なドレスが、荘厳さを醸し出していた。幸信は初めてこのようなお店に来たため、とてつもなく緊張していた。


「じゃあ、ちょっと選ぶね、幸信君も選んでもいいんだよ。露出度が高い服だと恥ずかしいけど、幸信君が着て欲しいなら、そういうのでもいいよ。」 


「もう、本郷さんからかわないでよ。」


少し幸信をからかった後、本郷は店の奥までドレスを選びに行った。幸信は、本郷がドレスを選ぶまで、周りのドレスを物色した。


ふと、近くにあったスケスケの淡い青のスレンダーライン型のドレスを手に取った。


「え、これ、6万円!?」


「彼女さんようにお気に召したドレスはありましたか?」


幸信が思わず大きな声を上げると、それにかこつけて長身で綺麗な店員が話しかけてきた。


「あ、いや、すみません、ちょっと値段に驚いてしまって。」


「こちらは、刺繍が多く、一部金糸が使われておりまして、シルク部分もある豪華な造りになっているため、高価になっております。彼女さんは腰回りが引き締まっていましたので、こちらのドレスよくお似合いになると思いますよ。」


「あはは、そうなんですね。勉強になります。」


——本郷さんは、彼女じゃないんだけどな、誤解されてるな、気まずい


「あ、幸信君、これとこれどっちがいいかな?試着してみるから選んでね、あのこのドレス試着してもいいですか。」


「もちろんです。ではこちらにお越しください。」


本郷は試着室に入るとドレスを試着し始めた。


——パサ


試着室のカーテンが開くを、目の前に、肩が全部でて、胸元も少し開き、少し胸が見えているドレスを着た本郷が出てきた。


「どうかな幸信君、少し刺激が強すぎるかな。」


「ほ、本郷さんそれは、その、ちょっと開きす——。」


「えへへ、やっぱりちょっと胸元が開きすぎだよね。もう一つの方に着替えてみるね。」


カーテンを閉め、本郷はもう一着のドレスの方に着替え始めた。


——パサ


再びカーテンが開くと、白よりの水色で、刺繍が綺麗に施され、肩は全部出ているが、胸元は閉まっており、スレンダーライン型で腰まさりがキュッと閉まったドレスを着た本郷が立っていた。


「綺麗 ‥‥‥。」


幸信は、一瞬、目と心を虜にされ、本音がポツリと出てしまった。


「そんなこと言われたら、幸信君、照れるよ。」


「あ、ごめん、その、だけど、本当に綺麗で似合ってるよ、こっちの方がいいよ。その、白いばらの刺繍もすごく可愛いと思う。」


「やっぱりそうだよね、この刺繍かわいいよね。じゃあ、これにしようかな。お値段は、まあ予算の範囲内だしね。」


「いくらくらいするの?」


「えっとね、3万円かな?」


「高!!」


「まあ、ドレスってこれくらいするものよ。それに、このドレスは幸信君が選んでくれたドレスだから、プライスレスで3万円じゃ足りないくらいだから、いいの!」


「まあ、本郷さんがいいならいいけど。」


本郷は、ドレスを脱ぐと、服に着替え、会計した。


帰り道、本郷の気分は最高潮でルンルンであった。


「幸信君、今日はドレス選びに付き合ってくれてありがとう、何か食べてく?デートだから、どこに行ってもいいよ。」


「デートってうちら付き合ってもないんだから、それに、今日は、もう7時だし帰ろ。明日から練習もあるし。」


「え〜、まあ、そうよね。じゃあ、帰ろっか。」


こうして、二人は南北線の駒込駅まで一緒に帰り、そこで別れた。


——————

家に帰り、今日買ったドレスをハンガーに掛け型崩れしないようにしていると、本郷家のインターホンが鳴った。


「ごめんください、重要書類をお渡しに参りました。」


「少々お待ちください。」


本郷は、重要書類を持ってきたという男に怪しさを感じながらも、家の門を開けると、黒尽くめの男が立っていた。


「どうも、本郷結衣さんのお宅でしょうか。」


「はい、私が本郷結衣ですが。」


「それは良かった、それではこちらの書類をお受け取りください。十分に注意しながら読み、期日までに準備を済ませていただきますと幸いです。それでは、失礼します。」


そういうと、黒尽くめの男は、静かに去っていった。


そして、その日から本郷結衣は、学校を欠席するようになった。


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