第二章

第16話 欠席

次の日、本郷は学校を欠席した。


幸信は黙々と、朝、昼、放課後と本郷とコンテストで一緒に演奏する予定のリストの「愛の夢」を練習した。


アプリで本郷にメッセージを送ったが、一向に返事が帰ってこなかった。


まあ、明日になれば連絡ぐらい来るだろう、そうたかをくくっていると‥‥‥


その次の日も、本郷は学校を欠席した——


「幸信〜。」


教室のドアから幼なじみの神楽優里の声が聞こえてきた。


「結衣ちゃん今日もお休み?」


「優里か、そうみたいなんだよね。連絡も繋がらなくて‥‥‥。」


「幸信もそうなんだ、私も心配だったから、連絡してみたんだけど、全く繋がらなくて、一体どうしたんだろう、あ、幸信、さては、エッチなことしたんじゃないでしょうね。二人っきりの時に。」


「い、い、いや、そんなことするわけないじゃないか!」


「そうよね、幸信にそれくらいの甲斐性があるならば、今頃もっと進展してるわよね。」


「もう、大きなお世話だよ。」


「それにしても心配ね。あ、そうだ、今日放課後に、本郷さんの家に寄ってみない!?私この前、家の場所教えてもらったんだ、お見舞いに行こうよ。」


「え、急にいったら迷惑じゃないかな。」


「そうね、やっぱり迷惑かな、だけど、少しだけ存在確認だけしに行こうよ、しかも、幸信が覚えているかわからないけど、地元の花火大会じゃん、もし本郷さんが元気なら、一緒に観に行きたいしね。」


「あ〜今日花火大会だったんだ、もうそんな時期か。」


「あ〜やっぱり忘れてる、てっきり本郷さんを誘ったものだと思ったのに。」


「え?自分が?本郷さんを誘うなんて、身分不相応だよ。」


「幸信、過度な謙遜は見てて、苦痛よ。まあ、今日放課後空けといてね、正樹にも伝えておくから、一緒にお見舞いに行こう。」


半ば強引に採決すると優里は、自分の教室に駆け足で戻っていった。


——本郷さんのお見舞いか、こんなこと思っちゃいけないんだろうけど、なんだか嬉しい、何買ってったらいいかな。


幸信は、突然の決定に戸惑いながらも、心がほのかに弾んでいた。


————————

放課後、幸信と優里、優里の彼氏で幸信の幼なじみの正樹は本郷の家に向かっていた。


「えっと、こっちの角を曲がって、ここをまっすぐ行くと、あ、ここの家だと思う。」


と、目の前には大豪邸が建っていた。


「優里、本当にこの家であってるんだよな。」


正樹が挙動不審になりながら、優里に尋ねた。


「うん、そのはず、いい?インターホン鳴らすよ。」


ピンポーン


インターホンは意外に普通の音だった。


「はい、本郷ですが、どちら様でしょうか。」


「あ、あの、本郷さんの友人の神楽優里と申します。お見舞いしたいと思い、伺わせていただきました。」


「少々お待ちください。」


1分くらい待った後に、門が開き、中から、背広の男性が出てきた。幸信には見覚えがあった、本郷のお父さんであった。


「どうも、今日は来てくれてありがとう。あいにくだけど、結衣は風邪で寝込んでいて、皆さんと会うことができません。私の方から皆様がおいでくださったことは伝えておきます。」


本郷のお父さんは、にっこり笑いながら告げた。ただ、目元にはクマが残り疲れた様子ではあった。。


「いえいえ、いきなり押しかけてしまって、私たちの方こそすみません。あの、本郷さんのお父さん、本郷さんの具合っていかがですか。」


幸信が聞いた。


「結衣は、風邪といっても軽い病状なので、後1日程度お休みになれば復帰できると思ってるんだけど‥‥‥まだ、どうなるかは分からないんだよね。幸信君だよね、君もわざわざ来てくれたのに申し訳ない」


「いえいえ、そんなことありません、こちらこそ急に押しかけてしまってすみません。」


幸信は、そう言いながら手を顔の前で振った


「じゃあ、私たちはこれで、失礼します。結衣さんによろしくお伝えください。ほら、幸信と正樹長居すると迷惑だよ。では、」


優里は、そういって、正樹と幸信の手を引いて、本豪邸から離れていった。


幸信は、優里に手を引かれながら、後ろを振り向き、本郷邸をぼんやりと眺めた。すると、二階のカーテンがヒラリとかすかに動くのが見え、少しばかり人影らしきものも見えた。


幸信は、本郷さんが気づいてくれたなら嬉しいなと心の中でそっと思った。



————

バタン。


本郷のお父さんは家に戻り玄関のドアを閉めた。


「結衣、これでいいのかい?みんなに会えばよかったじゃないか。」


本郷のお父さんは、玄関の隅で丸くなっている結衣に声をかけた。


「今は、そう言う気分になれないの。」


伏し目がちに、無気力な表情をしながら結衣が答える。


「お父さん、これからもう少し結衣を助けるための対策法を考えために、本庁に行ってくるよ。なんとかするから、結衣。」


そう言うと、結衣のお父さんは、バックを持ち家をでて、仕事場に向かった。


「お父さんごめんなさい、私のせいでまた悲しい思いをさせてしまう。幸信君もごめんなさい、練習サボって、今、あなたに連絡する勇気も気力もないの、でも———あなたに会いたい。」


本郷は、ポツリと悲しく呟いた。

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