第17話 五ノ神ファイル

本郷は暗闇の中、テレビだけ付けて横になっていた。


ただ、呆然と流れる映像を眺め続けた。


「本日は東京都花火大会です!天気は晴れ

絶好の花火日和でしょう。」


——あー、今日花火大会なんだ、幸信君と行きたかったな。だけど、もう、無理なんだろうな


本郷は、幸信と夜空に咲く華を一緒に観る空想をした。しかし、もはやそれは叶わないと悟り頬をつたう水が静かに落ちた。



——————


「総務省の本郷です。内閣官房副長官の鶴見さんと面会予約をしておりまして。」


本郷が絶望の淵に立ちすくんでいる頃、本郷の父親は、本郷守は、内閣府に来ていた。


「はい、アポイントメントが確認できましたので、こちらにお越しください。」


受付の人に連れられて、本郷守は鶴見副官房執務室に通された。


「夜分遅くに失礼致します。お時間を捻出していただきましてありがとうございます。」


「本郷くん久しぶりだね。息災だったかな?こちらに座りたまえ。」


「どうも、ありがとうございます。」


「それで、今日はどうしたんだい。」


「あの、鶴見さん、例の通知のことで伺いました。」


例の通知と聞いた鶴見副官房長の眉がピクリと動いた。


「例の通知‥‥‥『生贄通知』か、それがどうしたんだい。」


「それが、その通知が私の娘宛に届きました。」


「なんと無情な因果なことか、それは確かなのか?」


「はい、こちらが実物になります。」


鶴見副官房は本郷守から差し出された一切れの紙を手に取った。


「確かに、君の娘宛の通知だな。どうしてこうなるんだか、以前も君の妻の真白さんにも通知が届いたと言うのに。」


「どうしてこうも、私のとこばかりに」


「本郷君、君はそんなことを言うためにここに来たわけではないだろう。この現状を打破するためにここに来たんじゃないか?」


「はい。そうです。私は、ここで易々と娘を差し出したくありません。どうか、鶴見副官房のお力をお貸しいただけないでしょうか。」


「全力で君をサポートしよう、我々にできることは限られているが、できるだけの手を打とう。君は、五ノ神正人ごのかみまさとと五ノ神奏音ごのかみかのんの夫婦を知っているか?」


「‥‥‥五ノ神?、いえ、存じておりません。」


「二人は、公安調査庁特務課に属して、普段は上界について情報収拾をしていた。そして、第45次上界調査隊隊長と副隊長でもあった。」


「第45次調査隊‥‥‥ってあの初めて亡くなった人がいた調査隊ですか?」


「そうだ、五ノ神正人と奏音は、調査隊で初めて亡くなった調査員であった。彼らは、高千穂の神結神社の境内で亡くなっていた。」


「え?高千穂?宮崎県ですか?彼らは、上界への入口があると言い伝えられている、信州の戸隠神社の調査に向かったのではないのですか?」


「そうだ、報道ではそうなっている。私が情報操作したのだ。その時私は、公安調査庁のトップであり、そして特務課のトップでもあった。信州の戸隠神社周辺を調査していた隊員が何故か高千穂で見つかった。時空を飛び越えたとしか思えない出来事で、これをそのまま報道したならば、混乱が起きるだろうと考え、時の内閣総理大臣に許可をもらい情報改竄したのだ。」


「そ、そうだったんですか。それで、その五ノ神夫妻と今回の件がどう関連しているんですか。」


「今から言う内容は、極数人しか知らない国家一級極秘事項、 口外しないようにお願いしたい。私は、彼らが亡くなった後、彼らの私物を自宅に送るためにデスクを整理していたんだ。その時、一枚のメモ書きを見つけた。そこには、『戸が開く、猿田彦の神に導かれるには資格必須、詳細はファイルVo. 2 page 21』と書かれていた。そのファイルの存在は上司である私や特務課の仲間には知らされていなかった。私は、その五ノ神ファイルは五ノ神夫妻が知られたくなかった上界についての誰も知らない情報や夫婦の死の真相に繋がる情報が載っているのではないかと考え秘密裏に探し続けてきた。しかし、一向にファイルは見つからず、特務課内でもそんなファイルは存在しないのではないかと疑念の声も上がり、捜索は一旦打ち切りになった。だがな、つい一ヶ月前にアメリカのCIAのスパイが日本で五ノ神ファイルを探しているという情報が内閣府にもたらされた。アメリカはどこからか五ノ神夫妻のファイルを嗅ぎつけたらしい。そのため五ノ神ファイルの存在に対する信憑性が上がり、我々はアメリカに取られる前に、もう一度そのファイルを探すことにした。そして、そのファイルが五ノ神家にあるかもしれないところまで突き止めた。」


「そのファイルに、もしかすると、生贄への対処法が載ってるかもしれないと、副官房は考えてらっしゃるのですね。」


「そうだ、だから、本郷君、君は五ノ神家に向かい、ファイルの存在を確かめるんだ。それが、今講じることができる唯一の手だ。」


「分かりました。五ノ神夫婦の自宅は今も存在しているのでしょうか。」


「今は、息子とおじいさんとおばあさんが住んでいるみたいだ。これが住所だ。」


「鶴見副官房、お心遣い誠にありがとうございます。それでは、ありがとうございます。」


本郷守は、足早に内閣府を後にして、鶴見副官房から頂いた五ノ神家の住所に向かった。


鶴見副官房は、本郷守が退庁したことを確認すると秘書官の吉田を執務室まで呼び寄せた。


「吉田、今本郷君が、五ノ神家に向かった。我々が言った時には、ファイルのことは知らぬ存ぜぬと散々シラを切られたが今回は、事がことだけにファイルを出してくるかもしれぬ。いいか、ファイルが存在する事がわかった時、必ず奪取せよ。警察には話をつけておく。行け。」


「分かりました。部下を数人連れファイルの奪取に向かいます。


吉田秘書官は、すぐに本郷守を追った。

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